某オカルト雑誌記事2 向かいのホームの女

駅のアナウンスが遠くに聞こえて、混雑した駅舎の中でなぜかその女だけが目に入りました。対岸のホームの中央で佇む女性。痩せすぎた体に白いワンピースを纏い、背中を丸めた姿勢で立っていました。


最初は見間違いだと思ったんです。行き交う乗客たちの中に紛れた一人にすぎない。でもその女は、一歩も動かないんです。列車が到着しても乗り込まず、去っていく人々にも目を向けない。ただ真っ直ぐに僕を見つめていました。


不気味に思った僕が目を逸らそうとした瞬間、その女の口元が微かに動いたのが分かりました。笑っているんです。冷たい電流が背筋を走った思いでした。顔を上げられない。見たくないのに視界の隅にその女の姿が焼き付きました。信じてもらえないかもしれませんが、次第に女の顔の輪郭が変わっていったんです。頬の肉が削げ落ちるように凹み、目尻に細かな裂け目が走り始めました。


「あの女……ヤバくね……」

「きっしょ、鶏ガラやん」

「カリカリ人間w」


隣に立つ男子高生3人の会話と笑い声が聞こえました。次の列車到着のベルが鳴る中、女の口元の亀裂が大きく広がり、乾いた皮膚がぽろぽろと剥がれ落ちたように見えました。そしてなぜか、あり得ないんですけど、声が届いたんです。


「甘くて美味しいね」

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