第3話:無敵パーティ誕生と信頼

第3話:無敵パーティ誕生と信頼


 辺境の冒険者ギルド。朝の光が窓から差し込み、埃混じりの空気に金色の粒を散りばめる。セレスティア・ローウェルは背筋を伸ばし、今日も仲間と共に任務の準備をしていた。


「君、準備はできているか?」

 リーダー、ライアスの声は低く、しかしどこか優しさを帯びていた。胸の奥の緊張が一瞬ほどける。

「ええ……できます」

 セレスティアは手元の杖を握りしめる。冷たい木の感触、指先の微かな震えも、すべて力に変わる予感がした。


 パーティに正式加入したその日、ライアスは重々しい声で言った。

「魔力量じゃない、君の特性がこのチームを無敵にする」

 セレスティアの胸が跳ねる。王都で嘲笑された日々、魔力の少なさを理由に侮辱された記憶が、一瞬頭をよぎる。しかし今、彼は違う。全力で認めてくれる人がここにいる。


「特性……ですか?」

「そうだ。君の魔法は少なくとも、状態異常の成功率が圧倒的に高い。麻痺、鈍足……それをどう使うかで勝敗は決まる。君が封じれば、僕たちは自由に動ける」


 セレスティアは視線を仲間に落とす。戦士たちが剣を磨き、弓使いが矢を確かめる。風の匂い、鉄の光、木の床を踏む足音――すべてが生々しく、心を鼓舞する。

「……わかりました。私に任せてください」


 最初の任務は、低級ダンジョンの調査。湿った土の匂い、暗い空間、壁に滴る水滴の音。少しの光でも反射して岩肌を照らす。セレスティアは息を整え、杖の先に力を集中させる。


「敵、接近中」

 戦士の低い声が響く。遠くから黒い影がうごめく。セレスティアの胸が高鳴る。指先から淡い青の光がこぼれ、第一の魔法を唱える。

「麻痺!」

 影が止まった。敵の脚が地面に固定され、動かない。次に、鈍足の光を走らせる。

「鈍足、入れます!」

 敵の動きは鈍くなり、戦士たちは安全に距離を詰めることができる。


 ライアスは微笑み、静かにうなずく。

「素晴らしい……そのまま維持して」

 セレスティアの目は輝き、心臓は高鳴る。少しの失敗も怖くない。ライアスは決して責めない。どんな小さなミスも、笑いで包むのではなく、次への糧に変えてくれる。


「私、もっと――」

 胸の奥の熱が膨らむ。私の力は、魔力の量じゃなくても、仲間と一緒なら無敵になる。敵がどれだけ強くても、私の特性が勝利への鍵になる――その確信が、体を震わせる。


 戦いは続く。敵を麻痺させ、鈍足にし、毒でじわりと削る。仲間は自由に動き、格上の敵を瞬く間に片付ける。風が肌をなで、汗が額を伝う。剣の金属音、矢の弦の弾ける音、モンスターのうめき声。すべてがセレスティアの集中力を研ぎ澄ます。


 戦闘後、火のそばで休む間も、ライアスがそっと言った。

「君、今の動き……完璧だった」

「……ありがとうございます」

 頬が熱くなる。胸の奥がきゅんと締め付けられるような感覚。友情を超えた感情が、静かに灯った瞬間だった。


「これからも一緒に戦おう」

「……はい、ライアスさん」

 声は小さいが、決意の色が濃く染まる。魔力は少ない、けれど仲間と共に、私は無敵になる――そう心の中で誓った。


 夜のギルドの中、静かな笑い声、薪のはぜる音、遠くで流れる川の音。全てが、彼女の新しい生活の始まりを告げていた。王都で嘲笑された過去は、もはや重荷ではない。これからの戦いは、自分自身の力で切り拓く道だ。


「私の特性……、これでチームを守る。私だけの戦い方で」

 セレスティアの瞳に炎が宿る。闇の中でも、仲間の笑顔を守る光になる――無敵の光となる。


 火のぬくもりと共に、セレスティアの心は確信に満ちていた。魔力の少なさでは測れない、自分だけの価値。そして、彼女の隣には――ライアスの存在があった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る