陰キャ新人ハンターのわたしに、担当がまさかのS級ハンドラー様!?

にしあふ

プロローグ

 朝。ボサボサ頭でリビングにいくとTVでニュース番組が流れている。何の気なしに目をやると、大きなテロップが視界に飛び込んできた。


『速報!ハンター死亡率、ついに41%へ』


―― ハンター。ダンジョンでモンスターを倒して魔石を取ってくる職業だ。


 わたし、新垣優愛十九歳。

 ハンター専門学校二年、卒業試験まで残り一か月。

 そのくせ、頻繁に報道されるこの数字を見るたびに、胃のあたりがキリキリし始める。


 だって死亡率四割って、ほぼギャンブルだよ。

 しかも、外れたら人生終わりのやつ。


(……わたし、ハンターになるんだよね)


 自分で自分に言い聞かせるみたいに、わたしは小さく頷いた。


 ハンターを目指した理由は、ちゃんとある。


 ――妹の梨花が憧れていたからだ。


『お姉ちゃん! わたし大きくなったらハンターになる!一緒にダンジョン行こうね!』


 2年ほど前、梨花と約束した。だから思ったのだ。


 梨花が危険な道に進むなら、わたしが支えなきゃ。お姉ちゃんだから。先にハンターになって経験を積んでおかないと!……と。


――そして、高校を卒業してハンター専門学校に入学、今に至る。


 ソファーでだらけている梨花に声をかけた。


「ねぇ、梨花。わたし、順調にいけば来月にはハンターになるから!梨花がハンターになった時、一緒にダンジョン行けるよ!」


『え?ハンター?ならないよ?進学して彼氏と部活する約束してるし。』


「……」


 ――はい。

 わたしの人生最大の決断。その最大の理由が、さらっと速やかに消えました。


「……あ……そうなんだ……そかそか……」


 勝手に燃えて勝手に走り出したのはわたしだ。

 梨花がいつ死ぬかもわからないハンターになるより、普通の幸せを選んだなら良いことだ。


 「それじゃぁ……」(わたしがハンターになる必要ないじゃん)


 途中で言葉を飲み込んだ。



 自分の部屋に戻り、ベッドに倒れ込む。

 

 「梨花のためにハンターになる予定、だったのに……

  でも、二年間、頑張ってきたし……今さら進路変更ってのもなぁ……」 


 沈んだ気持ちで重くなった体を起こして、盛大にため息を吐きながら窓を開け、力なく外の景色を眺める。


 魔石エネルギーで走る車が静かに走り抜けていく。昔はガソリンなんてものがあったらしい。今、世界を動かしているのはダンジョンから拾ってくる魔石だ。


 その魔石を集めるため、多くのハンターたちが毎日命を懸けて潜っている。


 ――その中に、わたしも加わろうとしている。


 正直、怖い。怖すぎる。

 本当に行けるのかって思う。


 でも。


「……せめて、胸を張れるお姉ちゃんでいないと。自分で決めた道だもん。」


 梨花に自慢されるような姉。

 わたし自身が誇れる自分。


 そのために――わたしの、ちょっとズレ気味な猛勉強の日々が始まる。


 ……ダンジョン構造史の年表なんて覚えても意味ない気がするけど、

 今はそんなこと考えてられない。


 とにかく、進む。

 この一か月頑張って、卒業試験を突破するために。


 ――この時はまだ、卒業試験であんなことになるとは想像もしていなかった。

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