Sevens Heroes

@hinatabokkomaster

第1話 Sevens Heroes 1-狂宴の始まりと封印されし故郷 エピローグ

 雲海のそのまた遥か上。

蒼と白銀が溶け合う天の境界に、神々の島は静かに浮かんでいた。


 大地からは決して届かぬ高さ──信仰神が眠り、上位神が地上を見下ろす**「天の欠片」**。


 昼でも薄く輪郭を、夜になれば星座を喰らったように空の一部を欠けさせる、聖域の果て。


 島からは、神の意志そのものが世界と繋がるように、金の光が雲の海を貫いて下界へと垂れていた。


――その夜。 神々の島の常夜の光が、一瞬だけ腐敗した闇によって塗り潰された。


 空気ごと凍らせる、呪詛のような冷たさ。


 神域の崖縁。

 誰ひとり踏み入れるはずのないその場所に、黒衣の影が音もなく姿を現す。


 冥界よりの者。


 死を越え、理を曲げた異形の存在。


 崖の下は、星々が逆さに瞬く深淵。影はためらうことなく一歩を踏み出した。


 足元に現れたのは、影で編まれた闇の階段。島の「裏層」へと続く禁忌の道だ。


 祝福の気配が霧散し、代わって呪詛のような囁きが風に混じる。


「……もう少しで、神界に拠点が……」


 その呟きに呼応するように、空間の奥が軋んだ。

静寂の中、音もなく──《声》が降る。


――俺の庭に、何か用か? 虫屑が。


 空気が震えた。

その声には怒りも驚きもない。ただ、絶対者にしか許されぬ“冷たい余裕”があった。


 冥界の者は息を呑んだ。

自分が最初から見透かされていた現実が、背骨を氷の刃でなぞられるように走る。


――上手く隠れてきたつもりかもしれんが、俺には最初からばれているぞ?


いつもは甘美に貪っていた“負の感情”が、今は逆流し、焦りと恐怖に姿を変える。


(……く、くそ……このままでは、塵にされる……!)


――そこか。今すぐ、消してやる。


 声が収束した瞬間、空間が収縮し始めた。

神罰の手が迫るのを、肌がはっきりと感じ取る。


「こうなれば――!」 手にしていた**“島の欠片”**を握りしめ、彼は崖から跳んだ。


「誰の手も届かぬ地、**《ネプトゥガナ》**へ!」


 聖域を離れ、異界の重力に身を委ねるように、黒衣の影は空へと堕ちていく。


 その夜、空の一角が歪んだまま閉じることはなかった。


 その歪みこそが、後に**《ネプトゥガナ》を揺るがす“始まりの歪み”**。


  すべての災厄へと連なる、ほんの序章に過ぎなかった。

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