@omuro1

第1話

徳を積め、と人は言う。


小さな善行でもいい。

誰かに席を譲ること。

道に落ちているゴミを拾うこと。

それらは、巡り巡って自分に返ってくるのだと。


しかし、仏典には「無功徳」という言葉がある。

見返りを求めて行った善行は、徳にならない。

善行は、それを善行と意識した瞬間に徳ではなくなる。


人は理由がなければ優しくなれないのか。

誰かのため、だけでは動けないのか。

善行の基準は自分のための得にあるのか。


そうであるなら、偽善だと言われても、否定はできない。

けれど、偽善から始まった行動が、誰かを救うこともある。

しない善より、する偽善。


そして、僕はふと思う。

善行に徳を求める人間と、善行の純度を気にする人間は、それほど違わないのではないか。

どちらも不器用で、どちらも迷っている。


昨日、僕がゴミを拾った事こそが、徳を積む行為だったということ。

そして今、それを意識した瞬間、その行為は無功徳となった。

それでも、道が少しきれいになったことだけは間違いない。


無功徳でいい。

僕は今日も、ゴミを拾う。

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