第2話「願いかなえてやろう!」



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### 第2話

**【テーマ:願いは(物理的に)叶えられた】**


(……前略……)


「は?」


荘厳な雰囲気。伝説の魔法使いの風貌。そして、世紀末救世主のポーズ。

情報量が多すぎる。脳の処理がまったく追いつかない。

羞恥心と恐怖と、目の前のシュールすぎる光景に対する圧倒的な困惑がごちゃ混ぜになって、わたしの思考は完全に停止した。


しかし、老人は待ってくれなかった。

彼はバチバチと指を鳴らし終えると、カッと目を見開き、厳かに告げたのだ。


「戦場へ向かうのが憂鬱か。ならば案ずるな」


え? なんでそれを。


「その城(フロ)ごと、連れて行けばよい!!」


老人が杖を振り上げた。

刹那、杖の先端がカメラのフラッシュのように激しく発光する。

視界が真っ白に染まり、強烈な浮遊感が胃袋を襲った。まるでジェットコースターで急降下するような、あの嫌な感覚。


「ちょ、まって、いやあああぁぁぁ!!」


私の絶叫は、唐突な「チン」という軽快な電子音にかき消された。


風が、変わった。

湿った湯気が消え、代わりにひんやりとした空調の風が肌を撫でる。

ハーブの香りが消え、代わりに革靴と整髪料の匂いが鼻をつく。


おそるおそる、目を開ける。


そこは、わたしの家のバスルームではなかった。

薄暗い照明も、冷たいタイルもない。

あるのは、磨き上げられたステンレスの壁と、規則正しく並ぶ階数表示のボタン。


そして、目の前には――。


「……おはよう。ずいぶんと、アグレッシブな出社だな」


手にコーヒーを持った、スーツ姿の鬼島課長が立っていた。

さらにその後ろには、ポカンと口を開けた同僚たちが数名。


ゆっくりと状況を理解する。

わたしは今、会社の、始業十分前の、満員のエレベーターの中にいる。

**バスタブに乗ったまま、すっぽんぽんで。**


閉まりかけた扉の向こうで、あのジジイの声が聞こえた気がした。

『お前はもう、詰んでいる』


「いやぁぁぁあぁあッ!!!」


わたしの魂の叫びと共に、エレベーターの扉が無慈悲に閉まった。


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