第五話 薄い本になる前に対策を。
ヴェスターズの寮長『ミトラス』に誘われるがまま彼女の作ったワープゲートを通る、行き着いた先は我が家であり彼女達が寮として住む教会だった。
『お帰りなさいませ、ご主人様。』
真ん中に『ミトラス』両端に『アシス』『プリマ・シュタット』がいる。
「で、何で急に?」
そう、時短できた点は良い。ただ一つ疑問がある。彼女の種族は神……つまり転生石を使ったキャラなのだ。
「それは、この屋敷に危機が迫っているからです。」
「まぁ、迫っているけどさ……お前が協力するって結構珍しくないか?」
前に話したが、この転生石を使ったキャラクターは強大な力を誇る。NPCがプレイヤーをPKしまくり運営は修正を加えた。それが、『命令を聞かない』だ。
当時めっちゃ炎上した、このシステムはプレイヤーが攻撃命令を出しても気分次第で実行する。なので、僕の指令がミトラスに届くかどうか分からないのだ。
「私達は常に安寧を求める者……この屋敷に危機が迫っているなら喜んで協力するという事です。」
「えぇ……。」
「さぁ、アシス、プリマ。今日は早く寝て明日に備えるのです。」
ミトラスが光は放つ、さすが太陽神……。
「目が!目がああ!んああああああ!!」
「ヤミコおおおおおおお!!」
ドッペルゲンガーであるヤミコに太陽神は合わなかった、しかもこの教会何かと神々しい……悪魔や影を好む者には合わないだろうな……。
自室に戻り明日へ備える、今日も今日とでかなり疲れた。やはり移動という手段はとても重要だ。
「はぁ……。」
ベッドで横になるとだいぶ気が抜ける……。
目を閉じると何かが見えてくる、夢か……。
——「あれ?」
再び目を開けると周りには素敵な水着の女性かが多くいるではないか……。
「海……。」
照り出す太陽は砂浜に差し掛かり海は反射して夏真っ只中な印象を受ける。
「ナニコレ?」
「お兄ぃさ〜ん♡」
うおおお、胸がデカイ!これは……いかにもはち切れそうだぞ!
「アッチでイイコト……シナイ?」
「良いんですか?」
なんか凄い夢を見ているゾ!
イイコトとは何なのかよく分からんが、付いていくしかないだろ!
彼女に付いていき岩場の後ろへ行く。
これ、薄い本で見たことあるぞ!
「見られると恥ずかしいから、目閉じててネ!」
「はい!」
言われた通りに目を閉じると腹部に違和感がある。なんかこう、ズキズキする……。
目を開け下を見ると腹部に包丁が刺さっていた。
「「きゃああああああああ!!」」
オネェさんと一緒にびっくりして叫んでしまった!
——「は!」
意識が現実へと移り変わる、日が出る寸前ぐらいか。少し薄暗い……。
「おはようざいます。ご主人様……。」
「へ?!」
寝起きという事で驚いた……パジャマ姿のルトロスが佇んでいた。
「た、助けて……ご主人……。」
ボコボコにされてたのはノクターンズのメンバー『サマニア・メイデン』サキュバスであり職業『デバフマジシャン』『マスターテンプテーションズ(上級職)』である。
「油断も隙もありませんね……。」
「悪かったって……つい魔が刺して……。」
サマニアは必死に話す。
「ご主人も……女だったら誰でもいいのですか?」
「いや……。」
何でそんな怖いんだよ。
「まぁ……良いでしょう……この屋敷では私が先輩ですからね……サマニアにはお仕置きが必要……。」
「そ、それだけは……」
「口答えすんじゃねえええええ!!お前は許容範囲ってもんがわかんねぇのかああああああ!!度量のどの字もねぇお前があああああ!答弁なんていう選択をしてんじゃねえええええええええ!!」
「許してくださいいいいいいい!」
サマニアの性格は『臆病』だ……人のコンプレックスに口を出すとは……。
「大丈夫……私はご主人と同じくらい皆んな愛してる……だから悪いことは悪いと共通認識がないと……違う?」
「はい!おっしゃる通りでございます!」
「良い子……私も言いすぎたね……でも、ごめんね?仕方ないよね……。」
ルトロスはサマニアを優しく抱擁した後、髪を掴み引き摺りながら部屋を出ようとする……。
「いたああああああああああああ!!」
「それと……私はいつでも見てますからね?」
「えぇ……。」
何これ……信じられないパワハラを見た気がする……改善が必要だ……。
適当に時間を潰しシーコが作ったご飯を食べる……メニューは相変わらずだが……。
「で……何でお前らもいんの?」
目の前には包帯でぐるぐる巻きになったサマニア・メイデン、そしてフォスノーラが居た。
「私の部下が大変迷惑を……ルトロスから色々聞きました……。」
「す、すビまぜん……。」
「いや、気にしてないけど……。」
だ、大丈夫か……。
「サマニアにもそれなりに事情がありまして……彼女はサキュバスですので精気が必要な訳ですよ……精神力が著しく低下し業務に差し支えるかと……。」
なるほど……これは一大事だ……普通にご飯食べるだけでは生きていけない存在もいる……どうしたものか……。
「なので……定期的にご主人のを搾取するのはどうかと……。」
「え……。」
「ああ、もちろん血ですよ。」
あー良かった……あっちを連想するのは僕の想像力が足りないということにしよう。決して煩悩ではない。
サマニアの件はとりあえず解決した、ただこの問題……もう一つ大きな物を抱えている。ヘイムス・ヴィティズに『リン・インナット』というモンスターと言うべきか……正体不明のやつがいる。彼女の職業は『カニバル(種族職)』人を食べる……センシアの報告ではしばらく野生動物で我慢してもらっていると言っていた……。いつかは人を餌に……僕も人間だしちょっと難しいところはある。
準備をしメイド達を引き連れクレアトラ街に行く。メンバーをセンシア、グルージャ、アシス、プリマ・シュタットの回復系のメンバーを連れて行く。
「では、ワープゲートを開きます。」
ミトラスがゲートを開き中へ入る、僕が行った場所はとりあえずブックマークされるようだ。
「いやー便利便利。」
悠長な事を言い外に出てみると、街はゴブリンに襲われていた。
「どうなってんだああああああ!!」
何で俺はいつも変なイベントしか出会わないんだ!
「グエエエエエエ!!」
ゲートから出た瞬間襲われそうになったので剣で斬る。
「ニンゲン!ココニモ!」
ゾロゾロとこちらに注目してくる。
「旅の方!お逃げを!」
寂れた建物に目をやるとあの時助けた老婆が窓から顔を出していた。
ドアの内側にバリケードを挟んでいるのか、ゴブリンが必死でこじ開けようとしている。
「お前達!やってしまええええ!!」
とりあえずヤケクソだった、だって来たらゴブリンに襲われてるなんて聞いてないだろ?
「た、助けてえええ!」
住民が一人尻餅を付いて襲われそうになっている。
「私にお任せを。」
プリマ・シュタットは獣人であり『イナテール』というキツネをモチーフにしたキャラだ。職業は『巫女』ヴェスターズの所属でもあるためか神系の呪文が扱える。
プリマは神楽鈴を振ると住民の周りに和製の魔法陣が現れる。近くにいたゴブリンは弾き返される。
「ステータス上昇!持続回復レベル5!サーチアイ!」
センシアは周りにバフをかけた後、敵の位置を炙り出す。
「エンジェルアロー!」
アシスは空から光の矢を放ちゴブリンを殲滅する。
「ノン・エクスペンス・マジックポイント!」
グルージャはアシスにMPを消費しない魔法をかけ続ける。
「地神の怒り!地突出撃!」
プリマは光の矢を避けるため物陰に隠れるゴブリンを地面から尖った岩を出し攻撃する。
ていうか、お前ら回復役なのに強すぎだろ……俺の出番は……?
思いの他簡単に殲滅でき、2分も掛からなかった。
「これは旅の方……また会いましたな……この方達はお主の主人か……?」
俺もう泣くぞ。
老婆が出てくるや否や心を抉られる。
「とりあえずだ、何で襲撃されたんだ?」
治す前にちょっと気になった、急な出来事……治してもまた襲われるようでは本末転倒だ。
「実は、ゴブリンが住む森の食料が無くなったのか……森を出てきてこの街を襲ってきたのじゃ……彼らは野生動物も食べればあそこに自生しているマンドラゴラも彼らの食糧じゃからな……。」
「ん……マンドラゴラ……。」
今、この時!全てが繋がった!
このイベント俺が作ったやつじゃねーかああああああ!!
考えてみろ、俺がマンドラゴラを試食しメイド達の食卓に並ぶ……しかも近くの森から採った物だ……街がこうなったのは俺たちが原因じゃねーか!
「そして……ワシの可愛い孫娘まで……うう……連れて行かれてしもうた……ワシは……ワシは……何もできずに……うう……。」
「ゆ、許せねえええええ!!」
俺がな!
「ご主人様……元はと言えばわた……。」
センシアめ、言わせるか!
「良いか!お前らはここで住民を治療してろ!薄い本になる前に俺はやるべき事をやるんだあああああああ!!」
「グルージャ、薄い本って何?」
「さぁ?」
プリマはグルージャに聞くもポカンとする。
こういう時に限ってミトラスのワープは出現しない、なので速度上昇とスタミナの上限を上げる魔法をかけてゴブリンがいるであろう山まで信じられない速度で走る。
するとウガタ村まで見えてくる。
「ん……ウルセェな……あれは……。」
すると盗賊のおっさんが顔を出す。
「おい、あの時の……。」
そんな言葉を聞かずしてそのまま通り過ぎる、追い越した風は強風だ。
「えぇ……。」
——一方でゴブリンのアジトでは。
「ボス!人間を連れてきました。」
「よくやった。これならばマルクレイブ卿もお喜びになる。」
そこには下位のゴブリンの群れ、ボスと話しているのは術師型のゴブリンであり知能が高い。
「私をどうする気なの!」
「はは……恐れる事はない……帝国から持ち出したあの化学兵器の毒を浴びて尚生きておる……お前には何かあるのかもとな……。」
ボスゴブリンはゆっくり近づく。
「その美貌……マルクレイブ卿ならきっとお喜びになるだろう……。」
服に手をかけビリビリに破く。
「触らないでよ!私にはエナがいる!彼女が助けてくれる!」
「はは!バカなことを……弱小貴族……権力は愚か……戦力が小娘一人のあんな家!恐るるに足らん!」
ボスが村娘に覆いかぶさる。
「う……やめて……。」
涙を流してもボスは興奮するだけだ。
「グエエエ、グエゲウ!」
「何?!」
下位ゴブリンの言語を術師ゴブリンが聞いてる。
「騒々しい!どうした!」
急に水を刺されたボスゴブリンはイライラするだけだ。
「敵が数人!向かってきております。」
術師ゴブリンは翻訳を終えると状況を提示した……。
「ええい!こんな時に……迎え撃て!」
——再び場面は移り変わる……主人公一派はゴブリンのアジトの手前まで来ていた。
「見えました……あれですけど……。」
彼女はノクターンズの『ロンガ・シュタット』であり名前の通りプリマの妹に当たる。種族も同じであり職業は『上忍(上級職)』。
そもそもこのアジトの場所が分からなかった……見つけたのはロンガであり、彼女に道案させてもらった、急ぎで……。
「ご主人……これからどうすんの?」
同じくヤミコも居る、彼女達の寮へ押し入り丁度二人が起きていたため無理矢理連れ出した。
——ノクターンズの扉をノックもせず開ける。
『起きてるか!』
『え……。』
『何すか?』
『ロンガ!ヤミコ!外へでろおおおおお!!』
『えぇ……。』
——まぁ、こんな具合だ。
走り続けるとゴブリンが陣形を組み弓矢を構え始める。
「ロンガ、頼む!」
「御意。」
ロンガは前に出てクナイを両手に三本ずつ持つ。
「忍術レベル3、影分身!」
FOOには技レベルも存在する、最大で5までレベルがあがる……レベルに応じて与えるダメージやら効果……消費MPなどが異なるので、使い分けも可能だ。
高く飛び上がりクナイを投げるも六本が本物であり中央のゴブリン6体を殲滅。
他ゴブリンは幻影のクナイにビビり陣形を崩したのでその間に入り込み短刀で切り刻む。
道は開けたのでこのままの勢いで正面を突っ走る。
「おおおおおおおおおおおお!!」
鎧の着たゴブリンが巣穴の前に現れるが、今はそれどころじゃねええええええええ!!
ゴブリンにタックルしそのまま巣穴へ。
巣穴にも敵が複数見られたが、ここは暗い……。
「ヤミコ!」
「おっす。」
ヤミコは暗闇に乗じてゴブリンへ近づく、僕はゴブリンを無視して通り過ぎると弓を持って狙撃しようとする。
「こっちだよー。」
ヤミコはゴブリンの背後に入り込むと即死魔法で殺す。
それに気づくゴブリンはヤミコに矢を放っても貫通する、彼女は影なので物理攻撃は効かない。
彼女達の力を借りながら奥の部屋に到着、明らかにボスがいる、他のゴブリンに比べ体格が大きい。
「貴様がそうか……褒めてやる……平凡な顔付きで特別性のないお前だ……さぞ、運がいいのだろう……。」
「うるせえええええ!!一番気にしてんだよおおおおおおお!!」
その時丁度倒し終わったヤミコとロンガが合流する。
「それ気にしてんだ……。」
ヤミコが呟くが気にするから聞かない事にした。
「はは!威勢だけは一人前だな!この娘を助けに来たんだろ!」
そこには服を剥ぎ取られた、女性が居た。
「おい!薄い本の7ページ目ぐらいなってんだよ!調子に乗ってんじゃねええええええ!!」
「薄い本ってなんだヤミコ?」
「わかんねーよ。」
「やれ!部下達よ!」
するとワラワラとゴブリンが迫ってきた。
「俺が一番嫌いなのは尊厳破壊とNTRなんだよ!嫌なもん見せんじゃねえええええええ!!」
僕は魔法陣を大量に出現させた。
「あれは!ありえん……最高位の魔法……!」
ゴブリン術師は魔法を見ると驚愕する。
その魔法陣から炎を出し火の渦を作ると他の下級ゴブリンが巻き込まれる、そのままゴブリンを焼き殺し炎は上へ集中、今度は穴の中に避難したゴブリンに火の球をお見舞いする、これで雑魚ゴブリンは殲滅。ボスと魔術師には人質がいるためあそこだけに注意を払った。
「何だと……一瞬で……。」
「どうした!貴様の魔法でなら何とかなるだろう?」
「いけません……奴は化け物だ!マルクレイブ卿の持つ転生石がなければ!」
「転生石?」
ん?この世界はFOOではないはず……何故だ?
「そんなモノまだ信じているのか!あれはデマだ!神になりうる魔石などあるか!」
「まだ信じてないのですか?そうでなかったら、帝国に宣戦布告してないでしょ!」
「愚か者がああああ!!」
ボスがゴブリン術師に殴りかかろうとした瞬間、ボスの頭を拳で吹き飛ばす。血飛沫が術師の顔にかかる。
「ああ……お許しを……。」
そのまま失禁したようだ、まぁ平凡って言われるよりマシの反応だよ。
「その話どこまで知ってる?」
「はい?」
転生石なんて持ってたら勝てるか分からないだろ……FOOの中でも物議を醸すアイテムだ、あれがマルクレイブ卿と類似する者に渡ればやばい。
「私はマルクレイブ卿の手下です!転生石もそこで知りました!何でも聖王様から譲り受けたとか……詳しい事はそれしか……。」
「……あっそ。ロンガ、こいつをヘイムス・ヴィティズの寮へぶち込め。」
「御意。」
「な、何を!」
術師の前に手をかざし眠らせる。何か隠し持ってるかもしれないからな……。
「ふぁ……私眠いから、ロンガと戻っていい?」
ヤミコがあくびをして眠たそうだ。
「ああ、ついでに付いて守ってやれ。」
困ったな……敵対している相手が脅威となる転生石を持っている……彼女達でも対抗する事は難しい……勝てるとするなら本当に一部のメイドだ……。
頭を悩ませてると右上にUIが出る、今度は何だ……。
スタミナが残り三割になり、疲労のアイコンが出る。朝変な時間に起きた事も起因してるのか……体がダルイ。
「ああ、助かりました!私の王子様!」
「は?」
何言ってんだこいつ。薄い本イベントになる前に助けたのは良いが頭お花畑なのはちょっと……。
「あなたが居なければ私は初めてを奪われてました。私は貴方に感謝してもしきれない。」
抱きしめられるとしばらくは離してくれない。
因みに、何故俺が逆上したのかだが。手順を話すとまず、村が襲われて、村娘が誘拐、誘拐犯はゴブリン。これを薄い本と言わずなんと言う……しかもそうなった原因が僕達という、図らずも間接的に関わってしまったという点だ。自分の嫌いなジャンルを自分で作り上げてしまうという失態をしたのが逆上の原因……これは僕にとって一番阻止したいイベントだ。
当分僕はアレらのジャンルを好きになる事は決してない……好きになれる日は来るのかな……?
第六話へ続く……。
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