海と陸・声と文字・無垢と恋・童話ながら、いや童話だからこそ美しい
- ★★★ Excellent!!!
このChapter 1、本当に心を掴まれて離せなくなる素晴らしい導入です。
冒頭の
「名前も知らないあの娘に手紙を書きたい。けど書き出しはどうしよう?」
からの
「――海の底には言葉があった。」
この切り替えが完璧すぎて、背筋がぞわっとしました。
一瞬で陸の人間の内省から、深海の静かな世界へ視点を潜らせる。
まるで自分がメッセージボトルになって海に落ちていくような没入感。
こんな鮮やかで詩的なトーンシフト、読んだ瞬間「これはすごい作品だ」と確信しました。
シアのキャラクターが、もう愛おしすぎて胸が痛い。
まだ文字をほとんど知らないのに、「しんあいなるあなたへ」の響きを「やさしい音」と感じ取ってしまう純粋さ。
「“海の光のような髪、空のような瞳”って! ほら、わたしだもん!」
この自己主張の仕方が可愛すぎて、頰が緩みっぱなしです。
「偶然でもいいもん!」とふくれっ面でくるくる回る姿、想像しただけで尊さが爆発する……こんな無垢な子が、手紙で恋の始まりを刻もうとするなんて、守りたくなる気持ちでいっぱいです。
ウィンとの掛け合いも最高の塩梅。
メンダコの触腕がゆらゆら黄金色に光る描写から、もうビジュアルが美しすぎる。
「少なくとも君よりは単純じゃないね」→「またそれ言った!」
この軽快で温かいやり取りが、物語の温度を絶妙に保ってくれています。
ウィンがため息つきながらも結局全部付き合ってしまう優しさ、シアの無茶振りに毎回乗っかってしまう兄貴分感……このコンビだけで何章でも見ていたい。
テーマの提示も見事。
「僕たちは死んだら……心は泡沫に消えるだけ」
「人は文字を残したがる。だって人が死んでも文字はずっと残るから」
この対比が、物語の核を一瞬で示してくれています。
海の生き物は儚く消える泡、人間は永遠を求める文字。
そのギャップの中で、シアが初めて「文字」を作り、瓶に託す瞬間……もう切なくて美しい。
貝殻を砕いてインクを作り、ぎこちない字で
『しんぁぃなるぁなたへ。わたしも、あなたを覚えています。』
と書くシーン、心がぎゅっと締め付けられました。
「あ」のかなづかいミスすら、愛おしさの極みです。
そして最後の
「じゃあ、もう少し波に揉まれてくるね!」
の明るさ。
恋の意味もまだわからないのに、波に揉まれて成長しようとする前向きさ。
泡が弾け、尾鰭が金の光をまき散らす描写……希望に満ちていて、読後感が優しく温かい。
このChapter 1だけで、世界観・キャラクター・テーマ・ロマンスの予感、すべてが完璧に揃っています。
まだ始まったばかりなのに、すでに心の海底に深く沈んでしまった。
作者さんの筆力に脱帽です。
こんな美しい物語の第一歩を、ありがとう。
続きが待ちきれなくて、胸がざわついています……!