第十六話 これって続くんですか……どう致しましょう……。

 はぁ……はぁ……あれは、やばい……逃げなくては……確実に殺される……。

 私はただ、マルクレイブ卿に使える一兵士……城郭都市メルトケーレの警備中にあんな化け物と出くわすとは……。

「ここまで来れば……。」

 もはや私は城郭都市を抜け近くの森まで足を走らせてた……生まれつき人に気付かれにくい……何でも特殊な能力らしいが……それが今、役に立っている。騎士団入団にもこの能力のおかげで体格差が物をいう女性であっても入れたのだ……世間はまだ女性に厳しいからな……私は自分の生まれを誇りに思う……。

 

「どこまで足を走らせる気ですか?」

「きゃ……!」

 叫ぼうとした瞬間口を抑えられる。

「そのスキル……面白いですね……。」

 何でもこの女……堕天使らしい……だが、メイドの格好なんてするか……。

 

「どうしたのメラニア?」

 今度は蛇?!上半身は女性だが……あれは一体……。

「ああ、オロチ……この子あなたと同じスキルかも。」

「本当?嬉しいー……でも、可愛いわね……屋敷に入れたらご主人が手を出すかもでしょ?」

「まぁ……私達を娘か何かと思ってるようですし……この女を入れてしまえば可能性は捨て切れないでしょう。」

 何を言っているんだ……状況が分からない……。

 

「エサ……」

 また一人……紙袋を頭に被ってる……全く掴みどころが無い。

「そうだわ!リンの餌にしましょう!今日はチートデイねーリン?」

「ウン……。」

「バカ言うな。そもそもお前達はご主人の指示に反して、警告も無しに兵士を殺しまくっただろ?この女に敵意はないし、そのまま連れ帰るのがベストだ。」

 堕天使の話が本当ならまだ助かるか?

 

「でも良いの?顔の皮膚ぐらい頂いても良いじゃない?」

 ひょっこり出てきたのは児童ぐらいの人形……よく見ると可愛らしい。

「ドロシー……確かにな……私も中身は異形さ……この顔は人間の皮膚で覆ってるだけ……そろそろ替え時ではあるとはいえ……」

 堕天使が自分の頬を摘むとゆっくり伸びる……ほつれた隙間から歯が見える……まるでアンデットのような腐った皮膚を隠してるようだ……。

 

「ここは寮長である私の意見を聞いてもらいたいわね。」

 今度は上から……カサカサと何かが木の上を張っている。

 目線をゆっくり上に持っていく。

「は〜い?どうしたの?」

 っ!!何だあれ……目が合った瞬間人間と思ったが全体を見ると下半身がムカデだ……!

「とにかくよ……殺しちゃだめ……だけど……。」

 ムカデ女はゆっくり近づいてくる……。

 

「実験台にはできるんじゃない?」

 服を剥がされ地面へ倒してきた……このムカデ女以外もそうだが、力が規格外だ。

「私達……ちょっと訳ありなの……体の一部分壊しても良いわよね?どちらにせよ助かるのだから……。」

 するとムカデ女が股を無理矢理開かせる。

「なるほど……私達と同じ処女って事ね……。」

 そして、じっくりと見る……顔が近い……。

「良いわね……これなら旦那様との初体験の際、破瓜とはどういった物なのか……本以外で見物できる訳ね……。」

 蛇女め……何を言って……。

「良い事思い付きましたわ!まずは、破瓜体験させてから顔の皮膚をメラニアに、そして四肢をソワレのパーツとして渡せば有効活用になりましてよ?!」

 この人形があああああ!!私をモノという粗末な存在じゃない!!私は人だ!!家畜のように皮を加工し最終的に肉にするのと変わらない!!

「なるほど、資源は有効にって事ね……旦那様の返事次第で最後はリンに……。」

 蛇女が変に納得してると紙袋を被った女の頭から何か垂れている……。

「あらあら、ヨダレが……だめよ……先は長いからね?」

 ハンカチで袋の中を拭いていやると、うっかり破いてしまった。

「ゴハン……。」

「え……。」

 その時全てを悟った……私は家畜同様に利用されると……。


 ——そしてヤマザキファミリアでは1時の休息が与えられた……。

「うん……?」

 気づけば朝……だが、変な時間に目が覚めてしまった……。


 大浴場へ行き湯船に浸かろう……最近入れてないし……なんならメイド達の時間帯が未だに分からない……出て行ったのを確認して素早くシャワーを浴びるという毎日……なんか忙しいよな……。

「流石にこの時間帯なら誰も入らんだろ……。」

 脱衣所で服を脱ぎ浴場へ行く……シャワーを浴びて湯船に浸かる……この順番を守らずして入るべからずってな……。

「はぁ〜」

 それにしても、これからどうすれば良い……脅威は去った……いや、一時的か……どちらにせよ改善点はあった……まず、ヴァリアンズは戦力を増強しなくてはならない……元々パーティ上がり……数が少なくて当然……カリス・ピスティソスが戦う場面が幾つもあり少しヒヤヒヤした……なので数を増やすべきという事だ……バーバリティとポンテ・モーレ辺りが適任だろう。

 後はルトロスだ……あいつのせいで俺のエロ本の八割が無くなった……お気に入りも雑な所に隠すし……問題はヤンデレになった事……あのステータスを確認する前までその片鱗は少なからず感じてはいたが……どうしてああなった……何が原因だろう?

 そして、転生石の存在……アイテムを使用したマルクレイブ卿は強かった……転生前何度PKされたか……幸いマルクレイブが転生石の仕様をあまり理解してなかったのが唯一の救いだ……転生石を使用すればレベルは1に戻る……それとどういった種族なのか把握してなかったのは都合が良かったのだ……今後転生石を使う敵が現れ、その仕様を知って尚且つレベルが高かったら……僕一人で彼女達を守れるか……。

 

「うーん……。」

 深く考えていると少し上せたか……ボヤけてくる。

「ああ……俺のエロ本が……。」

「エロ本?」

 すると、女性の声……ん?

「え?」

「どうしました?ご主人?」

「だあああああああああああああ!!」

 正体は『ライア』……人魚の『アクアリス』……まさかずっと居たのか……。

「そうだ、肩を流して差し上げます。」

「いい!大丈夫!」

「なんで?」

 またこのパターンか。

「とりあえず、俺は上がるから。」

 すると、脱衣所の扉が開く……まさか……。

「ご主人、この時間帯はカリス・ピスティソスの入浴時間です……狙って入った訳ではないのですか?」

「嘘?」

 いや、おかしい……俺はずっと見ていたんだぞ……彼女達は勤務終わりに入浴するはず……いや、この時間は普段僕が寝ている時間だがら……。

「朝風呂かああああああああ!!」


「おや?」

 先頭にセンシアが……奥にメンバー全員……。

「居た。」

 ルトロスがセンシアを抜いてこっちに来る……なんだ?

「ご主人……キスしたって本当?」

「え?」

「また、私の初めてを奪って何が楽しいの?ねぇ?聞いてる?」

「い、いや……」

 ルトロスが肩を掴むと指圧が肩にめり込む……痛い……。

「ルトロスもキスすればハル様にハグされますよ。」

 センシアめ……この状況は違うだろ……。

「ウッセーな……オメェに取られたからこうなってんだよ……。」

 うわ……ケンカかこれ?

「お、お前らケンカは……」

「黙れ。」

「はい……。」

 ルトロス……最近怖いんだよな……。

「まず、自分の主人に黙れと言うのはおかしいでしょう……。」

 そうだな……センシア。

「お前も扱い雑な癖に生意気言ってんじゃねー。」

 そうだな……ルトロス。

 僕はそのまま正座し彼女達の喧嘩を聞く事になった……。


 彼女達の喧嘩を見ていて少し思い出した事がある……センシアが2番目に作られておりルトロスが1番目に作られたNPC……そこで僕は彼女達を戦わせる事にした……目的はただ一つルトロスに適当に付けたスキルを試しつつセンシアに見合ったスキルをつける事……そしてその行為はセンシアに留まらず全てのメイドに試させた……おかげでルトロスのスキルはいっぱいだしレベルもカンスト……当然センシア以降のメイド達はルトロスを倒せない訳だ。だけど、その強い状態のままでさえルトロスはセンシアに勝てなかった……センシアの性格、職業などを鑑みて配置したスキルが完璧だったが故に生じた結果……スキルの中にもステータスや職業、性格で足を引っ張る要素があるからな……。

 このケンカは僕の今までの行いが原因……。


「ふ、二人とも……。」

 二人が僕を見る。

「る、ルトロス……僕が悪かった……君を実験的な扱いをしてしまったが故に……こんな……。」

「ああ……それは気にしてません……むしろ嬉しかったというか……。」

「へ?」

「言ったでしょう?初めてが欲しかったと……あなたから貰った初めてを今度は私がしたいだけ……ただ、横槍が……それに先を越されるのが嫌なだけです。」

 ルトロスはしゃがむと両手で顔を挟んでくる……な、なんですか?

「あなたのせいで……ぐちゃぐちゃなの……責任とってください、ご主人様?」

「えぇ……。」

「良いですね……ルトロスの機嫌は最早ご主人でしか取れません……私達では無力ですからねー。」

 お前関わりたくないだけだろ。

「なので、肩流しイベントはこの私ルトロスが務めます……今までのことを水に流すのは難しいですが……霞むぐらいには出来るので……お願いしますね?」

「はい……。」

 

 この後ルトロスに肩を流してもらうけど……不思議と背中が寒かったのは言うまでもない……。


 ——城郭都市メルトケーレは城だけが崩壊……そして何故か大量の兵士の死骸が道に散在していた。目撃証言では大量のアンデットが行進……そして巨大な肉塊のゴーレムを見たとか……挙句堕天使が舞い降りたと騒ぐ始末……住民の証言など夢物語だと聖王の周りは一貫して主張を貫く……。

 この議題を王都アトロニクスにある王宮で聖王とその関係者が円卓を囲む。

「こんなバカな話ありえない!」

「本当にそうだな……逃げ出した兵士の証言が合致するが、裏で話でも合わせたのだろう……人も少ないしな。」

「どちらにせよ、脅威と見るべきだ。戦争もこれで出来なくなった。」

「どうします?聖王『アルガニーテ』陛下。」

「直ちに宣戦布告を撤回……小規模な帝国との戦争をしないという条約も制定する……。」

「分かりました、そうなりますと要求として国境開通を進言してくるでしょう……外の物が多く輸入されます、我々の信教にも影響が……。」

「構わん、どちらにせよマルクレイブ卿は帝国と繋がっておった……彼の持つ転生石も失い、ワシの娘であるモニカレーデも帝国におる……早い内に答えを出すべきじゃった。」

「……陛下……。」

「と、とにかくその件はその方向で進めるとして、マルクレイブ卿が収めていたこの地域……前マルクレイブ領ですかな……誰を領主に?」

「ダン伯爵の進言ではレナード男爵を推進した。あんな詐欺師を領主にするなどあり得ん、おまけにダン伯爵は一回死んでいるらしいぞ……そんなもの信じられるか?」

「構わん、レナード男爵を領主にすればよかろう、さすればボロも出る。」

「はっ!では、次の……」

 

 ——数日の時が過ぎ……自室のベッドの上に腰を下ろし頭を抱える……。

「うん……。」

「如何なさいました?ご主人様。」

「センシア……僕はこれからどうすれば良いと思う?」

「どうすればって……このまま一生暮らせば良いのでは?」

「そうする為に必要な事なんだ……。」

 そう、これはとても重要であり異世界ライフを満喫するために大事な要素だ、そして何にも変え難い。

 僕は立ってセンシアに向き直る。

「センシア……。」

「……ハル様……そういう事ですね……本格的ハーレムタイムを……」

 

「金がねぇ。」

「と言いますと?」

「これを見てくれ。」

 それはレナード男爵から送られた一つの封筒……。

 内容はごく単純……納税です……しかも異種族に関しては目を瞑るし王都アトロニクスやその周辺都市にもこの場所の情報は一歳開示しないし、させないとの事……おまけに納税額も七割安いという……レナード男爵なりのお礼だ。

「ここまでしてくれるんだし……働かなければ……。」

 だが、一体どうやって……ゲームのシステムがあるからって普通に働くのって難しくないか?しかも、この未知の世界で……。

「ハル様……ギルドへ赴いては?」

「ギルド?」

「はい、クレアトラ街でしたら異種族にうるさくないでしょうし。何より私達を好意的に見ています。現在『バイアットリット』が職業である『商人』を活かして商売してますし……都合の良い街ですよ?」

「なるほど……。」

「近々帝国との国境も開かれると報じられてますので、ランクを上げて、ギールドギルドで高収入〜♪……とか?」

「……お前は天才だ。」

「お褒めに預かり光栄です。」


 早速大広間に出てクレアトラ街の冒険者ギルドで手続きをするため出ようとする。

「ワープを使わなくてよろしいのですか?」

 センシアが進言する。

「ああ、軽く歩きながら行くさ。」

 ここに来てからゆっくりしてなかったよな……どうせだったらゆっくり歩いて周りに浸って歩くのも悪くないだろう?

 

 玄関の扉に手を掛けた瞬間……バンっと大きな音を立ててパルマが飛び出す。

「ええ……。」

 嫌な予感しかしない……。

「あ、ちょうど良いところに……。」

 息が切れてるな……何かあったのか?

「お、お手紙です……。」

 手紙をもらい中を確認する。


『ご機嫌よう、ハルマ殿……この度は私らマネット家の窮地を助けてくれた事感謝する。』

 どうやら差出人はダン伯爵だ。

『つかぬ事を聞くが、ハルマ殿には結婚を前提に付き合ってる女性はおるか?また、許嫁として存在する女性はいるだろうか?』

 なんか雲行きが怪しくなってきたぞ……。

『今現在……ワシの娘であるアリスが王家との血統がある貴族の子と婚約を控えている……そこの家は早いとこ世継ぎが欲しいようで……だが、理解もあってな……もし意中の男性がいれば諦めると申し立てておる……そこで……』

 この流れは知ってるぞ……。

『事態も晴れて早々で申し訳ないが……アリスの婿役として宴会に出席してくれないか?フリでいい。』

 もうええねん……なんやねん……このイベント……最後フリで良いって書いてるしな……。


「如何なさいます?」

 センシアが後ろから手紙を見ていた……勝手に人のもん見るんじゃない。

「でも、助けて欲しいっていうなら手は貸すさ。」


 社畜時代も休みは無かったけど、この世界ではそれも楽しく思える……29人のメイドの力は計り知れないし色んな刺激をくれる……今後も彼女達と生活し思い出を作っていくつもりだ……もし元の世界に帰れたとしても、今の僕は間違いなくここの世界をとると思う。前みたいに家に帰ってもゲーム画面と睨めっこ……でも、今は彼女達が出迎えてくれる……この事実を大切にしたい……それを期待して僕は外へ出て行く……。


 ただ一つだけ知りたい……僕はどうしてこの世界に来たのか……でも、転生しちゃったもんは考えても仕方ないよな?


 第一章(完)


 第十七話に続くかも……?

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死んで転生したら自作最強メイドNPC達と共に異世界攻略やろうとしたらゲームと全く違う世界線でした。 山田孝彦/ダーヤマ・タカヒコ @yamadatakahiko

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