やる気0のベテランギルド員、騙されて買った訳あり物件は魔王城でした〜追放された悪役たちを拾っていったら世界最強の軍隊になってたけど、俺はスローライフしたいだけなんです〜

ウサギ様

第1話:魔王城に住もう

「……あー、確かに街外れとは聞いたんだけどさ?」

「はい。街外れですよね?」


 俺の名前はヴェルズ・ノーマッズ。

 ベテランのギルド員……と聞けば多少聞こえはいいが、日雇いの便利屋みたいなことを長く続けていただけだ。


 とは言っても幼い頃からそれなりの期間、前線に立っていたことで金はそれなりに溜まっていて……まだ若いつもりだが引退して田舎暮らししようと思ったのだ。


 そんなときに隣にいる商人から「訳ありですがいい物件ありますよ。広くて庭付きで家賃も100円! ちょっと街外れですけど」とセールスにあって、酔っていたのもあって何の疑いもせずに契約してしまった。


 いや、そりゃどう考えても怪しいというか、何をどう考えてもマトモな話ではない。


 そして街から離れて山を越えて……。


「アレが契約の物件です」

「……契約の物件、魔王城じゃね?」

「999LDKの賃貸物件ですよ」

「魔王城だよな? 最近討伐された魔王の城だよな?」

「最近、人が亡くなったため事故物件となったところですね」

「……」

「……」

「魔王城だよな?」

「魔王……はて?」


 はて? じゃねえんだよ、はて? じゃ。


 だだっ広い草原のど真ん中にある邪悪な城を前にして俺は商人に吠える。


「おかしいと……おかしいとは思ったんだよ! なんか道中で飛行船に乗ってドラゴンを倒したり神鳥に運ばれて天界にいったりワームホールを通って移動したりしてたから……!」

「まさか私も騙されてここまで来てくれるとは思ってなかったですよ」

「なんか巷で話題の勇者様の冒険譚の道程と被ってね? とは思ってたんだよ。そしてここに来てついに確信した」

「随分と遅くなりましたね」

「お前俺を騙したな!? 仲間だと……信じていたのに……!」

「長旅のせいで仲間意識が芽生えてる」


 おかしいと思ったんだ……家賃100円だったし……絶対裏があると思ったんだ!

 でも、俺は大家さんを信じたかった! 共に旅をした仲間だから……!


「確かにね、元の入居者は魔王だったかもしれません。しかし、人類と魔族の戦争は終わったんですよ。差別なんて流行らないと思いませんか」

「差別とかそういう話じゃなくない!? 魔王城は!?」

「ちゃんと掃除もしていたらデスダークデスキマイラが湧いたりもしませんし」

「そんな掃除してなかったらゴキブリが出るみたいなノリでデスダークデスキマイラが出るような家に住めるか! なんで名前にデスが二回も付いてるんだよ! 自宅で出ていい量のデスの量じゃないだろ!」


 俺たちは魔王城の前でハアハアと息を切らしながら言い合う。


「デスダークデスキマイラぐらい……いいじゃないですかっ! 駅近ですよ!? 駅まで神鳥5分!」

「世界の大半は神鳥で5分なんだよ……!」

「庭も広い! それに地下室もある!」

「裏ダンジョンが出てきてる……!」

「自然の音も素敵!」

「裏ダンジョンから邪神の呼び声が聞こえてきてる……!」


 無理だろ……! どう考えても人が住めるところじゃないだろ!?

 住んでた魔王すげえよ。隅から隅まで地獄だもん。


「そもそも……なんで俺をここに住ませたいんだよ」


 俺は扉の前で大家と話す。


「実は……魔王が勇者により討たれたのは事実なのですが、魔族や魔物を凶悪化させてしまう可能性は残っていまして……。この城がその凶悪化の瘴気の溜まり場で、定期的に魔物を倒さなければならないというか……」

「なんで俺だよ……。勇者にやらせておけよ、破邪の聖剣ないと厳しいだろ」

「勇者様が今は聖剣を使えない状況でして。そこで勇者様が「ヴェルズならボクの代わりにやってくれるよ」とおっしゃってまして」


 聖剣が使えない? というか、あの女……面倒なことをまた俺に押し付けてるな。

 都合よく使いやがって……はあ。


「そのご様子ですと、やはり勇者様の仲間なのですね」

「……危なっかしいからしばらく面倒を見ただけだよ。あいつは本当に」

「こちら、勇者様から預かっていたお手紙です」


 大家から王家の紋章と勇者の聖剣の二つの封蝋がされた如何にも重要そうな封筒を渡され、俺は仕方なくそれを受け取りながら魔王城の扉を開ける。


 ──思っていたよりも瘴気が薄い? いやむしろ中心地のはずなのに、王都の教会並みに正常な空気だ。


 違和感から周りを見渡すと、普通の王族や貴族の城とは違って調度品はないが汚れや埃などはない。

 激しく争った戦闘のあとも見当たらず、不審に思いながらも封筒を開く。


『やほやほー、ヴェルズげんきー? この前は魔竜の大群を押し付けてごめんだっぴ!』


 破き捨てそうになった。

 大家に「まぁまぁ」と宥められるがこのおっさんはこのおっさんで俺を騙した側である。


 王家の封蝋がなければ燃やしていたのに……と思いながら、足を進めて読み進める。


『あれからボク達で魔王を倒すことには成功してさ、魔族にかけられていた呪いも解けたんだけど、瘴気の問題はそんな簡単にはいかないから、ヴェルぴょんにお願いしたくてね。ヴェっちなら引き受けてくれると信じてこの手紙を出したんだ』

「呼び方ぐらい一貫しろよ」

『魔王城自体は聖剣を置いて行ったから大丈夫だと思うけど、時々魔物が来るはずだから、魔王城と帰りに植えていった世界樹を守っていてほしい。聖剣の置き場所は──』


 俺のものでも大家のものでもない足音が聞こえ、少し警戒しながら城の中の一室を開く。

 礼拝堂のような場所。並べられた長椅子と、魔族が信仰する神の像。


 そこで祈りを捧げるひとりの少女がいた。


 魔王と同じ白い髪と白い肌。振り向いてこちらを見る瞳も同様に魔王と同じ赤色をしていた。


「だれ……ですか?」


 まだ幼い声の音色。

 静かなせいか、それとも礼拝堂の造りのせいか、少女の声はオルガンのように響いて聞こえた。


 魔王の血族……か?

 という疑問と共に、少女の頭の両横に見える髪飾りがまるで剣が刺さっているかのように見えたことで話しかけようとした言葉が詰まる。


 いや、あれ、本物の剣が頭の横から刺さってないか? 髪飾りにしては悪趣味だし……仮装祭にもまだ早い。


 というか……あの女の子に刺さってる剣、本物じゃね?


『魔王のひとり娘の頭に刺しといたよ』

「刺しといたよ。じゃねえんだよ……!」

『可愛いからって手を出したらダメだよ?』

「出すか……! というか人の頭に刺すなんて、なんでそんなわけの分からないことを……」


 読み進めると、あのアホ勇者の言葉が続いていた。


『魔王の娘ちゃんは魔王と同じく瘴気を取り込みやすい体質で、放っておけば魔王になる可能性があった。だから、あの子に直接聖剣を刺しておくことで瘴気対策としていて、同時に魔王の娘が魔王を継いで悪き者になったときに、聖剣の悪のみを斬る力によって絶命するという楔にしてある。ボクとしても愉快じゃないけど、そうでもしないと元老院が納得しなかったからね』


 勇者の手紙に眉を顰めていると、白髪の少女……魔王の娘が俺の方を見ていることに気がついた。


 その後も色々と書いてはあるが、言ってしまえば『魔王の娘を殺したくなかったから聖剣を手放した』ということらしい。


 頭に聖剣が刺さった少女は、不思議そうに少し不安そうに俺を見て……。


「ヴェルズ様、ですか?」


 と首を傾げた。

 俺はその言葉を肯定する。


『追伸:ヴェルズのパンツ、やたらステータス補正高かったからタンスから取ったのずっと履いてたけど返した方がいい?』

「あの女ぁ!」


 俺は手紙を破り捨てた。


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