冷酷宰相様と冷酷魔女だってモフモフ白うさぎにはデレるでしょう?【カクコン11短編】

カエデネコ

第1話 冷酷な魔女は呪われる

「大人しく懲罰を受けなさい!」


 突然、私の住んでいる家に押し入ってきたよく知っている顔なじみの魔女がいた。品行方正、魔法院の命令に逆らったことがない金の髪の美しい魔女だ。


 あら、久しぶりー!というノリではない。顔が真剣で、手には魔法院の院長の『懲罰命令』の用紙を手にしている。


「私が何をしたというわけ?なんにもしてないわよ」


「しらばっくれないで!命令無視の数々に余計なところへ首を突っ込み、他国の争いごとに巻き込まれて破壊活動をする、魔族との取引、高額な報酬を要求するなど罪状はいくらでもあるわよ!魔法院の名において懲罰を行います!」


 黒髪を私は深くかぶっていたローブからパラッと出してニヤリと悪い顔をした。


「破壊活動は私の正当防衛、魔族と取引など巷の噂でしょ。高額な依頼料の報酬は自分の働きに対しての対価をもらったにすぎないわ。それの何が悪いの?それに罰するというけれど、優等生のマリアがこの私に勝てるとでも思ってるの?」


 私の笑みを見て、目が一瞬、恐怖の色を帯びた。同じ魔法学校に通い、私に一度足りとも勝ったことがない。数々の敗北を思い出したらしい。もう少し思い出させてやろうかしら?ちょっと脅せば逃げていくでしょ。冷たい目で私は相手を見る。


 これが終わったら院長のところへ行って、いつもどおりしおらしい振りをして「ごめんなさい」とでも言っておけばいい。いつものパターンだ。


「冷酷な魔女になんて負けないっ!」


「はあ!?冷酷な……魔女?」


 それって私のこと!?


「そうよ!影でみんな言ってるわ!エマは『冷酷な魔女』だって!」


 いつのまに二つ名がついていたのだろう。ま、いいか。力の強い魔女には二つ名がつくものと決まっている。


「王家からの招集の命令を無視したでしょう!今回という今回は魔法院の院長も許せないっておっしゃったわ」


「そりゃ。無視するでしょ。無意味な戦争の魔法兵になんてなりたくないもの」


「みんな戦ったのよ!同級生のアレン……かわいそうに重いけがを負って、今も起き上がれないのよ!」


「いや、それは私のせいじゃないと思うわよ?不注意か自分の力が足りないせいでしょ」


 正論を私は言ったはずなのに、マリアは憐れむ心もないの!と睨みつけてきた。


「この冷酷な悪い魔女め!滅びなさいっ!!」


 杖が抜かれた。私も抜く。そして私の魔法の方が早く発動したと思ったのに……なぜか力が跳ね返った。


「なっ!?」


 紫色の光が私を襲う。私の力が私に跳ね返り、ぶつかり、変な風に作用しているのが体の中でわかる。気持ち悪い。吐きそうだ。例えていうなら、ぐちゃぐちゃのミルク粥みたいな感じ。


 そしてそれが終わったと思ったら、不敵に笑いながら私を見下ろすマリアがいた。初めて私に勝った勝利の味に酔いしれるように言った。


「お似合いね」


 お似合い?マリアから随分高いところから見下ろされている気がした。自分の手足を見た。


 白い毛並み。短い手足。これはまさか!?私は部屋の中にあった全身鏡に目を走らせる。


 う、うさぎちゃんーーー!?


 金の目をしたフワッとした毛並みの愛らしい白うさぎが鏡の中にいた。


「小動物になるなんてお似合いね。だって弱き者たちに憐れむ心を持たず、自分勝手に力を使う冷酷な魔女は自分が弱い立場になった時、どうなるか思い知るといいんだわ!今回は特別魔法院の院長が懲罰用にあなたに勝つためのアイテムをくださったのよ!」


 しまったー!侮っていたわ。そういうことだったのね!マリアの手の中に院長からもらったらしいアイテムなのか、紫色の球体があった。院長の本気……マリアの背後にいる魔法院のトップの影がチラチラとよぎる。


 そう言うとマリアはうさぎの耳を掴み、そのまま家のドアから私を放り投げた。なんの!地面に叩きつけられるか―!と根性で、地面に着地をしたが、高さがあったため、足の裏がジーーーんとして痛む。


「可愛らしいうさぎさん。どうかお元気でね。生きていけたらいいわね」


 私は慌てて解呪しようとしたが、言葉が動物ゆえでない。口をパクパク動かすだけ。マリアは私に当然の報いとばかりに背を向けて行ってしまった。ちょっとー!置いていかないでー!必死に叫ぶ心の声など届かない。


 どうしよう。これからどうやって生きていけばいい?


 そもそも兔って……何食べて生きてるのよ?草?木の実だっけ?


 いや、そうじゃなくて、野生で生きるって難しくない?


 私は途方に暮れまくったのだった。


 

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2025年12月18日 07:00

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