最後の冬

檸衣瑠

引退の日

「今まで、ありがとうございました。」

グラウンドに深く頭を下げる。

引退が残り半年に迫った今日、俺は、一足先に部活動を辞める。





ゆう、部活辞めるってマ?」

「え?何で知って…」

三か月前、新人戦が終わってから少し経った日、最初に聞いてきたのはしょうだった。

「なんかスーパーでうちの母ちゃんが悠の母ちゃんに会って、聞いt……」

「は?え?悠辞めんの?」

「え?なんで?俺ら何か悪いことしちゃった?部活、嫌んなった?」

「みんなで甲子園行こって行ったじゃん!」「いつからうちは野球部になったんだよ」

「冗談郡は置いといて、ほんとなの、悠?」

「なんで俺、郡として巻き込まれてるんだ?」

話を聞いてたメンバーがメンバーを呼び、ものの10秒で事故現場状態になった。

翔ですら会話からあぶれ、修羅場とはまさにこういうことなのかもしれない。

とはいえ、いつか話さなきゃいけないとは思っていたことだし、いずれにせよ迷惑かけるのも事実。

そして何より、こいつらには、どんな結果になってもきちんと話したかった。

「長くなるかもだから、部活終わってから話してもいい?できれば、先生も一緒に」




「悠、医学部行きたいの!?」

「うん。もちろん、今の学力では厳しいし、国公立じゃないと経済的にも厳しいから、すごい大変なのは分かってる。けど……」

「怪我のとき?」

「……あぁ。やっぱり、あの日から、諦められなくて。しんどいとき、励ましてもらって、憧れちゃったから、だから……、挑戦、してみたい。」

「ほんとは、部活、最後まで、みんなと、一緒に、やりたかった、けど、」

目から流れるが、上手く言葉を繋がせてくれない。

「でも、今のまま、続けるのは、やっぱ、厳しくて。母さんと父さんとも話して、年内までは、頑張ろう、って、ことになりました。迷惑、かけることに、なっ、て、ごめん。でも、お願い、します。お願いします…!」


誰一人として茶化すことも、笑うこともなかった。

みんなが真剣に聞いてくれた。自分のことでもないのに泣いてくれるやつもいた。

みんな応援してくれた。励ましてくれた。

大好きだった。ずっと一緒に続けたかった。

本当に楽しかった。



「先生、みんな、本当に、本当に、今までありがとう。楽しかった」

最後は笑顔で終わろう。

引退が残り半年に迫った今日、俺は、一足先に部活動を辞めた。

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