エピローグ「黒狼の隣で咲く花」

 あれから、5年の歳月が流れた。

 リオード様と僕が率いる黒狼商会は、大陸全土にその名を轟かせる、王国一の大商会へと成長していた。

 僕が提案した、前世の知識を元にした新しい販売戦略や顧客管理システムは、この世界の常識を次々と塗り替えていった。

 そして、僕が作るお菓子を提供する『カフェ・ルーン』は、王都だけでなく、大陸の主要都市にいくつも支店が作られるほどの大人気店になった。

 いつしか僕は、人々から『灰かぶりの奇跡』とか、『黒狼商会の至宝』なんて、少し気恥ずかしくなるような異名で呼ばれるようになっていた。


 僕たちの関係も、少しも変わらない。

 いや、時間と共に、愛情はますます深く、豊かになっていくようだった。

 リオード様の僕に対する溺愛ぶりは、商会の誰もが知るところで、彼はどんなに忙しくても、毎日必ず僕と一緒に食事をとり、僕が作ったお菓子を「世界で一番美味い」と言って食べてくれる。


 その日、僕は久しぶりに、リオード様と一緒に、あの思い出の庭園を散歩していた。

 一面に咲き誇る青いネモフィラの花畑は、5年前よりもさらに広がり、美しさを増している。

 僕たちの隣には、小さな手が、僕とリオード様の指を、それぞれぎゅっと握っていた。


「おとうさま、みて!ちょうちょ!」


「ああ、綺麗だな、リアム」


 僕たちの間を駆け抜けていく、小さな影。

 黒髪と、金色の瞳。リオード様によく似た、でも、笑った顔は僕にそっくりだと言われる、自慢の息子だ。

 4歳になったリアムは、元気いっぱいに花畑の中を走り回っている。


「本当に、夢みたいです」


 リアムの姿を目で追いながら、僕はぽつりと呟いた。


「5年前、奴隷市場の檻の中にいた僕が、こうして、あなたと、私たちの子どもと一緒に、この景色を見ているなんて」


「夢じゃない。これが、俺たちの現実だ」


 リオード様は、僕の肩を優しく抱き寄せた。


「俺の方こそ、お前と出会わなければ、今頃どうなっていたか。凍てついた心のまま、誰のことも愛さずに、一人で生きていたかもしれない」


「……」


「お前が、俺を救ってくれたんだ、カイ。俺の灰色の世界に、色をくれた」


 彼の言葉が、温かい日差しのように、僕の心に降り注ぐ。

 僕たちは、互いにとっての光だった。

 一人では見つけられなかった幸せを、二人だから、見つけることができた。


「おとうさまたち、はやくー!」


 遠くで、リアムが僕たちを呼んでいる。

 僕とリオード様は顔を見合わせて、同時に笑った。


「愛しています、リオード」


「俺もだ、カイ。世界の誰よりも、お前を愛している」


 唇に、触れるだけの優しいキスを交わす。

 僕たちの幸せは、これからも続いていく。

 この、広くて美しい世界で。

 愛する黒狼の隣で、僕は、一輪の花のように、いつまでも、咲い続けるのだ。

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価値なしと捨てられたオメガの僕が、こっそり作ったお菓子を狼獣人の当主様に見つかったら、なぜか溺愛されています 藤宮かすみ @hujimiya_kasumi

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