過保護な義兄が邪魔なんです!

紫陽花

第1話 目覚めは義兄の声

 ルミエール王国は大陸の中でも過ごしやすい気候です。前世で言えば、鎌倉あたりに近いでしょうか。海にも山にも程近く、食の楽しみに事欠きません。

 この国の第二王女エリスとして、私は城の自室から見える領地を誇らしく思います。これも郷土愛と言うのですかね。幼い頃に前世の事を思い出しても、この国に対する愛着に翳りは見られませんでした。

 太陽の昇った早朝、バルコニーから見える領地と海の景色が、私は大好きです。


 しかし、私も十八歳。そろそろ嫁いで城を出る日が来るでしょう。

 結婚に対する憧れはあります。何しろ私、彼氏いない歴イコール年齢の残念な女でしたから。前世と今世を合わせると、なんと四十年も独り身!

 王族ならば周囲がレールを敷いてくれるので、結婚など楽なものだと思っていました。 なのに、これまで浮いた話はまるで無かったのです。

 理由は分かっています。


「姫様、ニール殿下がお見えになりましたけど……」


 バルコニーで朝の景色を楽しんでいる私に、部屋付きの侍女が遠慮がちに話しかけてきました。毎朝のこととは言え、申し訳なさそうに取り次ぐ侍女に、ごめんなさいという気持ちでいっぱいになります。

 義兄を部屋の前で待たせたまま、私は他の侍女を招いて朝食用の服に着替えました。鏡に映る自分を眺めやります。

 白い肌。緩いウェーブがかった輝くような金髪。エメラルドグリーンの瞳。物語に出てくるような、金髪碧眼の美少女が私を見つめています。平凡な日本人であった前世の面影はまるで無いのに、これが自分の顔だと違和感はありません。


「おはよう、エリス。今日も綺麗だね! きっと明日も明後日も綺麗なんだろう!」

「おはようございます、お義兄にいさま。そろそろ義妹いもうと離れなさいませ!」

「朝からつれないなー。でも、そんなエリスも可愛いよっ! さあ、一緒に朝食をいただこう!」


 毎朝、この調子なのです。

 ルミエール王国の第一王子。正妃の長子で、先日、立太子の儀を無事終えられた、名実ともに次期国王たる人。

 ニール・アドル・ルミエール。

 私の腹違いの兄。

 そして、私に深い愛情を注いでくれている人。

 でも、こんな愛は望んでいなかったんですけど!

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過保護な義兄が邪魔なんです! 紫陽花 @joe_k

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