手に入れたのは剣になる女の子

亜亜亜 無常也

第1話

 自然発生した小さな迷宮ダンジョン

 生まれたてなので名前はなく遅かれ早かれ消滅する。

 

「随分と粘るな」

「もう諦めたらどうだ?」

「後数分は持ってくれよ。じゃねえと賭けに勝てねえからな」


 そこでは多勢に無勢の戦い……否、甚振りがおこなわれていた。


 多勢は六人。

 全員が男。黒白目が特徴で、青や緑に光っている。

 青に光っているのは四人。それぞれ手に槍、斧、ボウガン、ナイフを持っている。

 緑に光っているのは二人。他生物の特徴が出ており、片方は獣耳と尻尾、もう片方は昆虫の触覚と鋭い爪を持っている。

 そして、全員が戦っている訳ではなく、半分程は観戦していた。


「……ハァ、ハァ、ハァ」


 無勢は一人。

 体型と服装から十代中頃の少年に見えるが、少女と言っても通じそうな顔と背丈をしている。

 手には剣を持って奮戦しているが、体中傷だらけで今にも倒れそう。

 そんな状況下でもその眼は死んでない。どうにかこの場を切り抜けようとしている。

 

 そんな状況が突如一変する。

 

 ――何かが割れるような音。


 全員がその方向を向く。そこの空間に亀裂が空いていた。

 そこから出て来たのは黄金の片刃剣。

 それは一瞬で姿を変える。


「……ここはどこかしら?」


 それは少女。年代は少年とあまり変わらない。

 長い髪と黄金の瞳を持った綺麗とも可愛いとも言える顔をしている。

 そして、下着や水着同然の軽装をしており、腕、臍、太腿が剥き出し。

 辺りをキョロキョロと見渡していたが、多対一の戦いがおこなわれている所で目線が固定。

 いきなりの乱入者に他の面々も呆然としていたが、少年がいち早く起動し、少女に呼びかける。


「逃げろ!」


 その言葉に男達が我に返る。

 そして、観戦していた一人が手に持ったボウガンを向ける。


「俺達の仕事を見ちまうなんてな。運が無かったな嬢ちゃん」


 引鉄を引くと矢が放たれる。

 だが、その矢は少女に当たらなかった。

 ただ首を軽く曲げただけで避けてしまった。

 自身に弓を向けた人物を見て少女は口を開く。


「……いきなり撃って来るなんて失礼ね」


 そして軽く腕を振るう。


「何w」


 ボウガン男の首が吹っ飛んだ。

 当然の如く絶命。


「タ、タナベー!?」

「い、いきなり殺しやがった!」

「何しやがるんだ! テメエ!」

「……何を言っているの?」


 騒ぎ立てる男達に少女は冷静に告げる。


「撃って良いのは撃たれる覚悟がある奴だけでしょう?」


 至極当然の事。

 それにと言葉を続ける。


「一対多数が卑怯とは言わないけど……」


 少し間を開けてから口を開く。


「その状況……どこからどう見てもあなた達が悪党よ」


 そして少年の方を向いて告げる。 


「助太刀するわ。それとm」

「ありがとう!」


 少年は間髪入れずに返事をする。

 それに少女は一瞬面食らうがすぐに口元に笑みを浮かべる。


「どういたしまして。……と思ったけど」


 少女は少し呆れたよう続ける。

 どことなく雰囲気が柔らかくなっている。


「あたし一人でやるわ。きみは休んでなさい」

「え。でも……」

 

 心配そうな少年に少女は微笑む。


「大丈夫。この程度一人でも十分よ」


 その言葉に男達が色めき立つ。


「舐めんじゃねえぞ糞アマ!」

「達磨にしてから犯して殺してやる!」

「不意打ちが上手くいったからって良い気になるな!!」


 そう言って襲い掛かる男達。

 観戦や賭け事をしていた者達まで立ち上がり襲い掛かる。

 それに少女は正面から迎え撃つ。


「……フン」


 再び軽く手を振るう。

 

「アギャ!?」

「ぐわ!」


 前方の二人を一気に両断。

 それは飛ぶ斬撃。先程も使った技。

 ただし先程よりも威力は高い物。


「反応が遅い」


 少女が敵陣に飛び込む。

 その周囲に彼女と似た意匠の剣が二本現れ浮遊する。

 それが少女の動きに連動して男達に襲い掛かる。


「この……ギャ!」

「糞。離れ……ぐわ!」


 剣は着実に相手の命を刈り取っていく。


「綺麗……」


 少女の動きはまるで踊りのよう。

 軽装なのも拍車をかけまるで踊り子の様。

 少年は見とれてしまう。

 あっという間にその場で立っているのは少年と少女だけになる。


「フウ……」


 少女は残心。剣が消える

 そうして少年の傍に歩いて来る。


「終わったわ。きみは平気? ……傷だらけだけど」

「あ、ああ。どうにか」


 少女の問いかけに答えながら少年は返事をする。

 実際、相手が自分を甚振るようにしていたおかげ(?)か、致命傷に届くものはなく、回復薬(安物)を飲んだので血も止まった。

 これで一安心なはずなのだが……


「……」

「どうしたの?」


 少年の第六感が警鐘を鳴らしていた。


(……? なんだろう)


 とりあえず辺りを見渡す。

 眼に付いたのは先程までは命だった者達。

 その数は……


「一人足りない!」

「え……!」


 少年の言葉に少女も少し遅れてその事実に気づくが……


「遅い!」


 少女の斜め上にナイフの男が現れる。

 よく見るとこの男の眼は左右の色が微妙に違った。

 片方は青だが、もう片方は空色。

 つまりナイフの召喚以外にもう一つ異能がある。

 それが光学迷彩ステルス。それにより身を隠し機会を伺っていたのだ。


「死ね!」

「!?」


 ナイフが少女目がけ襲い掛かる。

 だが、それは少女に刺さる事は無かった。


「ぐ……」

「テメ!」


 少年が少女の盾になったからだった。

 その攻撃直後の隙を少女は見逃さない。


「死になさい。虫けらのように」

「カ……」


 少女は蹴りを喰らわせ相手の延髄を叩き折る。


「……良かっt」


 男の絶命と少女に怪我がないのを確認すると少年は倒れる。

 少女はすぐさま少年を膝枕してから介抱し始める。


「ッ!(傷が深い。出血は少ないけど……)」


 本来なら致命傷。

 だが、飲んでいた回復薬の効果が残っていたおかげで生きてはいるが……


「(このままだと不味い)」

「ゴ、ゴフ……」

「きみ……どうしてあたしを庇ったの?」


 少女の口から漏れた疑問。

 それに少年は息も絶え絶えに答える。


「……なんでだろう? わからない」

「何それ」

「さっきの戦い……綺麗だったから……かな?」

「それできみが死んじゃ世話ないでしょう!」


 少女は考える。

 そして思い付き笑みを浮かべる。


「性格は良いし、顔も悪くない」

「?」

「ねえ、あたしと相乗りする勇気……ある?」

「え……」

「死がふたりを分かつまで。どうする?」


 その問いかけに少年は頷く。

 それに少女は笑って続ける。


「そ。なら契約と行きましょう。あ、そうそう」


 思い出したかのように少女は名乗る。


「あたしはルリナ」

「俺は――ホウガだ」

「そう。よろしくね」


 少女は少年に覆い被さって唇を落とした。

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