ぼくのくつした

織田珠々菜

第1話

僕には、お気に入りの靴下がある。

その靴下を履くと、速く走れる。(気がする)

その靴下を履いた日は、あの子と話せる気がする。

その靴下で出かけると宝物を拾う(誰かの落とし物?)

その靴下を履くと、犬が吠えて来ない(そもそも犬に合わない)

その靴下を履くと、ジャンケンに勝てるかもしれない。


ある朝、お気に入りの靴下を履こうとしたら

親指のところに穴が開いていた。


履いてみたら、大きな穴から親指が「こんにちわ」。

靴を脱いだら、親指が見えて恥ずかしい。


片方だけ違う靴下を履いてみたけど、

それも、やっぱり違う。


あきらめて、別の靴下に履き替えた。


その日は、途中で雨に降られた。

あの子とおしゃべりする勇気がなかった。

散歩していた二匹の犬に吠えられそうだった。

今日はジャンケンに勝てる気がしない。


だけど、ビー玉を拾った。

今日の、ひとつだけの小さな光。


家に帰って、部屋に戻ろうとしたとき、

いつも通り、お母さんが優しく声をかけた。


「だいじにしていた靴下、穴があいてたから縫っておいたよ」


部屋に入ると、机の上に

お気に入りの靴下が置いてあった。


朝は穴があいていた靴下。

今は、穴があいていない。


僕は、治った靴下を手に取ると自然と笑顔になった。

明日は、またお気に入りの靴下が履ける。

そして、勇気を出してあの子に話しかけれるかもしれない。


そう思うと、ワクワクした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぼくのくつした 織田珠々菜 @suzuna_oda

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ