第4話「イタタタターーーッ!!!」

第4話を作成します。

ジェットコースターのような展開から、さらに**「異次元の存在(ガンダルフじいさんマークII)」**を登場させ、物語を予測不能の領域へ叩き込みます。


***


### 第4話:『プレゼンは湯煙の中で』


重厚な扉がバーン! と開け放たれた。

数十人の視線が、一斉にこちらへ突き刺さる。


「お待たせいたしました! 本日のプレゼンター、入室いたします!」


鬼島課長のよく通る声と共に、わたしを乗せたバスタブが会議室のレッドカーペットを滑走した。

シャーッ! という軽快なキャスター音。

揺れる水面。漂うラベンダーの香り。

そして、役員たちのポカンと開いた口、口、口。


「な、なんだね鬼島君! これは!」

最奥に座る大和田社長が立ち上がった。


「失礼。当社の開発した『究極のモバイルワーク・スタイル』の実演でございます」

課長は表情一つ変えず、大嘘をぶちかました。

「場所を選ばず、いかなる環境でも最大のパフォーマンスを発揮する。それが、この『ノマド・バス・システム』です!」


「ノマド……バス……?」

「さあ、始めろ」

課長が小声で囁き、わたしの背中(バスタブの縁)をバンと叩く。


やるしかない。

わたしは震える手でスマホを操作し、プロジェクターに資料を投影した。

頭には課長のジャケット。

首から下はお湯の中。

こんな格好で「弊社のビジョンは」とか語り出すシュールさ。


しかし、人間とは不思議なものだ。

極限状態を超えると、羞恥心は消え失せ、逆にゾーンに入ることがあるらしい。

わたしは完璧だった。

湯船に浸かっているおかげか血行が良く、脳は冴え渡り、声のトーンも絶好調。

ラベンダーのアロマ効果で、役員たちの表情も次第に緩んでいく。


「――以上が、弊社の提案でございます」


一礼(お湯の中でペコリ)。

静寂。

そして、パチ、パチ、パチ……と、大和田社長が拍手を始めた。


「素晴らしい……! まさに常識を打ち破る発想! ぜひ契約を進めようじゃないか!」


うそでしょ。

通った。通ってしまった。全裸プレゼンが。


「では、契約書のサインを……」

社長が万年筆を取り出した、その時だった。


**ドゴォォォォォンッ!!**


会議室の天井が、物理的に吹き飛んだ。

粉塵が舞い、瓦礫が高級テーブルの上に降り注ぐ。

悲鳴を上げて逃げ惑う役員たち。


「な、なんだ! テロか!?」


ぽっかりと空いた天井の穴から、一筋の光が差し込む。

そして、ゆっくりと降下してくる影があった。


それは、またしても「風呂」だった。

ただし、わたしのような庶民的なユニットバスではない。

黄金に輝く猫足のバスタブ。

側面にはルビーやサファイアが埋め込まれ、中には七色に光る液体(たぶんゲーミング入浴剤)が満たされている。


そして、その中には――。


「フハハハハ! 小娘よ、貴様の『風呂道(バス・ドゥ)』など、児戯に等しいわ!」


サングラスをかけ、アロハシャツを着たガンダルフ――いや、微妙に違う。

髭が金色だ。杖の代わりに、手には最新型のDJコントローラーを持っている。

全身から放たれるオーラは、荘厳さよりもパリピ感を醸し出している。


わたしは呆然と呟いた。

「……誰?」


ジジイはDJコントローラーをスクラッチしながら、マイクに向かって叫んだ。


「我が名はガンダルフ・マークII! 風呂の神に選ばれしネオ・ウィザードなり!」


キュイキュイキュイーン!(効果音)


「貴様の風呂プレゼン、なかなかロックだったぞ! だが! 真の『風呂ニスト』を決めるには、まだグルーヴが足りん!」


マークIIは黄金のバスタブから身を乗り出し、大和田社長の目の前にズイッと迫った。


「社長サン! 契約書にサインする前に、この俺と『風呂・ラップバトル』で勝負させるのが筋ってもんだろォ!?」


「ラップ……バトル……?」

社長が白目を剥きかけた。


マークIIはわたしをビシッと指差す。


「勝った方が、このビルの全水道権限と、社長の隠し口座の暗証番号をもらう! どうだ!?」

「なんでだよ! 犯罪だよ!」


ツッコミを入れるわたしを無視し、マークIIは懐から奇妙なスイッチを取り出した。


「拒否権はナシだ。さあ、始めようか……『全社員強制入浴モード』起動!!」


ポチッ。


その瞬間、会議室のスプリンクラーが一斉に作動した。

だが、降ってきたのは水ではない。

とろりとした、ピンク色のローションだった。


「ぬわあああぁぁぁ!?」

「滑る! 滑るぞ!?」


役員たちが次々と転倒し、会議室は阿鼻叫喚のヌルヌル地獄へと変貌する。

鬼島課長までもが、足を滑らせてわたしのバスタブへ頭から突っ込んできた。


「ぶくぶくぶく!(助けろ!)」


カオス。

圧倒的カオス。


マークIIが高らかに笑う。

「さあ、踊れ小娘! 貴様のライム(韻)で、このヌルヌルを沸騰させてみせろ!!」


わたしは天を仰いだ。

お風呂でゆっくりしたかっただけなのに。

なんで今、ヌルヌルまみれの会議室で、金髪のパリピジジイとラップバトルしなきゃいけないの!?


私の喉が、勝手に震え出した。

魔法の強制力か、それともヤケクソか。


「……やってやろうじゃないのよ!!」


わたしは課長の頭(まだお湯の中)をマイク代わりに掴み、絶叫した。


「Yo! ここは私のサンクチュアリ! 邪魔する奴には容赦ないオワリ! 沸かしてやるよ、お前の脳みそごと追い炊きでなァッ!!!」


(第5話へつづく)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る