記録002:勇者パーティー
依頼を達成したのか、勇者パーティは冒険者ギルドへ向かっていた。
昼過ぎのギルド内は活気にあふれ、酒を片手に談笑する冒険者、受付嬢に依頼の確認を求める者などでごった返している。
「お疲れ様です。依頼達成の報告をお願いします」
勇者――レオンが受付嬢に声をかける。レオンは銀髪に蒼い瞳を持つ青年で、背中には聖剣が輝いていた。
「レオン様、ご苦労様です。討伐対象の証拠となる魔物の核を確認しますね……」
受付嬢が魔物の核を確認し、処理を進める。
「はい確認が取れました!こちら、報奨金です。なかなか討伐されない分上乗せしました。またおねがいしますね!」
「ああ、ありがとう。あと、ミスリルスライムが出るところにシャドー・ウルフがいた。念のため伝えておいた」
「本当ですか?ありがとうございます。ギルドマスターにも伝えておきます」
――ダンジョン、ギルド、ギルドマスター。めっちゃ異世界だ!
俺はこの時、影であることをすっかり忘れていた。
その夜、酒場の喧騒の中で勇者パーティは食事をしていた。
「かんぱーい!」
ジョッキを掲げ、酒を飲み交わす。酒場の中は、他の冒険者たちの笑い声や、酔っ払いの陽気な歌声で賑わっていた。
「いやー、今日の依頼も大変だったねー」
「まさかシャドー・ウルフまで出てくるとはな」
「ええ、ミスリルスライムの討伐だったのにね。でもこれで、新しい装備が整えられるわ!」
皆が談笑する中、レオンはジョッキを傾けながら、ふと呟いた。
「そういえば、今日の戦い、戦いやすくなかったか?」
「そういえばそうかも」
「ステータスオープン……ええ!?レベルが30も上がってる」
「ほんとだ!」
――俺が転生してきたからか……?俺の存在に気づいてくれ!
「でもなぜだ?」
「そんなこといちいち気にすんなって。悪いことじゃないからいいだろ?」
「それもそうだな」
――きづいてくれないかぁ……
さとるは、一刻も早く気付いてほしかった。
やがて、食事を終えた勇者パーティはそれぞれの部屋へと戻っていく。
――深夜、レオンの部屋。
ロウソクの明かりが揺れ、外からは時折、遠くの酒場の喧騒がかすかに聞こえてくる。レオンはすでに眠りについていた。
さとるは、自分の状況と状態を整理することにした。
俺は現世で車にはねられ死亡。気づいたら勇者の影。勇者パーティーは、勇者レオン、タンク兼大剣使いガルム、賢者アイリス、ヒーラー兼弓使いリリア、の四人。
状態は――動けないか?……ダメだ、ピクリともできない。文字は? 指を動かしてみる……ダメか。声は……? 出ないな……
何を試しても、影である自分には何もできなかった。
――やっぱり何もできないか。このままじゃ、俺は一生ただの影のままなのか?
焦りが募る。しかし、どうすることもできないまま、夜が更けていった。
翌朝、勇者パーティは新たな依頼を受け、ダンジョンへと向かった。
「今回の依頼はダンジョン探索だ。魔物の討伐も含まれているから、気を引き締めろよ!」
ガルムが気合を入れる。ダンジョンの入り口は、鬱蒼とした森の奥にあった。
「土属性の魔物が多いらしい。地震や地割れの攻撃に注意してね」
アイリスの言葉に、パーティは頷く。
ダンジョンに足を踏み入れると、ひんやりとした空気が漂っていた。そして、奥へ進んだその時――
「ぐおおおおおっ!!」
突如としてテラントル――土の甲殻で覆われた蜘蛛型の魔物が現れた。大地が揺れ、足元が割れる。
――ぐっ……!? 影の俺にとって、これは……ッ!!
影であるさとるにとって、地震や地割れの衝撃は激痛となる。影であるが故に、大地の揺れが直接響くのだ。
――やばい、これ……めちゃくちゃ痛い……!!
しかし、叫ぶこともできない。死ぬことのない苦痛。つらい……!
戦闘が始まり、勇者たちは魔物と激突する。
「アイリス、魔法を頼む!」
「了解! フレイムランス!」
アイリスの炎の槍が魔物に当たる。しかし、甲殻が固くはじかれてしまった。
「効いてない!」
「なら、俺がぶち抜く!」
ガルムが大剣を振るい、魔物の体を叩き割る。
「レオン! 今よ!」
「分かってる!」
レオンが聖剣を構え、光を纏わせる。
「《ホーリー・スラッシュ》!」
閃光が走り、魔物の核を正確に切り裂いた。轟音と共に、魔物は崩れ落ちる。
――す、すごい……これが勇者の力……
しかし、息をつく暇もなく、ダンジョンの奥からさらなる咆哮が響いた。
「やばいな、まだ終わりじゃねぇみたいだ」
「気を引き締めていきましょう!」
勇者パーティは戦闘態勢を整え、ダンジョンの奥へと進んでいく。
――俺も、何かできれば……
さとるの中に、何かが芽生え始めていた――。
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