001.ダンジョンポイントを稼ぐには
目標を定めたところで、今の問題点とやるべきことを洗い出していこうと思う。
「まず、DPってどうやって稼ぐの?」
「はい! ダンジョンに栄養をあげることです!」
「元気のいい返事で素晴らしい! 具体的には?」
「人間を殺して吸収させます!」
「まあ、そうだよねー」
予感はしてた。
ダンジョンって言ったら人間の敵だもんね。
とはいっても、今のこのダンジョンの状況で人間を倒すとか無理。というか、この森の中に人間いるの?
「人間以外はダメなの?」
「人間以外も吸収できるけど、DPになるかはわからないなぁ」
「わからないかー」
コアちゃんは相変わらずである。
「じゃあ、とりあえずそれはあとで試していくとして……他に方法は?」
「ちょっと待ってね、考えてみる」
「ごゆっくりー」
コアちゃんが朧げなダンジョン知識を検索するのを待つこと数十秒。
「なんか、生き延びてる期間によって自然に貯まるのもあるみたい。長生きすると一日に得られるポイントも増えてくみたいだけど、私たちはサバイバル一日目だからないに等しいね!」
「うーん世知辛い。けど、生きてさえ入れば固定収入? があるのはいいね」
具体的な数値がわからないし、現状意味はなさそうだけど、将来的な希望がひとつ見えたのはポジティブに受け止めよう。
「DPについてはそういうことで、次は防衛についてだけど……入口はとりあえず塞ぎたいよね」
ここは森の中にある丘の下にできた小さな洞穴である。洞穴の入口は常にオープンなので熊や猪に襲われては堪らない。
「入口は塞げないよ?」
「え? なんで?」
「正確には、ドアみたいな感じのものは置けるけど、外からは常に侵入可能な状態じゃないとダンジョン的にNGみたい」
「ダンジョンNGなら仕方ないか」
ダンジョンNGってなんだ? と思う気持ちはあるが、異世界のシステムに文句をつけても仕方ない。
「ダンジョンはね、来る者拒まず、来る者阻め! だよ!」
「強制タワーディフェンスみたいなものか」
「多分それな!」
タワーディフェンスってコアちゃんに通じるんだ。
「でも尚更困ったな、今のままじゃ人間どころか野生動物に攻略されちゃうよこのダンジョン」
「それは困る! なんとかするのがマスターの役目でしょ!」
「俺も死にたくないし、それは考えるよ」
入口を完全に塞ぐのはダメでも、ドアがOKなら中が見えないように隠すくらいはできるだろうし、これもあとで試してみよう。
「じゃあ次は食糧と水問題」
「私はダンジョンコアなので心配ありません!」
「俺は?」
「心配です!」
「気持ちだけありがとう」
「どいたま!」
いや、何にも解決してないから本当に気持ちだけ過ぎて困る。
「食べ物は……森で探してみるとして、水はどうにかならないかなぁ。水源作るのとか無理そう?」
「DPがあればできるよ!」
「結局そうなるんだよなー」
ダンジョンに防衛設備を作るDPがないのだから、水源を作ることも当然無理。
「やっぱり俺が外に出てみるしかないか」
「ちょっと寂しいけど、仕方ないね」
「我慢してよ、死にたくないでしょ」
「うん。だから死なないでね」
その「死なないでね」はコアちゃんが死にたくないからなのか、俺の心配をしているのかは聞き返すのはやめておこう。
「じゃあ、とりあえず外にあるものを適当に拾ってダンジョンに食わせてみるか」
「はーい!」
ということで、野生動物に怯えながら恐る恐る洞穴の外に出る。
出てすぐ森の中なので、まずは手始めに木の枝や石ころを拾って洞穴の入り口に戻ると、ふよふよと光るバレーボールが空中を漂ってくる。
「コアちゃん、こんな入り口まできて危ないでしょ。襲われたらどうするの」
「だって気になるんだもん」
「気になっても次からはやめてね。万が一があったら困るから」
「はーい」
そんな緊張感があるんだかないんだか適当な会話をしてから、ダンジョンの床に拾ってきた石ころや木の枝を置く。
「コアちゃん、あーん」
「あーん!」
間抜けな声が響いて、床の上に置いた石ころと木の枝がずぶずぶとダンジョンの床に飲み込まれていった。
吸収ってこんな感じなのか、考えていると、今度は飲み込まれた木の枝と石ころがポンとダンジョンの床に現れた。個数は少し減っている。
「これはDPにはならないね。だけど、出したりしまったりはできるみたい」
「数が減ってるのは?」
「それは『ダンジョンの産出品』として出したからだよ。そのままダンジョンの外の物として取り出したら数は減らないよ。『ダンジョンの産出品』に変換すると、DPを節約して壁とか罠とかの材料にできるみたい!」
つまり、木の枝と石ころは吸収してもDPにはならないけど、節約になるから吸収させて損はないと。
「ところで産出品ってのは?」
「ダンジョンで拾える素材、人間にとって得になるお土産かな?」
「お土産かー」
所謂、人をダンジョンに呼び込むための餌というやつだろうか。
「産出品になったから、その木の枝と石ころは少し頑丈になってるよ」
「欲しがる人いるかなー?」
多分、薬草とか鉄とか防具ならお宝になるだろうけど、枝と石ころ欲しがる人はいないよね。でも、普通の枝や石より硬いなら……?
「もっかい外出てくるわ」
「いてらー」
そんな訳で、なるべく洞穴の近くで素材になりそうな木や石を集める。さっきの枝や石ころみたいな小さなやつじゃなくて、太くて長い木や大きな石を拾ってダンジョンと何度も往復する。
結構な重労働だったが、あまり疲れていないのはコアちゃん特製ボディのおかげかもしれない。
「コアちゃん、これ吸収して石斧とか石のナイフみたいなの作れない?」
そう、俺の狙いはサバイバルの基本、森の恵みを手に入れるためのアイテム制作だ!
「加工するのはDPが必要だから無理だねー」
「……マジかー」
計画、頓挫。
「じゃあ、とりあえず棒と良さげな形の石を産出品に変えてくれる?」
「それならオッケー!」
計画変更、コアちゃんに依頼している間に再び森に入り、木に絡みついている蔦を数本、腕力にモノを言わせて引きちぎって帰還。
「コアちゃんこの蔦も硬くしてー、あ、でもしなやかさはなくさないでー」
「難しいこと言わないでー」
「そこをなんとか!」
「できるかなぁ? できた!」
今度はできたみたい。
ということで、出来上がった産出品の丈夫な木の棒と鋭い石を丈夫な蔦でぐるぐる巻きにして結んでお手製の槍の完成!
蔦の結び方が汚いのはご愛嬌。
「よし、これで槍が出来たぞ! さっそく木の実を探しに行ってくる!」
「……動物を狩るんじゃないの?」
「初心者に無茶言わない、お水も探さなきゃいけないんだから」
コアちゃんは食事をしなくて良いかもしれないけど、俺は違うんだから。サバイバルの基本……を語るほど知識はないけれど、食糧確保は最重要事項なのは間違いないはず。
「がっかりさせて悪いけど、いきなり全部は解決できないからひとつずつ……」
今のセリフのどこにフラグがあったと言うのか、がさがさと森の草をかき分け、ぱきりと枝を踏み折る音にダンジョンの外へ振り向けば。
「コケ?」
体高二メートルのニワトリが首を傾げていた。
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