路上占い、あれこれ133【占い師は説教をする】

崔 梨遙(再)

肉料理です。 2599文字です。 重たいです。

 夜のミナミで路上占いをしていた時、常連のお客さんが何人かいました。立花さんは50代のデブでハゲ、常連さんの1人でした。立花さんは僕の財布を少し重くしてくれますが、それ以上に僕の気分も重くしてくれます。



 とにかく口癖が、


『処女はおらんのかぁ!』


でしたから、最悪です。



 その日も、キャバクラ帰りに僕の目の前に座りました。当たり前のように。そして、いきなりタバコを吸い始めます。僕もタバコは吸っていましたが、立花さんはポイ捨てします。毎回、僕がそれを拾って携帯灰皿に入れて帰るのです。正直、それだけでも気分は重かったです。


 その日、立花さんは僕に5千円札を渡してきました。1万円札の日と5千円札の日があります。ぶっちゃけ、長居されるし幾つも占わされるので1万円でも足りません。僕が占いに関してはお金に無頓着だったので築けてしまった関係です。


『なあ、崔さん、処女はおらんのか?』

『そりゃあ、いると思いますよ』

『お、あの娘(こ)清純派やで、あの娘が処女かどうか? 占ってくれや』

『やめておきましょう』

『なんでや?』

『占っている間にどこかへ行ってしまうからです。立花さん、学習しましょう』

『ほな、どうやって処女を探すんや?』

『本人に聞けばいいのでは?』

『そやなぁ、そうしよう! ちょっと、そこのお姉ちゃん達!』


 おいおい、本当に本人に聞くのかよ!


『何? オッサン、超怖いんやけど』

『どいてや、通られへんやんか』

『ちょっと質問があるねん』

『何やねん?』

『何よ』

『君達、処女か?』

『はあ? 何を聞いてんの? このオヤジ』

『キモイ、超キモい』

『処女かって聞いてるだけやんけ?』

『どっちやと思う?』

『当ててみたらええやん?』

『ほな、とりあえずあそこの崔さんに占ってもらおう、お金は要らんから』

『まあ、占いは好きやけど』

『まあ、占いくらいやったら』

『崔さん、まずはこの2人を占ってあげてくれ。まずはこの娘達と仲良くならんとアカンからな』

『じゃあ、そちらの髪の短い方のお嬢さん、何か占いたいことはありますか?』

『恋愛に決まってるやん』

『あれ? 彼氏がいるように見えましたが僕の間違いでしょうか?』

『彼氏はおるよ、正解-! でも、もっといい男が現れたらそっちに行くかも』

『はあ、それでは占います・・・・・・あ、女性には良い卦ですね』

『マジ? やった!』

『男性からすると、悪女にたぶらかされるのですが、女性には有利です。あなた、モテ期ですよ。選べる立場です』

『やったー! って、それはええんやけど、男にとっては悪女ってどういうことなん?』

『まあ、悪気が無いならあなたが魅力的なんでしょう。時として、悪気は無いのに魅力的というだけで周囲を振り回すことがありますので』

『民子、良かったやん』

『次は好子の番やで』

『ああ、髪の長い方は好子さんというのですか、どうも、崔です。やっぱり恋愛でしょうか?』

『当たり前やんか』

『はい、占います・・・・・・あれ? 好子さん、二股かけてますか?』

『え! なんでわかるの?』

『トリオで安定している卦が出ましたので』

『実は彼氏がいるんですけど、金持ちのオッチャンの相手もしてるんです』

『もうしばらくは現状維持でいいですよ、それで今まで通り上手くいきます』

『え? いいんですか?』

『はい、この易という占いは昔の中国で出来たものです。この当時、副夫人、側室、妾、愛人が許されていた時代ですので、それでいいんです』

『崔さん、この娘達と俺の相性も占ってくれや』

『なんでなん?』

『なんで、オッサンと私達の相性なん?』

『まあ、ええやないか』

『はあ、じゃあ・・・・・・髪の短い民子さんでしたっけ? そちらの立花というオジサマとの相性は良くないですね・・・背き合う関係です』

『ほら、やっぱりオッサンとは縁が無いんやわ』

『崔さん、こっちの娘は?』

『・・・・・・よろしくはないですね、親しくなったとしても愛の無い関係です』

『ほらー! オッサン、夢見てたらアカンで』

『崔さんはええこと言うたやんけ、愛の無い関係でもええやんか。お金なら払うで。お前達を俺が買ったらええということやろ?』

『立花さん、それは間違っていますよ!』

『オッサン、なんぼくれるの?』

『とりあえず金額は聞きたいわ』

『なんぼや? 1万か? 2万か? 3万か?』

『えー!? そのくらいしかくれへんの?』

『オッサン、話にならへんわ』

『ほな、なんぼやったらええんや?』

『オッサン、私達のこと何歳やと思ってる?』

『私達の年齢、当ててみてや』

『え? 女子大生やろ?』

『ブー!』

『違う、違う』

『ほな、女子高生か?』

『ハズレ、私達中学生やで』

『まだ中3やで、ピチピチしてるやろ?』

『崔さんはこの娘達のこと何歳やと思った?』

『女子高生だと思っていました』

『中学生やったら、、まだ処女か?』

『抱いて確かめてみたら?』

『だからなんぼやねん!?』

『最低でも10やで』

『民子、このオッサンが相手やで、安いわ。20やろ?』

『ええい、間をとって15万でどうや?』

『立花さん、あきませんわ、やめましょ、やめましょ、もう売春になってますやん。お金で解決するのはやめときましょう。この娘達は中学生なんですから、絶対にアウトですよ! 買っちゃダメなんですよ』

『あ、私、占い師のお兄さんが相手ならOKかも』

『民子ずるい、私もそう思ってた』

『民子さん、好子さん、お二人は魅力的ですが、僕は年上が好きなんです』

『ほな、電話番号を教えてや。私達が何歳になったらええの?』

『名刺は渡します。占いには来てください。お友達も連れてきてね。そやね、まあ、最低でも20歳にはなってもらわないとアカンね、僕は』

『お兄さんの占い、当たってたからまた来るわ』

『うん、友達つれてくる』

『おいおい、崔さん、俺はどうなるねん!』

『だから! 売春はアカンし、相手が中学生ならもっとダメですよ!』

『なんでや? 俺は15万で・・・・・・』

『2人は、今日はこれで帰る?』

『はい』

『うん、またね』

『おいおい、俺を置いていかんといてくれ-!』

『立花さん、女性を買おうとするのはダメですよ。しかも中学生だとわかってもいこうとしてたし』

『だって・・・そやかて・・・』

『すみません、今日はマジでお説教させていただきます』



 僕はお客さんに本気で説教をした。これでもう立花さんが来なくなってもいいと思っていた。



 ところが、翌日・・・・・・。


『処女はおらんのか? 処女は?』


立花さんは、また来るのだった。




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路上占い、あれこれ133【占い師は説教をする】 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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