第14回 星交

佐々木キャロット

星交

 彼の薄い唇が、私の額に触れる。そして、やさしくゆっくりと離れた。そこから熱が湧きだして、私の身体中に広がっていく。もう一度、彼の唇が私に触れる。今度は私の唇に。柔らかなそのシタが、探るように口の中へ入り込む。歯の一つ一つをなぞるように丁寧に撫でて。離れると、私と彼の混ざり合った唾液が名残惜しそうに糸を引く。目を開けると、彼の視線と交わった。彼の大きな黒い瞳に私の顔が映っている。ゆったりとした時間が流れた。本当は一瞬だったのかもしれないけれど。どちらからともなく、再び私たちの唇は重なった。

 彼の大きな手が私のふくらみを辿る。慈しむように、焦らすように撫でる。ゆっくりと、円を描くように私の肌を撫でる。突然、彼のユビが私の肌に食い込んだ。あぁと、思わず漏れ出した声は彼の口に蓋をされる。力強く、それでいて優しく、彼は私を揉みしだく。触られてもいない穴の奥から、生暖かい汁が溢れ出るのを感じる。彼の細く長いユビを私の全身が求めている。

 彼の生殖器を握った。ゆっくりと手を動かし、その固さを味わう。私のものか、彼のものか、生殖器はぬめりを帯び始めた。徐々に手の動きは速くなり、彼の顔に苦悶が浮かび始める。私は他の腕を彼のムネに伸ばした。淡い色の薄いムネ。撫でると、その下に隠れる骨の形が感じられる。私とは違う硬い身体。私の手が小さなでっぱりに擦れると、彼の身体はビクンと揺れた。口を近づけ、彼の愛おしいチクビを啄む。カリカリと弄ぶ。手も休めることはなく、ヌルヌル、ヌルヌルと動かし続ける。アァアァと、彼が鳴く。私の愛に応えるように。

 彼の生殖器が私の穴に触れた。私の小さな穴を押し広げて、ゆっくりと入り込む。彼が動くたびに、ウゥンと声が漏れてしまう。彼の生殖器が私の穴を埋めた。奥まで入ったことを確かめるように、私たちは抱き合った。体温が伝わる。大病を患っているかのように冷たい彼の身体。ひんやりとした手が火照った私には心地いい。

 そっと離れた身体。そして近づく。打たれる度に身体の芯が熱くなる。「ムァーミィ、ムァーミィ」彼が私の名前を叫びながら、必死に愛を伝える。「スォウトァ」私も彼の名前を呼び、その愛に応える。徐々に鼓動が速まっていく。彼の顔が快楽に歪み、荒い息が私の顔に降り注ぐ。私は彼の身体に腕を絡ませ、自分の方へ引き寄せる。二人の身体が重なり、体液が絡み合う。身体の中に彼を感じる。強く、優しく、冷たく、硬く。間隔はいよいよ狭まって、掴んだ腕に力が入る。「ムァーミィ」「スォウトァ」「ムァーミィ」「スォウトァ」

 淫らな衝動が駆け抜けて、私たちは深い宇宙の闇へと溶けていった。


 眩しい光に照らされて、私は目を覚ました。ベッドから這いだし、身体を伸ばしながら寝室を出る。

「オハヨウ、ムァーミィ」

 彼が椅子に座りながら歯を磨いていた。

「オハヨウ、スォウトァ」

 歯ブラシを器用に動かす彼の手が昨夜のことを思い出させ、どこか気まずくなってくる。彼もぼさぼさなアタマを掻きながら照れくさそうに笑う。

 彼は宇宙人。遠く離れた「チキュウ」という星から来たらしい。腕はアシを含めても四本しかなく、その先端は細長いユビに分かれている。口の中にはシタがあり、私の腕のように滑らかに動く。顔と胴はクビで分かれていて、顔がある部分はアタマと呼ぶらしい。身体は冷たく、四十度にも満たない。

 腕、ユビ、シタ、アタマ、体温。身体も、言葉も、何もかもが違う私たち。それでも私たちは愛し合っている。広大な宇宙のその中で、私たちは愛し合っている。

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