異世界でも健康的ルーティンを!!〜健康生活を徹底していたら、いつの間にか世界が平和になっていた〜
SSS
第1話 異世界転生? そんなことよりルーティンだ
気がつくと、真っ白な霧の世界に立っていた。
……ああ、俺、死んだんだったな。
名前は青葉聖司。
四十になったばかりの、ただのオッサンだ。
原因は――過度なHIITで酸欠→転倒→頭を強打。
短時間で心臓に負荷をかける運動に熱中しすぎたか。
我ながら、健康オタクとしては致命的に詰めが甘い。
「はぁ……せっかく積み上げた健康ルーティン、これで全部パーかよ」
そんな自虐を噛みしめつつ、ぼんやり霧の向こうを眺めていると、
「あ、来た来た! いらっしゃいませ~♪」
耳に届いたのは、まるで南国のビーチみたいに明るい声だった。
振り向けば――
白のローブドレス。
ピンクシルバーのゆるふわロングヘア。
巨大なエメラルドグリーンの瞳。
そして、その女神っぽい美女が、机いっぱいの紙を押しのけながら全力で手を振っていた。
……女神だよな、この人。コスプレってレベルじゃない。
「ようこそ神界ダラハラへ!
私は女神セラフィーナ=ルクス=テンテケレイア=セレスティアル=グローリア!
あなたの担当よ! よろしくね♪」
長い。
自己紹介の情報量が多すぎる。
けど――神界って言ったよな今?
ということはお約束のアレか。転生。
「転生させるなら早く頼む、女神様」
俺がそう返すと、彼女はぱちくりと目を瞬かせた。
「えっ、なんで分かったの?!」
「名乗ってたよな? 堂々と」
「うふ……うふふふ……」
急に危険な笑みを浮かべる女神。
そしてヨダレを垂らしながら拳を握る。
「やっぱりバレちゃうかぁ! そっかぁ!
ほら見なさい、人間界にも私のフォロワーちゃんいるじゃない!」
誰に向かって言っているんだ。
……フォロワー?
なんだか妙に現代的な単語が飛んできたんだが。
「見てなさい! いつか絶対バズってやるんだからぁ!」
気合いれてるのは分かるけど、神らしさゼロだぞ。
まあいい。異世界転生といえば――
「なあセラなんとかさん。俺に与えられるスキルって何だ?」
「み、未来予知だと?! 神?! いや神は私か!!」
テンパりながら、机の紙をかき回している。
「私の名前を間違えるとは失礼ね!
セラフィーナ=ルクス=テンテケレイア=セレスティアル=グローリア!!
覚えなさいよ!」
無理だ。
「じゃあセラで」
「雑っ!!」
セラは俺の“履歴書”と書かれた紙を見つめて唸った。
「あなた、本当に人間? ステータスすごすぎるんだけど……」
履歴書ってここ就活会場なのか?
「あ、ごめん! スキルね!
ほんとは私が選ぶんだけど、あなた優秀だから特別に“選び放題”よ♪」
そう言って差し出されたのは――手書きリスト。
「ふふん! 迷うでしょ?
全部この私が厳選した超絶激強スキルなんだから!」
まるい筆跡が女の子らしい。
よく見ると、句読点の横に小さなハートや音符がまぎれている。
癖なのか、それとも神界の流儀なのか──やたら可愛い。
このご時世、全部手書きなんて大変だな。
セラのドヤ顔を横目にリストを眺め……
「これがいい」
一番右下のスキルを指差した瞬間。
彼女はフリーズした。
「はぁぁぁぁーーーー?!
『
なんで?! どうしてそれなの?!」
「異世界の食材は未知だ。成分が見えれば健康管理に役立つだろ」
「理由軽っ!!
そんな地味スキルじゃ世界救えないでしょ!?
もっと派手なのにしなさいよぉ!」
おい、さっき“厳選した超絶激強スキル”って言ってなかったか……?
まあいい。
俺は世界なんか救うつもりはない。
「俺は健康的に暮らせればそれでいいんだ」
「死んでるのに?!」
確かに一度目の人生じゃ健康ルーティンは無駄に終わったのかもしれん。
だが二度目の人生があるなら、今度こそ極めたい。
健康にゴールなんてない。
己が信じるルーティンを積み上げ続けるだけだ。
「――って、なんでガッツポーズしてるのよ?!
勝手に自己完結しないで!!」
「じゃ、スキルはこれで決定な。あとの処理はよろしく」
スタスタ歩き出した俺の足に――
ドンッ!
セラが涙と鼻水まみれの顔でしがみついてきた。
「だ、だめぇぇぇ!!
お願い見捨てないで!!
私が仲間から失った信頼を取り戻すにはあなたしかいないのよぉぉ!!」
……女神、泣き芸うまくない?
天井を見上げながら、つい吹き出してしまった。
「ぷっ……ははははっ!」
「なんで笑うのよ?! こっちは必死なんだけど!」
「悪い……腹筋が……。こんなに笑ったの久しぶりだ」
「しみじみ言うなぁぁ!!」
この女神、本当に人間より人間らしい。
まあ、俺にできることなんてない。
本当にやばくなったら他の神が助けるだろう。
その瞬間、足元に虹色の巨大な渦が現れた。
「じゃ、そろそろ行くわ。……一応世話になった」
「ドライすぎ!!
ちょ、ちょっと待って! 説明が全然――!」
「問題ない。異世界の知識はラノベで予習済みだ」
「そんな堂々と自力で転生する人間いる?! 待てぇぇぇ!!」
胸が高鳴る。
子供の頃に戻ったみたいだ。
――どんな世界が待っていようと関係ない。
今度こそ俺は、俺のルーティンを守り通す。
セラの叫び声を背に、俺は迷わず渦へと飛び込んだ。
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