第34話 観測する者たちが、割れるとき
観測する者たちが、割れるとき
1
観測者は、帰らなかった
最終交渉から数時間後。
主人公と由衣が帰路についたあとも、
会議室には明かりが残っていた。
二人の観測者は、
席を立たない。
扉が閉まった瞬間、
空気が変わる。
「……
踏み込みすぎだ」
低い声。
これまでほとんど話さなかった、
年長の方が言った。
2
分かれていた立場
「管理を拒否された以上、
次は断絶だ」
若い方の観測者が答える。
「想定通りだろう」
「違う」
年長の観測者は、
はっきり否定した。
「想定外は、
妹だ」
その名前を、
初めて内部で口にした。
3
「対象」ではない存在
「彼女は」
年長の観測者は言う。
「能力を持っていない」
「だが、
状況理解が早すぎる」
「感情で
動いていない」
若い観測者が、
眉をひそめる。
「一般人です」
「だからこそだ」
年長は続ける。
「管理できない
一般人が、
意思決定に入った」
それは、
観測者側の
最大の誤算だった。
4
二つの論理
若い観測者は、
淡々と主張する。
「能力者を
管理できないなら、
距離を取るべきです」
「断絶は、
リスクを我々から切り離す」
年長の観測者は、
首を振る。
「断絶すれば、
彼は
誰の抑止も受けない」
「それこそ、
最悪だ」
二人の論理は、
噛み合わない。
安全の定義が、
違う。
5
妹という“変数”
「彼女は」
年長の観測者は、
少し考えてから言った。
「彼を止められる」
若い観測者が、
即座に返す。
「感情で?」
「違う」
「選択で」
それが、
決定的な違いだった。
6
同じ頃、妹は動いていた
その夜。
由衣は、
主人公を家に帰したあと、
一人で起きていた。
机の上には、
メモ。
観測者の条件
合意の問題点
別ルートの危険性
そして、
大きく書かれた一行。
「主導権は、相手に渡さない」
7
妹からの連絡
深夜。
観測者の端末に、
予期しない通知が入る。
「追加の提案があります」
「家族としてではなく、
当事者の一人として
お話ししたい」
送信者は、
妹。
若い観測者が、
顔を上げる。
「……
直接?」
年長の観測者は、
しばらく黙り、
そして言った。
「受ける」
8
交渉の再設定
翌日。
非公開の小会議室。
席の配置が、
また変わっている。
主人公は、
後方。
発言権は、
由衣にある。
その事実だけで、
場の力関係が変わっていた。
9
妹の宣言
由衣は、
最初にこう言った。
「兄は、
合意も断絶も
まだ選びません」
若い観測者が、
反応する。
「それでは――」
「代わりに」
由衣は、
言葉を被せた。
「第三案を、
こちらから提示します」
この瞬間、
主導権が完全に移った。
10
第三の道の輪郭
由衣は、
淡々と条件を並べる。
観測は継続
だが、
行動制限は設けない
能力使用の報告は
「重大事案のみ」
判断基準は
本人と家族が共有
「観測者は、
抑止力であって
管理者ではない」
由衣は、
そう定義した。
11
観測者側の割れ目
若い観測者が、
即座に言う。
「受け入れられません」
「リスクが
測定不能です」
だが、
年長の観測者は
すぐに否定しなかった。
「……
測定不能なのは」
「最初からだ」
その一言で、
部屋が静まる。
12
主人公は、まだ話さない
主人公は、
一言も口を挟まない。
この場は、
由衣のものだ。
それを、
観測者も理解している。
由衣は、
最後にこう言った。
「この案を
飲まないなら」
「兄は、
断絶を選びます」
「でも」
一拍。
「それは、
あなたたちの
最悪の未来です」
章ラスト
割れた観測、握られた舵
会議は、
その場で結論を出さなかった。
だが、
空気は明確に変わった。
若い観測者は、
不満を隠さない。
年長の観測者は、
由衣を見る。
それは、
初めての“対等な視線”だった。
会議室を出たあと、
主人公が言う。
「……
ありがとう」
由衣は、
首を振る。
「違う」
「これ、
私の問題でもある」
その言葉が、
すべてだった。
自動販売機の表示が、
静かに更新される。
観測状態:
多主体分岐
主導権:
使用者側(暫定)
暫定。
だが、
確かに握っている。
観測者は割れた。
大学は距離を取った。
世間は知らない。
そして今、
交渉の舵は
家族の手にある。
次に決まるのは、
合意か、断絶か、
それとも――
第三の道の成立。
それはもう、
能力の話ではない。
誰が、
世界と話すのかの話だ。
――
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