君に取られたこの色は。
梟の剣士
薄氷の上で、君のために跪く。
きれいな人。
初めて見たとき、そう思った。
きれいな瞳。きれいな声色。きれいな歩き方。
とってもきれいな雰囲気。
どんな言葉で表せばいいのか分からない。涼やかな雰囲気。
でも、
それでも、
それだけでは、
言葉を尽くしても君のきれいな雰囲気は伝わらないの。
夏の日の、特に暑い日の店先に、盥に置かれている氷塊のような。
水色のような、青色のような。
こうして「君」は。
僕から
人は僕を、一目惚れした人間と称する。
そんなことはありません。
僕しか分からないきれいな人。人は君を、きれいな人だと気づいてない。
さわぐ、さわぐ。もう一人のあの子が綺麗と。
理解できない。
あの子よりもきれいな人の方がずっとずっと美しい。
きらキラきらキラ輝いて、
僕の茶黒の目を奪ってる。
初めて会ったその時から、仲良くなれる気がしてたまらない。
ねえ、「君」
何時になったら仲良くなってくれるのでしょうか?
こうして「君」は。
僕から
ヒュッ、
風にたなびく袴が似合うだなんて、知らなかった。
心臓じゃなくて、喉がぎゅうっと悲鳴を上げる。
「君」が僕に与えた黄色い煌めきが喉から手の先、つま先まで。
数段上から僕を見下ろす「君」
夏の宅急便がサラサラと揺らす君の髪。
濃紺の袴。細っこい体躯。ほのかな黄色の白い腕。
頭の中で、鮮やかにはじけ飛ぶ檸檬。
強情な僕はウソをつく。認めてやることなんてできやしない。
こうして「君」は。
僕から
てことこ、てことこ。
ついてくる「君」は愛おしい。
ねえ、「君」
なんで僕の後ろをぴたりとくっついてくるのでしょうか?
問うてもきっと応えてはくれないのでしょ。
酷いひと。
ゆらゆらゆらーん。
君への感情で全部が乱れる。格好ぐらいつけさせて欲しいのに。
僕は君の愛らしさに、純粋さに、ノックアウト寸前!
何度も何度もゆだる脳内。みえない真白の煙があぶれでる。
こうして「君」は。
僕から
さらり さらるらり
さぱりとした髪型になった「君」。
ソワソワと落ち着かなくなってしまった。
今まで気が付いていなかった人も「君」を美しいという。
なんとも不愉快なことだろうか、ほんの少しも見向きしなかったというのに。
少し整えただけでこの変わりよう。
額に赤の鉢巻きを携えていたあの時の「君」はまだ、気がつかれていなかった。
それが、
一週間だけ時がたっただけで。
ほたり、
心の一部が赤暗色に染まる。
こうして「君」は。
僕から
きらきら ふわふわ
どうしようも浮つくこの日。
すこん、と勝手に口から全てが滑り落ちてしまった。
でもね聞いてくれるかな?
そんなつもりじゃあ無かったんだよ、大切な「君」
愛しい「君」
本当はずっとずっと隠しておこうと思ってた。
それでも、あんまりにも「君」は弄んでくるものだから、
落っこちてしまったじゃないか。
酷い「君」
僕の頬は上気して、喉がしまって、思わず走り去ってしまった。
もっとバシッとかっこよくやりたかったのに。
チカチカ キラキラ
黄色が煮詰まって、オレンジになる。
こうして「君」は。
僕から
夕焼けに染まった、「君」は、
一体、何をおもっているのだろうか。
僕に希望を持たせるように中途半端に断って、
それでいて他の異性と仲良くして、
僕の理性をぐちゃぐちゃに混ぜこぜにして、
僕の髪をすくったかと思えば、
他の異性の肩をたたき、
ゆらゆらと踊る。
そんな「君」が、
狂おしいほど愛おしい。
狂おしいほど憎い。
だいっきらいで、だいっすき。
だから、
分厚い仮面をかぶって「君」の前では紳士ぶる。
傍から見れば、全然紳士じゃないだろう。
それでも、
そうしなくてはならないんだよ。
夜を落とし込んだような色の燕尾服を着て、
整髪剤で「君」と正反対な長さの髪を整えて、
どろり、溢れ出す。
こうして「君」は。
僕から
せいぜい上手く飼い慣らしてね?
君に取られたこの色は。 梟の剣士 @The-owl-knight
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