第4話 一番コラボしたくないタイプから連絡が来る

第一章

一番コラボしたくないタイプから連絡が来る


正直に言う。


嫌な予感はしていた。


そのDMを見た瞬間、

俺はスマホを伏せた。


「一度、ちゃんと話しませんか?」


送り主は、

登録者30万人の考察系配信者

「ロジカル眼鏡」。


特徴:


配信内容は検証・解説・考察


オカルト否定派


コメント欄が常に冷静


「偶然」「確率」「再現性」が口癖


つまり。


一番、超能力と相性が悪い。


コメント欄でも噂されていた。


あの人とやったら終わる

絶対詰めてくる

逃げろ


だが――

断ったら断ったで怪しい。


俺は腹を括った。


「……やるしかない」


第二章

最初から疑っている人間の目


コラボ配信開始。


「どうも、ロジカル眼鏡です」


「どうも……レンタル超能力大学生です」


第一声から違う。


「今日は“超能力”について、

少し整理していけたらなと」


整理。

嫌な言葉だ。


コメント欄。


始まった

詰問会

がんばれ大学生


俺は笑顔(声)を作る。


「まあ、

エンタメとして見てもらえれば!」


「もちろんです。

“再現性があれば”ですが」


来た。


第三章

偶然で押し切る男 vs 確率で殴る男


最初の企画。


「簡単な当て物」


箱の中の物を当てる。


俺は透視を使う。

が、答えはわざと曖昧にする。


「……金属っぽい、

細長い……ペン?」


正解。


ロジカル眼鏡は頷く。


「なるほど。

曖昧にすれば当たる確率は上がる」


次。


「プラスチック製、

四角……消しゴム?」


正解。


「はい。

ここまでは偶然の範囲ですね」


コメント欄。


圧が強い

でも正論

逃げ切れ


俺は汗をかいていた。


第四章

未来視(微)が裏目に出る


次は、

ロジカル眼鏡の提案。


「では、

“未来予測”をお願いします」


「え?」


「次に僕が言う言葉を

当ててください」


無理だ。


だが未来視(微)を使うと、

一瞬だけ映像が見えた。


――

「では次の質問ですが」


俺は言った。


「『では次の質問ですが』」


沈黙。


「……正解ですね」


コメント欄が一斉に騒ぐ。


え?

今のは

流石に


ロジカル眼鏡は、

明らかにトーンを変えた。


「今のは、

かなり一致率が高いですね」


まずい。


第五章

疑いは、静かに積み上がる


配信は続く。


ロジカル眼鏡は、

もはや笑っていない。


「不思議なのは、

あなたの“当たり方”なんですよ」


「当たり方……?」


「迷いがない。

しかも、

“外れる未来”を

避けているように見える」


やめてくれ。


コメント欄。


やばい

言語化された

逃げ場がない


俺は慌てて言う。


「いや、

運がいいだけで……!」


「運、ですか」


ロジカル眼鏡は、

一呼吸置いた。


「では、

今日はここまでにしましょう」


助かった。


最終章

配信は終わった。でも――


配信終了。


俺は椅子に崩れ落ちた。


「……生きた」


だが、

すぐにDMが届いた。


ロジカル眼鏡からだ。


「今日はありがとうございました」


「あくまで個人的な感想ですが」


「あなたは

“普通に当てている人”ではない」


「でも、

それ以上は今は言いません」


「エンタメとして、

とても面白いですから」


怖い。


だが同時に、

自販機の表示が更新されていた。


観測者:5

疑念レベル:上昇


「……疑念レベルって何だよ」


俺は頭を抱える。


笑える配信のはずだった。

普通の人と楽しくやるはずだった。


なのに。


“疑う人”が現れ始めた。


俺は自販機を見る。


次に増えていた項目。


・誤認誘導

・確率攪乱

・説明不能イベント(制限付き)


「……やめろ」


それは、

ますます怪しくなるやつだ。


俺は深呼吸し、

次の配信タイトルを考える。


――

「超能力っぽいけど

たぶん偶然な一日」


コメント欄は、

きっと笑う。


だがその裏で、

疑いの芽は、

確実に根を張り始めていた。


自動販売機は、

今日も静かに、

俺の部屋に立っている。


まるで、

この“勘のいい観測者”すら

想定内だと言わんばかりに。

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