第12話…なんか、もう、色々とおかしい。

(会社の帰り道、トボトボと夜道を歩きながら)


はぁ……疲れた……。

頭の中で、無限ループで再生される「ホアた!」。耳を塞いでも聞こえてくる、あのじいさんの声。


……いや、ホワイト取締役、か。


家に近づくにつれて、今日の出来事がじわじわと現実味を帯びてくる。

豪華すぎるリフォーム計画。会社の未来への投資。そして、しどろもどろになっていた、あの顔。


……なんか、もう、色々とおかしい。


そもそも、だ。

だいたい、なんでバスルームにいるのよ?


人の願いを叶える的な存在って、普通もっとこう、キラキラ〜って感じで現れるもんじゃないの? ランプの精とか、魔法のコンパクトからとか。なんで明け方四時、築30年アパートの、一番プライベートな空間に、ダイレクトインなのよ。ドアをバーン!って。デリカシーって言葉、知ってる?


それに、あの力。

紅茶のシャワーに、お菓子のバスケット。あれは絶対、マジックとかじゃない。本物の「魔法」か、それに近い何かだ。


だとしたら……人間じゃないの? あのじいさん?


でも、拳ぶつけて本気で痛がってたし。涙目になってたし。

わたしのハダカのこと聞いたら、顔真っ赤にして動揺して……最後はスケベ心、隠しきれてなかったし。


あの、妙な生々しさ。人間臭さ。

神様とか、精霊とか、そういう高尚な存在とは、どう考えても違う。かといって、ただの変な人間で片付けるには、あまりにも常識を超えすぎてる。


魔法が使えるのに、物理攻撃には弱い。

伝説の経営者なのに、言動は支離滅裂。

記憶がないフリをするくせに、欲望はダダ漏れ。


……なんなの、あの生命体。

もしかして、「怠惰を極めし者の前に現れる、ちょっとスケベでドジな風呂の妖精」とか、そういうジャンルの妖怪?


あー、もう! 考えてもわからない!

わかってるのは、明日からわたしの平穏な日常は、もうどこにもないってことだけ。


家のドアを開けて、電気をつける。

静まり返った部屋。

ふと、バスルームのドアに目がいく。


(……今夜、来るんだっけ。リフォーム業者と、あのじいさん)


嬉しいような、面倒なような、怖いような。

でも、一つだけ確かなことがある。


「……リフォームが終わったら、絶対、内側から鍵がかけられるやつにしてもらおう」


わたしは固く、固く、心に誓うのだった。

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