俺を振ったはずの元カノが、俺を雇って甘えてくるようになったのだが。なぜか他の美少女まで懐き始めた件
空豆 空(そらまめくう)
第1章 元カノが依頼主になった
第1話 元カノが依頼主になった
「こんにちは。今日からバイトの朝倉です! よろしくお願いします!」
今日は俺、
「おっつー! 遅かったね、亮平♡」
「え!?」
語尾にハートマークをつけたような甘い声で俺を出迎えたのは、クラスで一二を争う美少女、
「な、なんでおまえがここにいるんだよ!?」
「だって、ここ、うちん家だし? 家の仕事手伝うの、当然じゃん?」
虹々亜は、ひとまとめにしたアッシュゴールドの髪を揺らしながら、ふふんと得意げに笑った。
(いやいや、家の手伝いが似合うタイプじゃないだろ。カップ麺ですらお湯こぼすレベルの不器用だったじゃん!)
そう思うのに。あっけに取られて何も言い返せない。
「ふふん、驚いた? “看板娘”ってやつだよ。……どう、似合ってる?」
虹々亜は店のロゴが入ったエプロンを俺に見せびらかすようにつまんだ。
「……看板ぶっ壊す未来しか見えねぇ」
「ひどーい! でも、お客さんからはなかなか好評なんだよ?」
「……へいへい。そうでしょうね」
――美少女である虹々亜と俺が、どうしてこんな気安い会話をできるのかというと、子供の頃から兄妹のように育った幼馴染だから。
だけど俺は、内心とても気まずかった。
だって虹々亜は……俺を振った元カノだから。
だというのに、虹々亜は相変わらず距離を詰めるのが上手くて、愛嬌のあるノリで接してくるから、つい飲み込まれそうになってしまう。
せっかく未練を断ち切ろうと思ってるのに。
だから俺は、あえて話を終わらせようと視線を逸らした。
なのに。
「ねえ、それよりさ?」
虹々亜はツンツンと俺の腕を突くと、一枚の紙を差し出した。
「亮平に、指名依頼が入ってるよー?」
「……は?」
「ほら、これ♡」
そこには『依頼書』と書かれている。
(新人の俺に指名? 今日がバイト初日なのに?)
頭にハテナを浮かべながら覗き込んでみると、確かに指名欄に俺の名前が書かれていた。
(一体……誰が?)
恐る恐る書類に目を通していくと、依頼人の欄に丸っこい文字でこう書かれていた。
『蒔田虹々亜』
「……おまえかよ!」
思わず叫ぶ俺に、虹々亜は肩をすくめてにへっと笑う。
「へっへー。亮平の初体験、ゲットー♡」
「……意味深な言い方するなっ。まだ俺は誰にもゲットされてない」
「あっはは。でも、せっかくの貴重な依頼……断ったりなんて、しない、よね? 新・人・君♡」
「ぐっ……!」
まったく、なんでこいつは俺を振ったクセにこうも俺にちょっかいをかけてくるんだよ。
「……俺に、何させる気?」
内心びびりながらジト目で問いかけた。
ここはなんでも屋。ゆえに何を頼まれるのか、想像すらつかない。
すると虹々亜はもじもじと視線を逸らしてから、きゅっとスカートを握りしめて、頬を赤らめながら言葉を発したのだ。
「えっと……ね、勉強、……教えて?」
(……うっ、この至近距離での上目遣いの破壊力。もはやチートだろ、美少女め。何回俺の心臓にストレートパンチをキメてくるんだよ)
なんて思っていることは、どうしても知られたくなかった。
だって悔しいから! だって俺は振られたのだし!
「……は? なんで俺なんだよ。他に頭いいやつくらい、いくらでもいるだろ」
「えー。だってだって、亮平がいいんだもん。亮平じゃなきゃダメなんだもん」
ちらちらっと俺を見つめながらもじもじと言う虹々亜。
(なんだよ、この恥じらうような仕草。こんなのまるで……俺のこと、まだ好きみたい、じゃん……?)
なんて一瞬、期待したのだけど。
「なんでだよ」
「だーって、教えて欲しいの、勉強だけじゃないんだもん」
「はい?」
「だーって、教えて欲しいの、勉強だけじゃないんだもん」
「いやいや、一言一句言い直さなくても聞こえてるからっ。俺が聞き返したのは、勉強だけじゃないって部分。どういうこと?」
まったく、なんだってバイト初日に元カノと漫才しなきゃいけないんだよ。
「えっと、勉強も教えて欲しいし、お料理も教えて欲しいしー。あたしの苦手なこと、ぜーんぶ、教えて欲しいってこと」
「……全部? それは、途方もねえな?」
「……だから亮平に頼んでるの。こんなの引き受けてくれるの、亮平しかいないでしょ? ねえ、一生のお願いだからあああ!!」
虹々亜の目が、妙に懇願しているように見えて。なにより、……可愛くて。俺の中の庇護欲が、どうしようもなく疼いてしまって。
「ああ、もう……わかったよ。やればいいんだろ!? やれば」
俺はつい、引き受けてしまった。
「やったあ! ちなみに、あたしも誰かに依頼したことないから、あたしにとっても初・体・験、だよ♡」
「……だから、意味深な言い方、やめい!!」
「へへっ♡」
まったく。意地でもこんな依頼、引き受けるべきではないはずなのに。
やたら嬉しそうに小さくガッツポーズをした虹々亜の仕草に、つい、心臓が跳ねてしまった。
――この時の俺は、気付いていなかったんだ。
虹々亜が、苦手を克服したいと思った本当の理由も、
あの別れ話の裏にあった、とんでもない“勘違い”も――
「で? 勉強教えるのはわかったけど、どこでやるんだよ?」
「え? もちろん、あたしの家だよ?」
「はあああああ!?」
そんなの、ふたりっきり不可避じゃないか――
少しだけ、甘くて苦い思い出が、頭の中をかすめていく。
俺は虹々亜の部屋で勉強を教えていた時、じゃれるみたいに抱きつかれたことがあったんだ。
本当はその時、男心が疼いたけれど――ヘタレな俺は何もできなかった。
――あれを、またやるっていうの?
振られた俺が? 未練たらたらなのに?
なんの罰ゲームだよ!!
そう思うのに。
少しだけ楽しみにしてしまうのは……なぜなんだろう。
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いよいよ新作長編、スタートです!
明日の公開は12時10分頃の予定。
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