裏路地古書店・幻想物語
好風 温吉(よしかぜ おんきち)
懐中時計の真実
N(綾乃)そこは、銀座の裏通りにある少し寂れた古書店だった。
綾乃「あの...失礼いたします。」
朔「いらっしゃいませ。お客様、おや?初めて見るお顔ですね。」
綾乃「はい。普段通らない道を歩きたくて、こちらを見つけました。古い詩集でもあればと。。。色々見てもよろしいでしょうか?」
朔「ゆっくりご覧ください。。あの……その懐中時計。とても見事な細工でございますね。」
綾乃「あ、この時計ですか?ありがとうございます。これは...私のものではなく、二年前に兄から預かったものなのです。」
綾乃「申し遅れました。わたくし、藤野綾乃と申します。兄はこの時計を肌身離さず持っておりました...。」
朔「古書店の店主をしております。蓮見朔と申します。素敵な品ですね。お兄様は今は...。」
綾乃「兄は...二年前に失踪してしまいました。突然、仕事に出たきり。」
朔「辛い話をさせてしまい。申し訳ございません。」
綾乃「い、いえ!気になさらないでください。兄の話ができるのは嬉しいのです。家族は突然の兄の失踪に悲しみ、最近では、誰も口に出さなくなってしまって。。。」
朔「...藤野さま。差し出がましいのですが、お預かりになったとき、お兄様は何か仰せてはございませんでしたか?そして、この文字盤...最近になって急に濁りが増してはいらっしゃいませんか。」
綾乃「なぜ、それを...!はい。不思議に思っていたのです。兄から預かった時はこんな濁りはありませんでしたのに...。」
(パタッと本を閉じる音が店内に響き、本棚の影から、桐生が2人の前に姿を表す。)
桐生「おいおい、朔さん。せっかくのモダンな令嬢を、そんな怪しげな問いで怯えさせるのは感心しませんよ。」
朔「桐生くん。また奥で勝手に、意味のない探求なされていましたか。そして盗み聞きとは、とんだ秀才であらせられる。」
桐生「盗み聞きとは、聞き捨てならないなぁ。探求も何も、あなたの能力の探求は、とても興味深い。失礼。こんにちは!藤野綾乃令嬢。私は帝国大学の桐生祥吾です。朔さんとは、古い友人でしてね。彼は古い物に宿る、残留思念――「物の声」を聞く異能の持ち主なんですよ。あなたの時計が発する強い悲鳴を、彼は感じ取っている。」
綾乃「悲鳴...。蓮見さま。もし、そのお力が本当であれば、...兄に何があったのか、わかるのでしょうか?どうか、お力を貸してはいただけませんでしょうか。」
朔「なにか、お兄様の失踪に違和感をお持ちなのですか?」
綾乃「はい。兄は、勝手に家族の前から姿を消すような人間ではございません。兄は失踪する直前、この銀座の裏手で進められていた寺社の解体事業に関わる仕事をしておりました...仕事を途中で投げ出すような人間ではないのです。」
桐生「あそこは今、ちょうど新しい寺社を建てると聞きましたが...古い寺社の解体。。突然の失踪。。朔さん!これは、単なる失踪にあらず!事件の匂いがしてこないかい?!そして時計に刻まれた強い残留思念...!これは興味深い!」
桐生「朔さん!あなたの能力で、その時計が何を訴えているのか、隅々まで調べてさしあげては?」
綾乃「どうか、お願いいたします!」
朔「...分かりました。藤野さま、お兄様の願いを、読み取らせていただきましょう。」
綾乃「あ、ありがとうございます!!!」
朔「では、懐中時計を拝借します。」
朔(強い土の匂い...無念...!そして、裏切りと古い罪...!何だ...!)
兄(残響),綾乃...綾乃...。すまない...私は、お前に会えずに...ここにいるよ...。
綾乃「兄さま...!」
兄(残響),綾乃...私が見てしまった骨と、作業員たちの秘密を...お前に伝えたかったのだよ!
朔「彼は...解体途中の寺社で、古い白骨遺体を発見した...。その遺体が、解体作業員たち祖先の汚名と繋がっていたようです...。真実の追求を恐れ、口封じのために...その白骨と共に、埋め戻された...。」
綾乃「え?お兄様が...こ...ころされた?」
朔「解体作業員たちは、寺社の下に白骨遺体があることを知っていて、自分たちの祖先が犯した罪の証拠を消し去りたかったのでしょう。お兄様は、巻き添えをくってしまった...。妹であるあなたに、この懐中時計を通じて...真実を伝え、自分見つけてほしいと、強く願い続けております。」
綾乃「ああ...兄さま。そんな、残酷なことって...。」
桐生「何てやつらだ!その白骨遺体を再び隠すために、解体者としてあの寺社の仕事を請け負ったあげく、何の罪もない人まで巻き込むとは!」
綾乃「兄さまの...最後の願い、この綾乃が確かに受け止めました。兄を殺した者たちの隠された罪を、この時計と共に...わたくしが必ず、世間に暴きます。」
朔「時計の曇りが晴れました。お兄様の想いが、解放されています。」
綾乃「蓮見さま。桐生さま。この恩、決して忘れません。わたくしには、まだ為すべきことがございますゆえ...。では、ごきげんよう。」
N(桐生) 数日後。。。
綾乃さんは、家族を説得し、寺社のあった土地を調べる手続きをしたそうだ。そして、綾乃さんの兄と思しき遺体と古い白骨遺体が発見された。この事がきっかけとなり、当時、解体作業を行ったもの全員が逮捕されたと新聞に載ることとなった。
桐生「いやあ、素晴らしいデータが取れましたよ!残留思念の伝達性が証明された!朔さん、あなたの抑制された感情と、その能力の原理...もっと詳しく探求したいものですな。」
朔「桐生くん。私は...ただの古書店主ですよ。大切な人の無念が晴れた、ただそれだけで充分ではないですか?」
桐生「まあ、その静かな佇まいも興味深いです。また、何か曰くつきの「声」が届いたら、真っ先に私に知らせてくだされ。では、また明日。」
N朔(大正の闇に消える、物の声...。それは何を誰に伝え、その姿をあらわすのか。)
おわり
裏路地古書店・幻想物語 好風 温吉(よしかぜ おんきち) @yoshikaze12
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます