二日目

僕はいつの間にか眠ってしまっていたらしい。朝になっていた。


いつ寝たかも覚えていない。

頭痛は続いているのに、今日は妙に頭が冴えていた。

持ってきていた薬が効いているのかもしれない。


「おはよう」


面会窓から覗き込むように、彼女が言った。

その目つきは、どこか僕を監視しているように見えた。


「はい、これ」


小さな窓からご飯と薬を差し出してくる。

受け取ろうと腕を伸ばすと、なぜか薬だけを離さなかった。


「あの……」


「あっ、すみません」


ようやく手を離すと、僕の顔を一度見てから部屋の奥へ戻っていった。


僕が食事に手をつけようとしたとき、声がした。


「おい、返事しろよ」


また壁の向こうからだ。

あの向こうに何かあるというのか?


「なんだよ」


「おかしいとは思わないのか?」


「だってここは刑務所だから」


「……変わったな」


そう言ったきり、静かになった。


変わってないのは僕だ。

変わったのは、そっちだろ。


そもそも──あいつは夜以外も来るのか?

あの壁の向こう、何になってる?


「飲んだ?」


振り向くと、いつの間にか彼女が立っていた。

薬を飲んだかどうかを気にしているらしい。


僕は彼女の目の前で薬を一気に飲み込んだ。


「この壁の先って、なんになってるんですか」


「……確か、倉庫?」


確かに倉庫、と言った。なら、そうなんだろう。

そうじゃなきゃいけない。

あの声は──倉庫に来てまで話しかけてくる変人らしい。


「死なないよね?」


また唐突な質問だ。だが聞かれた以上、答えるしかない。


「死ぬわけないだろ。理由がない」


理由なんてない。

あの親父も、今はいない。

あれ……なんでいないんだ?

そもそも──父親の名前って……なんだっけ?

そんな疑問を抱えたまま今日を終えた。

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