第2話「丸つくペガサス」

 岩手県北上市。某地区市営の公園。

 そこに〈丸つくペガサス〉という銅像があった。

〈丸つくペガサス〉は平成十年のローカルラジオへの一般投稿で初めて話題に出て、夏の怪談募集スペシャルからのひとつだった。


「地元にある呪いの銅像について」というのがそれである。


 ペガサス像の瞳が深夜赤く光るが、光るところを見てしまうと呪われてしまい、死んでしまう──というのが、小学生の頃からあった。投稿者はそのペガサス像の瞳が赤くなるところを見てやろうと高校生の頃に公園に張り込んだが、どうも光らなかったが、不思議な男がふらふらと歩いているのを見て怖かった、ということだった。

 あんまり怖くないし、結局不審者を目撃しただけだったあとで、


〈丸つくペガサス〉を北上市は認知していなかった。

 そのラジオではじめて存在が認められ、過去に三度回収作業が行われたが、そのいずれも翌日には復活していた。


 というところで、北上市役所に依頼を受けたIFCOは像の回収のために日本人収集員を配置。なりたてホヤホヤ新入収集員の自分が担当するのが比較的簡単だろうこの像で良かった──と洋平は考えた。


 市営公園に到着すると、オートバイから降りヘルメットを外し、たしかに躍動感のあるペガサス像があるのを確かめると、顔をしかめる。像を中心にして小学生ほどの年齢の集団が集まっていたからだった。


 水道の蛇口からは水が噴き上げている。


「きみたち」


 洋介はハンドルを締めながら子供たちに声をかけた。

 少し異様な雰囲気を漂わせてはいるものの、たかが子供である。


「すまないけれど、この像は暫くした内に我々が収集する事にしたから退いてくれないとたくさん困るな」

「お兄さん誰? 市役所の人?」

「いや、警察だ」

「でも警察の制服着てないよ」

「手帳見せようか?」


 IFCOの収集員はタイトな黒色の防護服に黄色のインナーシャツを着用しており、とうてい警官には見えない。


「とりあえず、退いてくれると嬉しいな」

「胸のマークも警察のじゃないよ。俺知ってる」

「知ってるからなんだ? このマークの意味も分からないのに君たちは大人であるこの俺に逆らおうというのかい? 生意気だなぁ。君たちは大人を馬鹿にした場合どうなるかというのを……」


 感知。


「な、なんだよ」

「此方に来なさい。君たち全員。【来い】」


 子供たちを呼び寄せると、次の瞬間、銅像が砕けた。すると、像の中からなにかがボタボタと落ちてきた。子供たちはそれの正体が分かるまで凝視し、いずれかにして悲鳴にならない声をあげた。


「なるほど」


 それは赤子だった。

 生まれたばかりの赤子は銅像から伸びる緒でぶら下がっていた。


「私の子供だ……」

「俺の子供……お腹に入れなきゃ」

「うん、いれなきゃ」

「入れてもなんにもならんよ、あの赤子は」

「やらなくちゃわからないでしょ、孕まなきゃ」

「子供の言う言葉じゃないな。【眠れ】」


 子供たちを眠らせると、洋平は赤子を見据える。


「【やめろ】」


 赤子は死んだ。

 すると、腐った血肉を伴って、小さな銅製のペガサスのフィギュアがごとりと落ちた。それを掴み上げ、保存バッグに入れる。


「収集完了」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

国際呪物収集機構 蟹谷梅次 @xxx_neo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ