届かない青の下で
天気
1話
学校のチャイムが響いた、はずだ。
足音が鳴るように、それはただの雑音に過ぎなかった。
記憶力のない僕には、覚えられない。
肌寒くなってきた10月。
僕は、いつも通り一人で昼食を食べていた。
弁当の中には、僕の好きなハンバーグがどっしり構えている。
昨日は、唐揚げだったっけ。
いつものメニューであり、チャイムのように忘れてしまう。
「ねえ、何描いてるの?」
え?
顔をなんとか固定したが、思わず横を向いてしまいそうだった。
隣の有野が、マドンナの立田さんに声をかけられている!
「犬、アンテナ、寿司だな」
今度こそダメだった。
顔をを動かして、がっつり見てしまった。
彼の絵を。
なんだその独特なラインナップは。
しかも全然わからないじゃないか!
どれが寿司でどれが犬かぐらい区別をつけて欲しい。
その水色はどこから出てきた?
子供が描いた似顔絵とも似つかない、何かだ。
「へえ〜そうなんだ。素敵だね」
さすがはマドンナ、と思った。
声色ひとつ変えずに褒めるとは、世渡り上手である。
「それだけ?」
「え?」
有野は、立田さんにしっしと手で追い払う仕草をしてた。
「じゃあね」
多分、この記憶は3日間は残っていると思う。
隣の奴があまりにも失礼なやつで、あまりにも変な絵を描く奴ということがわかった。
僕が願うのは席替えのみだった。
「お前、何?」
「えっ!?」
気づいたら、僕は彼の絵をずっと凝視していたらしい。
「あ、ごめん」
すぐさま視線を外した。
まるで犬を追い払うかのような仕草をされたら嫌なので、できるだけ早く。
なんだろう。
何かに似てる気がする。
ああ、そうちゃんだ。
有野の絵が、通学路でよく散歩されてる犬に似てるんだ。
弁当を食べ終え、そーちゃんの絵をかいて、隣の絵と見比べてみる。
いや、どちらも似てない。
特に、有野の方が。
本当に毎日隣で絵を描いてる奴なのか?
「お前…その絵、そばちゃん?」
隣の奴が、声をかけてきた。
「え、うん」
珍しく.有野は驚いた顔をしていた。
「俺の絵が似てたからかいたの?」
「うん」
有野はどん、と机が叩いた。
「お前」
ずっと圧がすごい。
「俺の絵、他のやつはわかる?」
「いや、わからないけど…」
そうか、と有野は呟いて、俺の両肩を掴む。
「おまえ、やるな」
何が!?
彼はご機嫌がいいようで、見たこともないほど顔が輝いている。
「サインいるか?」
一瞬、本気で言ってるのかと思った。
「結構です」
勘弁して欲しい。
「あー、智田だっけ?。お前放課後残りな」
なんだろう。すごく寒気がする。
どうやら僕は変な奴に捕まってしまったみたいだ。
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