奉公〜クーデターで政権取られた元王女は夢の下町探索に繰り出します!目指せ、友達ゲットだぜ!!〜
九々
第1話 反乱
♠︎
「王は死んだ。これよりこの国は我々、軍部が支配する」
壮年の男が物々しく言い放ち、眼前の兵たちへ命じる。
「王女が一人、王宮内に居るはずだ。探せ! 決して奴らに先取られるな」
全身に鎧を纏った兵たちが抜き身の剣を手にして宮殿内を駆け回っている。
その様子を尖塔の物陰から隠れて観察している男がいた。男、レグルスは、階下の兵たちがこちらに気づいていないことを確認して、腕に抱えた少女の顔を見た。
夜闇の中で顔色はわからないが、少女は落ち着いた様子でレグルスの腕に抱かれている。
この国唯一の王女、アリスは寝巻きに一枚カーディガンを羽織っただけの姿で深夜の宮殿内の騒ぎを見つめていた。
夜、深い眠りの中にいたアリスは、急に侍女のポルックスに起こされた。
王宮でクーデターが起こり、父王が暗殺された、とポルックスは告げたのだ。
アリスはその言葉に何も応えず、数回瞬きして無言で頷いた。
急いで最低限の荷物をまとめ、寝巻きのまま部屋を出る。部屋の外には、王の腹心であるレグルスが控えていた。
彼に連れられて反乱軍から逃げる。幸い、アリスの私室はクーデター現場となった政務棟からは一番遠いエリアにある。ここまでは、兵たちには制圧されていなかった。
「けれど、敷地の出入り口は全て押さえられているでしょう。どうやって脱出しますの?」
廊下を移動しながら、ポルックスがレグルスに尋ねた。
「当然、門は使えないだろうな」
レグルスがそれに頷く。まだ十歳のアリスは足が追いつかないため、レグルスが彼女を抱えて走る。
「王宮と図書館を直接繋ぐ転移装置を使う」
「これは図書館長の俺か、国王の許可がないと使えない。だから国王は、万が一何か起こった際は、俺が王女を保護するようにと指示していた」
そう言って、彼は王宮の中心に聳える尖塔へと向かった。通常、宮殿から出るのであれば、わざわざ退路を塞がれるような塔へはいかないだろう。その付近は兵の捜索も手薄になるはずだ。
レグルスの読みは当たっていたようで、彼らは誰とも会わずに尖塔の下まで移動した。
兵が手薄であっても油断はできない。レグルスたちは、周囲を確認しながら慎重に進む。
「レグルス殿、この先は螺旋階段まで兵は居ません」
先に脱走経路の偵察に行かせていたカストルが戻ってきた。ポルックスの双子の兄、カストルはこの先が安全であることをレグルスに告げて、主人であるアリスの様子を伺った。
「ありがとう、カストル。あなたも無事でよかったわ」
アリスは毅然とした声でカストルを労う。その声に、カストルも安心したように息を吐いた。
「それも時間の問題だろう。追っ手が来ないうちに、急ぐぞ」
四人は物陰に隠れながらも駆け足で尖塔に入った。
入ってすぐの広間から続いている、大階段を駆け上る。階段は四階までは他の棟と連結しているため、豪華な装飾と歩きやすい作りになっている。それより上の階になると、見張り用の簡素な作りになる。だが、そこまで行けば、後は最上階まで一方通行だ。挟み討ちなどの心配もなくなる。
静かに、それでいて出来るだけ早く、四人は階段を登る。大階段で登れる一番上まで登りきり、さらに上階へ続く見張り用の階段室への扉に手をかけた時、渡り廊下の先に数人の兵士の影が現れた。
「止まれ。お前たち、何者だ」
大声をあげながら、兵がこちらに走ってくる。その声を聞いて、さらに近くにいた兵たちが集まってくる。
レグルスは、カストルとポルックスを先に階段室に入れ、アリスを降ろした。
「最上階に転移装置がある。先に登れ。俺は扉を封鎖して、すぐに追いかける」
三人が階段を駆け上がる。背後でレグルスも急いで扉を閉めた。
レグルスは胸元に付いていた装飾用の布ベルトを引きちぎり、手でまっすぐに張る。そして内ポケットから藍色の、小さなガラス玉のようなものを取り出した。
それを先ほどの布ベルトにかかげると、ガラス玉が数回、瞬いた。一瞬で、柔らかい布が薄い板のように硬化した。
その布板を扉の枠に斜めに差し入れ、足で強く踏み込む。即席の突っ張り棒だ。
すぐに突破されるだろうが、時間稼ぎになれば良い。
レグルスは内開きの扉が、固定された布板で邪魔され開かないことを確認する。そして急いで階段を登り、アリスたちの後を追った。
アリスよりは年上であるが、カストルとポルックスもまだ十三歳と幼く、体も小さい。長身のレグルスはすぐに彼らに追いついた。
再びレグルスがアリスを抱え、一行は最上階へと急ぐ。途中の窓から見える景色はどんどん高くなり、少しずつ明るくなっている。夜明けが近いのだろう。
螺旋階段の終わりには、少し広くなった通路に古い木の扉があった。扉には一つだけ錠前がかけられている。
「本当に、ここから図書館へ移動できますの?」
ポルックスが不安気にレグルスに尋ねる。
ここは塔の最上階だ。もし兵たちに囲まれたら、どこにも逃げ場がない。レグルスの言葉がどこまで信用できるか分かりかねているのだろう。
レグルスがそれに答えようとした時、螺旋階段の下から複数の声が聞こえてきた。追手の兵たちが扉を突破して登ってきているのだ。
「馬鹿め、自分から行き止まりに逃げるとは」
「もう逃げ場はないぞ。悪いようにはしない、大人しく我々の元に来い」
兵たちがアリスを捕まえようと迫ってきている。
レグルスは慌ててアリスを床に降ろすと、懐から古びた鍵を取り出した。錠前に鍵を差し込むと滑らかに錠が外れた。扉を開けて、三人を急いで中に入れる。
部屋に入ると扉を閉めて、内側から先ほどの錠前をかけた。
部屋の中は正面に大きな窓があり、壁に沿って小さな机が置かれている。机の上にはいくつかのメモ書きが乱雑に散らばり、壁には何枚かの絵や手紙が貼られている。
家具類はその机以外何も置かれていない、ほとんど空室のような室内だったが、何より異彩を放っているのは床だった。
幾何学的な複雑な模様が何層にも重なった、円形の大きな陣が床一面に刻まれていた。――これが、転移装置だろう。
陣は半透明に透けていて、窓から入る薄い朝日を反射させている。塗料ではなく、床に埋め込まれたガラスのようなものだとわかる。
レグルスは三人を陣の真ん中に立たせると、懐から何かを取り出す。先ほどの、藍色のガラス玉だ。
陣を描くガラスの線をなぞると中心に一箇所、小さく窪みになっている場所があった。球状にへこんだそこは、小さな玉がすっぽりはまりそうな窪みだ。レグルスはそこに自分のガラス玉を嵌める。すると、陣全体がぼんやりと光りだした。
光は三人の足元に集まってくる。寄せては返す波のように三人の周りを回り、やがて陣に描かれた様々な紋様や線を作った。無数の光の幾何学模様が、少しずつアリスたちの体を登ってくる。
「うわっ、なんだコレ」
カストルが驚いて足を離そうとすると、レグルスから鋭い声が飛んできた。
「動くな。今、装置がお前たちの身体データを読み込んでいる。読み込みが終わり次第、すぐに図書館へ移動する」
扉の前に机を置き、バリケードを作りながら、レグルスが首だけ振り向いて三人に言う。
階下の階段室扉と同じように、腕の装飾ベルトを外し内ポケットを探る。しかし、ガラス玉は今アリスたちの足元にあることに気がつき、レグルスが小さく舌打ちをする。
装置の光はじわじわとアリスたちの足を上り、膝まで届きそうだ。
部屋の向こうから兵士たちの足音が聞こえてくる。もう、すぐ下の階まで来ているのだろう。
「レグルス、あなたはデータ? の読み込みをしなくて良いの?」
アリスが尋ねる。
「ああ、俺はいつでも使えるように事前に保存してある。というか、執務から逃げ出す時の逃げ道として、しょっちゅう使っていたからな」
王も俺も、とレグルスは悪びれなく答える。時々、国王が側近たちを撒いていなくなっていたのはこんなカラクリだったのか。
アリスたちに白い目を向けられても、レグルスは気にせずどうにか扉を塞げないかと部屋を見渡す。あいにく机以外には何も無い部屋だ。レグルスは体で扉を押さえつける。
光の紋様は三人の腰を超えて、さらに登っていく。
「この部屋の中か!」
扉の向こうから兵士の声が聞こえた。とうとう、この部屋まで追いつかれたようだ。兵たちは扉を開こうとするが錠前で閉じられて開かない。
何人かが扉に体当たりをして、力尽くで開けようとする。レグルスは内側から押し返し、扉が外されないように防ぐ。
光がアリスたちの首元に届こうとしている。
「タイミングを合わせろ。一斉に押すぞ」
兵士たちが複数人で扉に体をぶつける。レグルスが足を踏ん張って押さえつける。何度目かの体当たりで、古びていた蝶番の方が吹っ飛んだ。
レグルスが戸板を押さえるも、数人がかりで押し込められついに兵たちが部屋に侵入してくる。
アリスたちの体が、全て装置の光に包まれた。
さらに正面の窓から朝日が差し込んでくる。日が登ったのだ。一瞬、強い逆光に兵士たちは顔を覆う。その隙に、レグルスは戸板を思い切り兵士に向かって蹴りつけた。
兵たちが一歩下がった隙に、レグルスは部屋の中心に向かって走る。
床の装置を踏んだ瞬間、レグルスの体も装置の光に包まれた。中心に埋め込まれた藍色のガラス玉を触り、三人の体を抱き寄せてレグルスが声を上げる。
「掴まってろ、移動するぞ!」
その瞬間、床の陣が一際強く発光した。部屋中が光に覆われ、四人の体はキラキラと光の粒のようにほどけていく。
アリスたちは体が浮くような感覚に襲われ、視界は白く染まった。
さらに光は強くなり、目を開けていられなくないほどの光に、全員きつく目を瞑る。
陣の光が収まり、兵士たちが目を開けた。部屋には兵士以外誰もおらず、伽藍堂の部屋を朝日だけが照らしていた。
「くそ、知識階級の味方がいやがったか。――これだから『魔術』ってやつは腹が立つ」
兵士たちは悪態をつきながら部屋中を見渡す。
「まだ王宮内にいるかもしれない、探せ!」
♦︎
アリスたちが目を開けると、見たことのない部屋にいた。
狭い、窓も照明もない暗い部屋に天井だけはやたら高く、遥か上の方にうっすらとあかりが見える。まるで煙突の中に居るような部屋だった。
レグルスは床からガラス玉を拾い上げ懐にしまうと、手を伸ばして壁を探った。四隅を探していくとすぐに目当てのものを見つけたのか、何かのスイッチを下ろした。
そのまま壁を押しながら横にスライドさせていくと、隠し扉が開く。壁の向こうから照明の光が入って来て、アリルたちは眩しさに目を細めた。
そこは背の高い本棚に囲まれた、広い広い書庫だった。壁にも部屋の中央にも本棚が並べられ、迷路のようになっている。
その一角には大きな本棚が四角く並べられ、柱のように天井まで聳え立っていた。それらの本棚の背で囲まれた空間が、小部屋を作っている。アリスたちが今いる小部屋だ。
室内照明で照らされた足元を見ると、塔の最上階にあった陣と同じようなものがここにも描かれていた。
三人は小部屋を出て、それぞれ書庫を見渡す。
「ここは、図書館ね」
「あぁ、見ての通り。管理人以外立ち入り禁止の書物庫だ」
「図書館と王宮は大きく離れている。ここまでは軍部も捜索には来ないだろう」
レグルスが安心させようとアリスにそう言うと、ようやく実感が追いついて来たらしい。アリスはカーディガンで顔を覆って、消えそうな声で呟いた。
「……お父様……」
レグルスとカストルが顔を見合わせる。そんな男性陣の前を横切って、ポルックスがアリスの肩を抱く。
「姫様、今日は一度休みましょう。色んなことがあり過ぎましたもの」
アリスはポルックスの胸を顔を埋めて、小さく頷いた。
男性陣は何も言えずに所在なさげにその様子を見守っていた。特にレグルスが一番、居心地悪そうだ。
しばらくしてアリスが落ち着くと、今後は図書館でアリスを匿う、とレグルスが三人に告げた。
「王宮ほどではないが、図書館も国有数の大規模施設だ。居住棟なら、暮らすにも十分な設備は整ってる……俺はあまり使っていないが……まあ、好きに使ってくれ」
レグルスの案内で書物庫を出て居住棟へ移動する。
本人が言う通り、ほとんど使われていない建物はあちこちに埃が積もっていた。
ポルックスが急いで一室だけ埃を払い、その間にカストルが新しいベッドシーツを用意する。レグルスにリネン類の場所を聞いても首を捻るばかりだったので、普段彼が寝起きしている当直部屋に押し入り、彼の予備のシーツを一式ぶん取った。
二人が最低限ベッドを整えると、アリスは逃げて来た寝巻きのままベッドに寝かされる。
「ゆっくりお休みなさいませ、姫様。ご安心ください、わたくしたちがずっとお側に居りますわ」
アリスはポルックスの手を握り、ちらっと部屋の入り口にいたレグルスに視線を向けた。
「……図書館は独立組織だ。軍部であっても、独断で押し入ったりは出来ない。俺も、それなりに立場もあるし……あいつらの好き勝手にはさせないさ」
「……何か用があったら、言いに来い」
気まずそうにそれだけ言うと、レグルスは部屋を出て行った。
後に残ったカストルとポルックスがベッド横に立ち、アリスの顔を覗く。
「二人とも、私について来てくれてありがとう。私、あなたたちが居てくれて良かったわ」
アリスは薄く微笑んで眠りについた。従者二人はそれを見て、安心したように頷きあう。そして小さな主人の側を、離れることなく見守った。
♣︎
アリスが眠りについた頃、レグルスは館長室の作業机で一人頭を抱えていた。返却本の確認作業はまったく進んでいない。
図書館でアリスを匿うとは言ったものの、今後どうしたもの見当もつかない。そもそも自分は人付き合いが苦手なのだ。特に子供に対しては、どう接して良いのかわからない。
「俺にもしものことがあれば、娘を頼む」
などと酒を片手に話す王に、酔いに任せて軽く口約束をした自分を恨んだ。
レグルスと国王・シリウスは他の臣下たちのような一般的な主従ではなかった。むしろごく個人的な付き合いだったと言える。
偏屈で歯に衣着せぬレグルスはその性格故に友人がおらず、いつも国の端の図書館に一人篭っていた。人を寄せ付けないその場所に、シリウス王が目をつける。執務に追われたときの、良い避難場所として押しかけてくるようになった。
いくら館長とはいえ、国王を無下に追い返す訳にもいかず、レグルスは王の好きにさせていた。
そのうち王はレグルスの図書館での仕事ぶりを見て、王宮の執務室へ彼を引き摺り込んだ。簡単な書類整理ぐらいだったが、レグルスの得意分野であり、シリウス王の最も苦手な作業だったため、王がレグルスに頼み込んだのだ。
その頻度は次第に増えていき、最早常勤と言えるくらいレグルスが執務室に出入りするようになると、二人は王宮と図書館の行き来が面倒くさくなった。
そこで二人は国内でも有数の魔術の腕を駆使し、王宮と図書館を繋ぐ転移術式を作り上げてそれぞれに設置した。
レグルスがシリウス王の仕事を手伝いに行けるように、シリウス王が息抜きに逃げ出す用に、――緊急時の避難用に。
転移装置ができるとますます行き来は活発になり、お互いの仕事終わりに酒を持ち寄るようにもなっていった。
図書館は行政からも軍部からも独立した公的機関だ。ここには民間へ貸し出す書籍から、国家の重要資料まで、およそ国に関わる全ての情報が集まっている。
ここを政権が独占するということは、情報を遮断し独裁政権を敷くと宣言するようなものだ。
だからシリウス王は、表立ってレグルスを重用することはなかった。図書館と王家が癒着しているなどと思われないために。
表向きにはあくまで、少し特殊な立場の公務員の一人として扱った。
そして図書館を押さえられないのは軍部も同じだ。
ここを行政が支配すれば、自分たちの権利への侵害だとして知識階級から大きな反発が出るだろう。そのリスクを取ってまで軍部が図書館を欲しがる理由もない。ここは一般的には、埃を被った古本の物置でしかないのだから。
何か必要な情報があるなのなら、普通に本を借りにくれば良いし、漏洩して困ることであれば、関連する本を買い取れば良い。王家相手にもそれくらいの融通は利かせて来たし、軍部相手であってもその対応を変える気はない。
レグルスとシリウス王の関係を知らなければ、軍部がわざわざ兵を率いて図書館に来る理由はない。
ここへは王女捜索の手は届かないだろう。
(逃走中に、俺の顔を見られていなければな……)
何せレグルスにも急な報せだったのだ。
ここ最近、シリウス王の訪問はなく、仕事を邪魔されることも、執務室に呼び出されることも少なかった。レグルスは元の静かな日々を、平和に過ごしていた。
昨夜もつつがなく仕事を終え、一杯飲んで寝ようと部屋に戻ったところで懐のガラス玉が赤く光りだした。赤い光はレグルスの不安を煽るように何度も点滅する。
国王からの緊急連絡であるその点滅に、レグルスは急いでガラス玉を握りしめて通信を繋げた。
ガラス玉の向こうからは、大勢の人の怒声と悲鳴が聞こえてくる。王宮で何か事件が起こったのだと、すぐに分かった。
部屋を飛び出し、王宮への転移装置へ向かって走る。握りしめたガラス玉から、レグルスへと呼びかけられる。
「友よ……娘を、探してくれ。頼む……アリスを……守って、くれ……」
息も絶え絶えなシリウス王の声が、そこまで搾り出すように言うと、それ以降ガラス玉からは何も聞こえなくなり、通信は途絶えた。
レグルスはシリウス王の元へ駆けつけたい気持ちを抑え、彼の最後の言葉を胸の内で繰り返す。
転移装置で王宮へ行くと、普段通っている執務室とは反対方向、王家の私室がある棟へと向かった。
シリウス王の言葉通り、王女を守るために。
顔を上げて窓の外を見る。高台に立つ図書館からは国を一望でき、遥か遠くには王宮が見える。
数時間前まではアリスが暮らし、シリウス王がいた宮殿だ。
レグルスは小さく息を吸うと、立ち上がって部屋を出た。
❤︎
アリスはそれから丸一日ベッドで過ごした。長い時間眠り、たまに起きても水を飲むとまたすぐに眠った。
翌日の昼頃に起きても、ベッドからは出ずに窓の外を眺めていた。何かを思案するように、黙って外を見つめている。
そんな主人に、従者の二人も何も言わずに側で控えていた。
レグルスはアリスの部屋を入ることなく、図書館長の仕事に奔走した。
あんなことがあったのだ。まだ小さいアリスには、気持ちを整理する時間が必要だろう。そう考え、レグルスはしばらくアリスをそっとしておくことにした。
少し日を置いてから、今後のことを話そう。
その間に出来るだけ図書館の雑務は終わらせておこう。そう、レグルスが館長室に篭って仕事をしていると、いきなり扉が開いて小さな影が転がり込んできた。
「クーデターが起こって政権を取られたということは、私はもう王女ではなく一般市民になったということよねっ。一般市民なら自由に市街を探索できるじゃない!」
屋台を食べ歩きするの夢だったの! と目を輝かせたアリスが館長室に飛び込んできたのは、彼女が図書館に来て三日目の朝のことだった。
「……切り替え早くないか?」
呆れるレグルスをよそに、元王女は早速街歩きの計画を立てる。行きたかった店や食べてみたい料理を上げて、従者たちに相談していく。
「下町に詳しいお友達が欲しいわ! 一緒にショッピングデートをするの!」
ここぞとばかりに張り切っているアリスに、レグルスは大きなため息を吐いた。
人付き合いの苦手なレグルスにとって、この先の日々は中々に苦労することになるだろう。
「最後の最後に、一番面倒な仕事を残していきやがって……」
レグルスがついた友への悪態は、少女たちの楽しそうな笑い声に掻き消された。
奉公〜クーデターで政権取られた元王女は夢の下町探索に繰り出します!目指せ、友達ゲットだぜ!!〜 九々 @QQ_99
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