第6話:中央ギルドへの昇格と初デート

第6話:中央ギルドへの昇格と初デート


 冷たい石畳に、パーティの足音が響く。辺境の埃っぽい道とは違う、中央ギルドの壮麗な廊下――高くそびえる天井、豪華なシャンデリアが輝き、花の香りがほんのり漂う。セレスティア・ローウェルは深呼吸し、胸の奥の高鳴りを押さえつつ前に進んだ。


「ついに、ここまで来たんだね……」

 彼女の声はかすかに震える。辺境での地味な生活を思い返すと、信じられないほど遠くまで来たように感じられた。


 ライアスが彼女の肩に手を置き、軽く笑う。

「セレスティア、君がいなかったら、俺たちはここまで来れなかった。誇っていいんだ」

 頬に熱が広がる。ライアスの視線はいつも、真っ直ぐに彼女を見ている。その信頼が、何よりの励ましだった。


 昇格式典では、中央ギルドの長老たちが二人を讃える。セレスティアの名前が読み上げられると、周囲から驚きと賞賛のざわめきが起きる。

「……男爵令嬢だったのに、こんなにも実力をつけたのか」

 囁き声が耳に入り、胸の奥でじわりと温かいものが広がった。彼女は小さく頷く。過去の嘲笑や屈辱を思い出すと、少しだけ笑みがこぼれる。


 だが、すぐに前方から鋭い視線が刺さった。ジェイド・グラント――婚約を破棄した男、王都の傲慢な侯爵家の次男が立っていた。


「セレスティア……中央にまで来ていたとはな。君、俺の目の届かないところで……」

 言葉は甘く、口元に笑みを浮かべている。しかしその瞳には、焦りと欲望が混じっていた。


 セレスティアは肩をそっと揺らし、冷ややかに微笑む。

「ジェイド、あなたの言葉にはもう、耳を貸さないわ」

 周囲の空気が一瞬凍りつく。彼女の目には、かつての不安や屈辱はもはやない。胸の奥にあるのは、静かだが確かな誇りだった。


「……な、何だと?」

 ジェイドの声がひっかかる。彼は近づき、手を伸ばす仕草をしたが、セレスティアは後退しない。ライアスが自然に横に立ち、鋭い視線を向ける。


「触れるな、セレスティアは俺たちの仲間だ」

 ライアスの声は低く、凛としていた。ジェイドの唇が震え、諦めと苛立ちが混じったため息が漏れる。


 セレスティアはゆっくりと深呼吸し、心の中で静かに言った。

「私はもう、あなたの評価で生きる必要はない……私の力と、信じられる人たちと共に歩む」


 昇格式が終わった後、ライアスが彼女の手を取る。

「セレスティア、今日は少しだけ……俺と外を歩こう」

 辺境での戦いの後も、彼が提案してくれるのはいつも静かで優しいものばかりだった。


 二人は王都の街を歩く。街の石畳の冷たさ、遠くで焼けるパンの香り、馬車の軋む音、屋台の笑い声――五感すべてが生き生きと彼女の胸に届く。

「……ライアス、私、こんなに安心して誰かと一緒にいられるのは初めて」

 彼女の声は、夕暮れの風に揺れる髪の間からこぼれる。


「俺もだ。君がいるだけで、世界が少し優しくなる」

 ライアスは微笑み、手を握り返す。体温が伝わり、胸の奥がぽっと熱くなる。心臓が跳ね、頬が赤く染まる。


 街の灯りが二人を包む。セレスティアは初めて、魔力の多さや家柄ではなく、自分自身で評価され、愛されることの喜びを知った。ライアスの手の温もりと、彼の視線の中にある信頼――それが、過去の屈辱を全て塗り替える。


 小さな笑い声が二人の間で交わる。誰にも邪魔されない時間、戦場でも王都でもない、ただの二人だけの世界。セレスティアの心に静かだが確かな幸福が広がる。


「……私、もっと強くなりたい。ライアスと一緒に」

「そうだ、俺たちはチームだ。君がいなきゃ、俺も俺じゃない」

 その声に、胸がいっぱいになる。静かに、ときめく感覚。戦いの緊張も、王都での屈辱も、すべてが今の幸福を際立たせていた。


 中央ギルドA級への昇格と初デート――それは、セレスティアにとって、落ちこぼれだった過去から抜け出し、自分自身を認め、初めて心から愛される瞬間だった。


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