幸せの尺度

Wall Gatsby

幸せの尺度

我々が話をしているときに、その男は割り込んできた。

「いや、うちの坊主が寝不足でさ・・・」

おまえ、一体誰なんだ、と私は聞いた。

「いや、そこら辺のただの男です。」彼は答える。

おい、我々が話をしていたんだぞ、と私は彼の肩をどつく。

「すみません、すみません」

驚いた男はひるんで、縮み上がって、死んでしまった。

「で、何の話をしていたんだっけ」

そうそう、我々は我が党の行く末について、価値ある討議を交わしていたのだった。


死んだ男を片付けるのは、簡単なことではなかった。

我が友が、裏のビルのゴミ捨て場にあるずた袋を持ってきてくれた。その間に私は男の首を、アイスピックでめった刺しにして、ちぎれやすくなった首を、椅子の脚で押しつぶして(薄っぺらいのに、首の骨だけ太い奴で、切断するのは容易ではなかった)、頭と胴体の2点に分解した。腕と足も、それぞれアイスピックで刺しまくって、同じように椅子の脚で潰して切断した。なぜ私がアイスピックを使うかって? それしか持っていなかったからだ。ビールに氷を入れてのむのが我々の習慣で、凶器となる物は、氷を砕くべく用意してあったそれしかなかったのだ。

男を袋に詰めると―血の海が広がり、恐ろしい生臭さに耐えきれなかったが―相棒は我々の居たバーの奥から強い焼酎を持ってきて、死人の上からドボドボと振りまいた。火を付けようとしたその時、死人が声を発した。「うぐぅぅ、ひゅうぅう・・・」



そして、我々は、警察に取り囲まれる夢を見た。赤く光る棍棒が視える。制服に身を包んだ男の一人が、私の肩にその棒をそっと当てる。彼らにも優しさはあるのだ。殺したいほど憎んでいたその組織は、暖かい刑務所へと私を誘う。あれれ、、相棒は? どこだ?


我が友は、既に死んでいた。自殺したのだ。アイスピックを喉仏に突き刺し、「キュッ」という呻きを上げて、白目をむいて、死んだのだ。刺したその瞬間、喉仏から細い一筋の血が勢いよくほとばしる。私はその血を浴びていた、浴びている。ああ、神よ、私を許してくれ。


この愛の重さに耐えられるのならば、何をしてもよい。そう思った。

だから、何もしないことにした。


終わり

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