未知の道 ―― 街道神の小さな加護を広げ、少年は道を拓く。いずれ、世界を変える存在に!!

@habahiro

Route:01 プロローグ

 俺の名はロード。
 


 昔からよく「お前はほんとに好奇心のかたまりだな」なんて言われてきた。

 たしかに、自分でもそう思う。見たことのない道があったら歩きたくなるし、知らない音が聞こえたら確かめたくなる。気になったら止まれない性格だ。

 そんな俺が、本気で人生終わったかもしれない、と幼いながらに思った出来事がある。



 ――まだ幼稚園の頃だ。


 その日、家の前の道をじーっと見つめていた。


 「この道、どこまで続いてるんだろ…」


 そんなことを考えていた時、家の垣根から、ぽとっと黒い影が落ちた。
 

 「あ、ネコだ」


 好奇心スイッチが完全にオン。逃げるネコを追って、俺は夢中で走り出した。

 気づいた時には、もう家が見えなくなっていた。

 
「……あれ? ここ、どこ?」


 胸がぎゅっとして、足がすくむ。不安と恐怖で、呼吸がうまくできない。道を見ても家と似た道がいっぱいで、どっちがどっちか全然わからない。

 
「やっべ……帰れないじゃん」


 泣きそうなのを必死でこらえながら彷徨っていると、小さな祠が目に入った。


 それは古いけど、なぜか温かみのある場所だった。
花やお供えが置いてあって、近所の人に大事にされているのがすぐに分かった。


 あとで知ったのだが、あの祠は昔の旅人が“旅の無事”を願って建てたもので、ロードの家の前の道は旧街道だったらしい。


 八百万の神様がどうとか、おばあちゃんはよく言ってたけど、その時の俺に難しいことは分からなかった。


 ただ――

 祠の前に立った瞬間、不思議な感覚が走った。


 まるで耳元でささやかれたみたいに、声が聞こえた気がしたのだ。

「――ここにいなさい。動いちゃだめだよ」

 もちろん振り返っても誰もいない。
「えっ、今の何……?」


 怖いんだけど、同時に少しだけ安心した。だから俺は、祠の前に座って待つことにした。


 どれくらい経ったのか分からない。

 でも俺の体感では……半日以上は経っていた気がする。


 胸がドキドキして、「早く誰か来てくれよ……」って何度もつぶやいていた。

 その時、向こうからバタバタと走る音がした。

「ロード!!」


 母の声だった。顔は涙でぐしゃぐしゃ。俺を見るなり抱きついてきて、こっちがびっくりするほど強く抱きしめられた。


 「どこ行ってたの! 心配したんだから!」


 その顔を見て、俺も泣いた。

 家に帰ってから聞いた話では、迷子になっていたのは三十分ほどだったらしい。

 
「え、そんなもんだったの?」と本気でびっくりした。俺の中では、太陽が何回か沈んでもおかしくないくらい長かった。



 それからというもの、あの祠の前を通るたびに手を合わせるようになった。
 

 「今日もお願いします」


 「テスト受かりますように」


 内容は小学生らしい願いごとだけど、俺にとって祠は特別な場所だった。



 高校生になると、部活の友達を誘い、祠の周辺の清掃ボランティアにも参加した。


 「ロード、その祠好きすぎじゃね?」
 「いや、まあ……昔助けられた気がしてさ」


 そんな会話をしながら、落ち葉を掃いたり、草を抜いたりした。



 そして、大人になって商社で働き、海外に行くことが多くなると、俺は、道を歩くようになった。
仕事で忙しくても、休日があれば、街を散歩した。

 
「この道、どこにつながってんだ?」
 子どもの頃からの好奇心は変わらない。むしろ強くなった気がする。


 旅行先の市場で店主と世間話をしたり、偶然入ったカフェで常連さんに話しかけられたり。そんな出会いが楽しかった。



 でも――人生はいつも順調とは限らない。

 三十代のある日、体に異変を感じた。
 検査の結果、病名を聞いた時、正直頭が真っ白になった。


 「いや、俺まだやりたいこといっぱいあるんだけど」


 そう言いたかった。



 それでも病気は容赦なく進んでいき、やがて俺はベッドから動けなくなった。

 病室には家族が交代で来てくれた。
 母は俺の手を握りしめ、父は少し離れた場所で黙って見守っていた。


 弟はぎこちなく笑って、

 「兄ちゃん、また散歩しようぜ!」なんて言ってくれた。
その顔を見て、胸があたたかくなった。

 窓の外の景色を眺めながら、ふとつぶやいた。


 「もっといろんな道、歩きたかったなあ……」

 すると、隣で母が涙ぐみながら言った。


 「ロード、いっぱい歩いたじゃない。あなたはずっと、どこに行っても前を向いてたよ」


 その言葉を聞いた瞬間、不思議と肩の力が抜けた。



 最後に思い浮かんだのは、あの祠だった。
迷子の俺に「ここにいなさい」と言ってくれた、あの優しい声。


 あの道を歩いたから、俺はいろんな場所へ行けたんだと思う。

 家族がそばで静かに見守る中、俺はそっと目を閉じた。



 ――また、どこかで新しい道を歩ける気がしながら

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