第4話 旅の始まりは突然に
周りから驚嘆が聞こえる中で、最も驚いていたのは他でもないフウト本人だ。
「ど、どういうことだよ...」
「ほら!やっぱり風斗さんはすごい方なんですよ!!」
誇らしげにそう言うシモの顔も、面と向かって見ることは出来ない。
僕の、この15年間は何だったんだ...
ただ目の前には15年間の努力をものともしない圧倒的な数字が表示されている。
深く考えた所で何も変わらない。
受け入れ難い事実だったとしても。
それならば、どうすればいい?
...答えは出てこない。
「で、では登録させていただきます」
とりあえず驚かれながらもパーティー登録は完了した。
約束の通りシモを家に招き入れ、今日は疲れたので先に寝る、と伝えて自室に籠ることにした。
机には勇者の時に研究していた強化魔法陣の図がある。その名の通り、魔法陣を完成させれば己のステータスが上昇するというもの。
まあ今はもう必要なくなってしまったが。
ベッドに座って、ただただ静寂な時間が経過する。そしてその日は幕を閉じた。
明るい日差しが差し込む前に、ドアのノック音で目が覚めた。
「おはようございます、フウトさん。入ってもよろしいですか?」
「うん、いいよ」
断る理由もないので承諾し、ベッドから身を起こす。
「フウトさんにお話したいことがあります」
扉の前で話すのもあれだから、という感じでとりあえず居間に移動して話すことにした。
シモは温かい飲み物を2人分用意して、椅子に座る。
恐らくここで話しましょう、という意思表示なのでとりあえず座った。
「で、話とは?」
「はい、フウトさんのステータスがカンストしていた件についてです。昨日は少々興奮してしまい申し訳ありませんでした」
「それはいいよ、続けてくれるかな?」
「はい、まず単刀直入に言うとフウトさんのカンストには明確な理由があるかと思われます」
「というと?」
「まず、フウトさんを初めて見させていただいた時に、相手のエルドラゴンを倒すと共に全てのスキルを吸収していました」
そうだったのか、と心の中。
「それとこれと何の関係が?」
「順を追って説明いたします。少し話の内容が変わるかもしれないのですが、私の本職は研究者でした。ですが、どうにもお金が稼げないとういう事で、回転力が早いと自負している頭を利用して魔道士になったんです。そして、昨晩からずっと、フウトさんの状況が気になったので調べていたのです。勝手に申し訳ありません。」
なるほど、だからクマができているのか。
飲み物の減りも早いし。
「それで朝方、合致が行きました。」
その言葉から数十秒、間が空く。
「どうしたの?」
「...驚かずに聞いてくださいね」
もう驚くことには慣れている、前例がある。
大抵のことは大丈夫なはずだ、がそうもいかないのが人生というものらしいな。
「フウトさんは初代勇者の末裔です」
「え?」
ぽかーんと口を空けた状態で固まる、同時にいくつも浮かび上がる疑問。
「じゃあ、どうして勇者の時は...、というか末裔ってどういうこと?ステータスカンスト?」
「まあまあ待ってください」
全くフウトさんは、と言うシモ。
いやこうなるのも無理はないですよね。
「初代勇者パーティーは魔王を封印し、ここステノア王国に価値と安泰を生み出しました。しかし、その裏で彼は勇者を引退しています。」
「そうなの?」
「はい。魔王は封印されましたが、幻魔はまだうろついていた当時です。ですが、彼はパーティーから脱退しそのまま引退したそうです。」
「なんでそんなことを...」
「驚くのも無理はありませんが、しっかりとした理由があります」
「それは、勇者のステータスが初期値に戻っていたためです。」
「ん?どういうこと?」
再び浮かぶ?の文字、どっかで見たことあるような状況ではあるが点と点は結びつかない。
「初代勇者様は、魔王を封印する代償として己のステータス全部を捧げました。そして、勇者としての初期値に戻り、その後村人になったそうです」
「ざっくりとした内容は分かった。でも何でそこから僕がこうなったという状況になるの?」
「勇者様が捧げたステータスは魔王を封印するためのもの。つまり、魔王が封印をとけばその力は戻ってくる。という訳です。」
「ですが、恐らく何らかの魔王がもたらした効果 によって勇者ではなく、初代勇者の最終職業であった、村人の状態に対して付与されたのでしょう。」
「そして、末裔であるあなたは本職が勇者だったが為に、ステータスカンストが付与されず、初代勇者の勇者だった最終ステータスの初期値。が永遠に続いていたという訳です。」
一通り聞かされて内容は頭に入った。
だが、整理すると恐ろしい事実が1つ浮かぶ。
「それってさ...魔王の封印、とかれてない?」
「あ...」
そう、勇者のステータスが戻ってきたということは魔王の封印を止めている物がない。という事実に繋がる。信じ難き現実だ。
「もし、それが仮に本当だとしたら、魔王はこの世界にとてつもない不幸をもたらします。」
「つまり、止められるのは末裔である僕しかいないと言うことかな?」
どうやらノコノコとしている暇はないらしい。
「はい...」
「行くしか...ないようだね」
「私は、フウトさんについて行きます!2代目勇者パーティーの一人として!」
「村人だけどね」
ステータスがカンストしているだけで終わらせてくれなかったようだが、少し楽しみにしている自分がいる。
無力だった自分が、求められるようになることが。
あんなに悩んでいたことが、嘘みたい?
いや、まだ悩んでいる。
でも、その悩みを解決できるのは自分自身だ。
悩みは事実だけで解決できない。
理由が説明できても、実際に証明しなければ意味が無い。
だから証明するために、行こう。
新たな村人パーティーの伝説の幕開けだ。
ちなみに余談だが、初代勇者の名前もフウトだったらしい。なんという運の巡り合わせだろう
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