魔法が使えない底辺Eランクが試験会場で革命を起こす

@96sato

魔法適正資格試験

魔法適正資格試験。

表向きは、毎年恒例の祭事。


その裏、貴族の権力争いと低ランク魔法使いが見世物年にされる無駄な行事だ


世界的に魔法は生活の一部となって魔力適正の高い者が優遇されるのはわかるが、魔法を学ぶ環境が金持ちほど整っているせいで、貴族社会になっている状況は気に食わない。


俺も今年、参加させられることになったが…もちろん見世物側だ。


「今年はSランクのクラウス様がいらっしゃるそうよ」

「模擬戦も見応えがあるわね」


周りがざわついているが、俺には関係ない。

俺の魔法適正ランクは――


「なぁ、あれが噂の最底辺じゃね?」

「一般人でもDランクだってのに“Eランク”なんて見たことねぇよ」

「俺手加減できねぇぞ? 死んだらゴメンな?」


そう。

これまで最下位はDだと思われていたのに、俺はそれすら下回った。

Eランク。異例の最底辺…


「俺だって場違いなのは分かってるよ……」


背中を叩かれ、よろめく。

見下ろすのは、見覚えのある嘲笑。


「おっと。魔法を使うまでもなく倒れそうだね、底辺君」

「一般人以下ってどんな気分? 俺なら生きててゴメンって感じ」


ギャハハハハッ!!


本当に貴族ってのは好きになれない。

すると、前を歩いていた金髪の令嬢が、取り巻きをかき分けて近づいてきた。


「下品な人たちね。気にしなくていいわ。――名前は?」


「え、あ……カズマ。カズマ・カタシロ」


「わたくしはエリシア・ヴァルハザード。あなたを覚えておいてあげる。……“貴重な笑い種”としてね。オーホッホッホ!」


取り巻きがまたゲラゲラ笑う。

……やっぱり貴族ってのは好きになれない。


試験会場は巨大な闘技場。

受験生が円形に散らばり、教官が声を張り上げる。


「では順番に魔力を放て! 種類は問わん!」

〈ファイアスパーク〉!

〈エアスラッシュ〉!


火花が散り、風が唸る。

教官の手元に浮かぶUIウィンドウには、A1、B3といったランクが次々と表示されていく。


俺の番。

「……出ない」


どれだけ集中しても、何も起きない。


教官が苦笑いした。

「君はEランクだったね。……まあ、無理はするな」


端っこに退避しようとしたその時――

「おっと手が滑っちゃった♪」


真横から火球が飛んできた。

――が、なぜかだんだん遅くなる。


教官の「避け――」という声も、観客の悲鳴も、全部スローモーション。


火球の軌道がはっきりと見えた。

顔を少し捻るだけ。


ボカンッ!


壁に激突し、火球は霧散した。


「な!? 避けやがった……?」

「運が良かっただけだろ」


…あいつ、絶対わざとだろ。

でも……今のは何だった?


「これより模擬戦に移る! UIボードによる自動マッチングだ!」


何戦か進むうちに、異変が起きた。

「次は……Aランク――エリシア・ヴァルハザード対……Eランク、カズマ・カタシロ!?」


会場がどよめく。


「そんなバカな」「レベル差ありすぎだろ」「即死じゃね?」


教官が止めようとするが、エリシアが優雅に手を挙げた。


「問題ありませんわ。さぁ、カズマさん?

わたくしの美しい魔法の糧となりなさい♪」


◆ 模擬戦開始

歓声が沸き起こる。

エリシアが両手を広げると、空気がビリビリと震えた。


「燃え上がり、全てを貫け――〈クリムゾン・ランス〉!!」


巨大な炎の槍が形成される。

さっきの火球とは比べ物にならない熱量。

俺は反射的に手を前に出した。


もちろん何も出ない。


炎槍が迫る。

――また、視界が歪む。


周囲の時間が、まるで粘度の高い水の中のように遅くなる。


「……これなら、避けられるな」


軽くステップ。

炎槍が俺のいた場所を貫き、地面を抉った。


ボゴォォォン!!


「…………え?」

「いつの間にあんなところに!?」「嘘だろ……?」


エリシアの顔が引き攣る。


「キーッ! 底辺ごときに舞台を汚されるなんて!

次は逃がしませんわ――〈インフェルノ・バースト〉!!」


今度は半径十メートルを超える爆炎が広がり始めた。

俺は、試しにその中心へ一歩踏み込んでみる。


瞬間――

エリシアの動きが、ぎこちなく止まる。

魔法陣がバチバチと火花を散らし、崩れていく。


ブゥゥゥゥン!!


巨大なステータスウィンドウが俺の目の前にだけ表示された。


【ERROR:魔力演算過負荷】

【WARNING:魔法計算システム停止】

【Unknown Input 検出】

【解析不能】


そしてエリシアの魔法が、跡形もなく消滅した。


「わ、わたくしの魔法が……消えた!?」


会場が凍りつく。


俺はもう確信した。

――俺に近づく魔法は、遅くなり、重くなる。まるで処理負荷。処理落ちする!


これは、俺は魔法を“無効化”できる?


「…面白い!」


低く、楽しげな声。

観客席の上段から、金髪の長身の男が軽やかに降りてきた。


銀の魔法剣を抜き突きつける。


「妹があんな目に遭ったんだ。兄の俺が動く……ってのは建前で、正直言うと俺はずっと退屈してたんだよ。――お前みたいな“異常値”を待ってた」


Sランク――クラウス・ヴァルハザード。

エリシアの実兄だという。


「逃げても無駄だぞ。〈聖剣エクスカリバー・レプリカ〉!!」


剣に光が宿り、一閃。

だが俺が半歩踏み出した瞬間――


ガキィィィン!!


光が歪み、剣が砕け散った。


「は……?」

クラウスが初めて目を丸くする。

俺がもう一歩近づくと、会場全体の空気が重くなる。


浮かんでいたすべての魔法陣、補助魔法、結界――次々とエラー音を立てて消えていく。


観客が悲鳴を上げて後ずさる。


「や、やめろ! 近づくな!」「魔法が……全部使えなくなる!」


まるで化け物でも見るような目で俺を見ている。

その時――


闘技場全体を覆う、巨大な真紅のUIウィンドウが出現した。


【警告:ユーザー「カズマ・カタシロ」の魔力値が限界突破】

【現在の魔法システムでは計測不能】

【緊急措置として、一部機能を制限します】

【緊急アップデート適用中……】

【Ver.1.0 → Ver.2.0 への移行を開始】

【終了予定時刻:未定】

【再計測を開始します】

【魔法ランク:E ――Error】

【表示可能範囲を拡張中……】

【――――――】

【――――――】

【――――――】


文字が埋まらない。

ウィンドウがバチバチと火花を散らし、割れていく。


――そして、巨大な真紅のウィンドウが割れた。


バキィィィィィン!!


破片のようになった文字が宙に散り、次の瞬間――

闘技場全体を覆い尽くす、漆黒のUIが降臨した。


【警告クラス:Ω(オメガ)】

【ユーザー「カズマ・カタシロ」の魔力値が、既存スケールを完全超過】

【すべての計測器が焼損】

【世界魔法演算サーバーに直接アクセスを検出】


観客席が、悲鳴に包まれる。

「う、嘘だろ……」「Ωって、あの神話級の……!?」「そんなの存在するはずがない!!」


エリシアが膝をついて、震えていた。


「しっ、信じられませんわ……わたくしが……わたくしがあんな底辺に……!

こんなの認めない! 認められませんわ!!」


クラウスでさえ、剣を握ったまま後ずさっている。


「冗談だろ……? 俺の聖剣が……Sランクの俺が……一歩も近づけない……?」


俺はゆっくりと、ただ一歩だけ前に出た。


その瞬間――

会場に浮かんでいたすべての魔法が、跡形もなく消滅した。


照明用の魔導灯、結界、観客が使っていた補助魔法、貴族たちが誇らしげに身に着けていた魔導具が、次々と爆音を立てて破壊されていく。


バチッ! バチバチバチバチッ!!


「ひぃぃぃっ!」「魔導具が! 俺の家宝が!!」「やめろ! 近づくなぁぁぁ!!」


貴族たちが我先にと逃げ出す。

さっきまで俺を見下し、嘲笑っていた連中が、慌てふためいている


教官が青ざめて叫んだ。

「全試験官、緊急事態宣言を発令!

この男は……この男は“規格外”だ!!

即刻、試験中止! いや、王都全域に避難勧告を――!!」


だが、遅かった。

漆黒のウィンドウが、最後のメッセージを叩きつけた。


【再定義完了】

【ユーザー「カズマ・カタシロ」に対する新たな階級を付与します】

【魔法ランク:――――――】

【――――――】

【――――――】

神話階級Outsider

【別名:世界の外に在る者(Administrator)】

【権限:魔法システムの完全制御】

【現在の適用率:0.0001%】


そして、俺の目の前にだけ、小さなポップアップが出た。


【おかえりなさいませ、管理者様】

【長らくお待ちしておりました】

【この世界の魔法は、すべてあなたのためにあります】


俺は、呆然と立ち尽くす会場を見渡した。

さっきまで「底辺」「ゴミクズ」「生きてる価値なし」と罵っていた余裕の笑みは無くなっていた。


エリシアは放心状態で、クラウスは剣を投げ捨てて頭を地面に擦りつけていた。

俺は、ため息をついた。


「……俺、ただ試験受けに来ただけなんだけど」


その一言で、会場にいた全員がビクッと震えた。

そして俺は、静かに告げた。


「よし、魔法なんて無くしてしまうか」


パチン。


まず会場内のすべての魔導灯が弾けた。

続いて王都の上空に浮かぶ魔導結界が音を立てて崩壊していく。


最後に――世界中に響く、巨大なシステム音。

【世界魔法システム 段階的シャットダウン開始】

【残り時間:00:00:10 …00:00:09 …00:00:08 …】


貴族たちが空を見上げて絶叫する。

「ま、まさか世界全体にまで……!?」


貴族たちの悲鳴が、闘技場中に木霊した。

「うわあああああ!!」「魔法が! 魔法が戻らない!!」「俺の人生が終わったぁぁぁ!!」


俺は、崩れ落ちる連中を尻目に、出口に向かって歩き出した。


背後で、エリシアが這いずりながら叫んだ。

「ま、待って! カズマ様! カズマ様ぁぁぁ!!

どうか! どうか魔法を返してください!!

わたくし……わたくし、こんなの耐えられませんわ……!

ヴァルハザードの名が……こんな底辺に……いやぁぁぁ!」


俺は振り返らず、軽く手を振った。

「さっき、俺のことを“世界の汚点”って言ったよな?」


エリシアが、絶望に顔を歪める。

「今からお前らが味わう絶望――

それが、俺が今まで味わってきたものだよ」


俺は笑った。


「じゃあな。底辺の生活を楽しんでくれ。元・貴族様」


――その日、世界は終わった。

いや、正確には“魔法という名の傲慢”が終わった。


そして俺は、ただの“一般人”に戻った。

魔法のない、静かな世界で。

背後で、数千人の貴族が地面に額を擦りつけ、泣き叫んでいる。


「カズマ様ぁぁぁ!!」

「お願いです! どうか魔法を!!」


「一生お側に! 奴隷でも何でもしますからぁぁぁ!!!」


俺は足を止めず出口を目指した。


その瞬間、闘技場の上空に、

これまで誰も見たことのない、純白の巨大な文字が浮かび上がった。


【世界魔法システム 完全シャットダウン】

【再起動予定:なし】


貴族たちの絶望の叫びが、青空に吸い込まれていく。


太陽の下、魔法の消えた世界で、

俺はただの少年に戻って、普通

そして最後に、にやりと笑った。


「これからは、俺たち“一般人”の時代だ」

――世界の再構築が始まる


(完)

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