貧民街の片隅にある小さな花屋『フラワーショップ・リリー』。その静けさと香りが、刑事コランダム・ラトラナジュの心をほどく“癒しの場所”になっている…この導入からすでに魅力を感じました。呼び鈴の音、紅茶の湯気、花の匂いといった感覚描写が丁寧で、視界がすっと物語の中に入っていきます。
ロマンスとサスペンスが同居しているのが素敵ですね。コランダムがリリーを心配して不器用に優しさを差し出す一方で、事件現場には黒百合が残され、街では別の殺人鬼まで暗躍している。穏やかな会話の余韻の裏に、常に不穏な気配が張り付いているため、ページをめくる手が止まりません。
キャラクター面では、コランダムの“過剰な正義感”がしっかり芯になっている印象でした。彼がなぜ犯人を殴るのか、なぜ焦るのか。後輩ベリルとの掛け合いもテンポが良く、重い事件描写の中では息継ぎのような明るさが感じられます。そして何より、リリーがただ守られる存在ではなく、花言葉や所作で場を動かす役割を持っているのが印象的です。
また、三人の殺人鬼(黒百合の殺人鬼/薬瓶の芸術家/悪魔の殉教者)を提示することで、街全体が“異常に慣れた地獄”として立ち上がってくるのがワクワクします。
個別事件の怖さだけでなく、「この都市はどこまで壊れているのか」というスケール!
黒百合が象徴するものが恋情と死のどちらへ傾いていくのか。リリーの日記が示す“想い”は真っ直ぐで温かいのに、冒頭の「もう誰もいない」気配が強烈で、どうしても“最悪の未来”を想像してしまう……。
クリスマス当日の約束が、甘い告白になるのか、それとも事件の転換点になるのか。さらに、ロサやアナスが見せる違和感がどのように絡み、三つ巴の殺人鬼構造がどこで一本の線に収束していくのか?
花の美しさと血の臭いが同じ距離にある、静かで残酷な世界観。癒しの花屋に通う理由があるからこそ、そこが脅かされる怖さが際立っています。
この三人の殺人鬼がどのような絡みを見せてくれるのか、どのような事件を起こしていくか。この街自体がまるで主人公のようにも感じられ、いまだにその緊迫感が、心の端に残っています。。。