小説を読んだり、小説を書いたりしている度に思うのが、小説……つまり文学の持つ力の強大さだ。元を正せば文字の塊にすぎない存在が、人の想いを翻弄したり救ったり、浮いたり沈んだりさせる。書籍はどれだけ大きくても基本的には人より小さいが、その中に内包される物語はまるで宇宙のような無限の大きさを誇っているというのは何とも不思議な気分である。
本作は、そんな小説を愛する小さな一組のカップルの話である。小説好きの男の子が好きな小説を語り、それを聞いた女の子が返すという一見するとシンプルな物語。だけれど、それだけじゃない。そこから興味を持ち、色々考えたり行動に移すのだ。物語の中のキャラクターと目の前の相手を少し重ねてみたり、文章故の楽しみたる『見た目』を妄想してみたり、時には少し背伸びしてみたり。ただの物語紹介だけでは終わらない。
……もしかすると、こうやって物語を書き続ける我々も、知らない間に誰かの人生を変えている……のかも?
一見すると、文学少年と文学少女による奥ゆかしい青春モノ……かと思いきや、冒頭の秀逸すぎる「勘違い」から一気に引き込まれる、テンポ抜群のラブコメディです。
知的なSFネタや実在の文学作品を交えた落ち着いたトーンの中で、甘酸っぱい中学生同士のやり取りが展開されます。
また、シットコム(シチュエーション・コメディ)的な舞台設定になっているため、読者は無駄な状況説明を追う必要がなく、純粋に二人の上質な会話劇に集中できる構成も秀逸です。
文学的な心地よい余韻と、クスッと笑えるコメディが見事に融合した、とても読みやすくて面白い良作です!
中学校の「読書クラブ」に所属する柏木颯真と琴浦葉月。
本を読むことだけを目的としたゆるい部活の帰り道、颯真は夢中になっている「ハードSF」小説の魅力を隣を歩く葉月に熱く語り始めます。
しかし、SFジャンルに馴染みのない葉月はその言葉の響きから、とんでもない「大人向け」のジャンルだと勘違いしてしまい……。
知識があるゆえに深読みして一人で暴走してしまう少女と、必死に誤解を解こうとする少年の、なんとも微笑ましく初々しい日常が描かれます。
本作の最大の魅力は、二人の間に流れる絶妙な距離感と、本を通じた知的な(?)すれ違いの面白さです!
実在のSF名作『太陽の簒奪者』を軸に交わされる会話は非常にテンポが良く、颯真の熱量あふれる作品解説には、思わず読者もその本を手に取ってみたくなるほどの強い引力があります。
少し背伸びをしたい年頃ならではのピュアな勘違いや、気まずさを乗り越えて純粋に「好きなもの」を語り合う二人の姿がたまらなく愛おしいです。
もどかしくも甘酸っぱい青春の空気感と、本への愛に満ちた二人の関係性に、読めば間違いなく自然と笑顔になれるおすすめの日常系ラブコメディです。