第3話 妖怪譚 ―「かんからこん」

和光は夜の山道を歩いていた。すると、風に乗って「ん」の響きが連なり、五体の妖怪が現れる。

• かん ― 「感」の妖怪。人の心を過敏にし、喜びも悲しみも極端に増幅させる。

• きん ― 「禁」の妖怪。触れるものを封じ、自由を奪う。黄金の鎖をまとい、近づく者を縛る。

• くん ― 「訓」の妖怪。古い言葉を囁き、聞く者を古代の掟に従わせる。

• けん ― 「剣」の妖怪。鋭い影を持ち、争いを呼び寄せる。

• こん ― 「魂」の妖怪。人の精気を吸い取り、異界へと連れ去る。

和光は一体ずつ対峙しながら悟る。

「かん」から「こん」までの妖怪は、心・禁制・掟・争い・魂――人間の生を縛る五つの力の象徴だった。

最後に「こん」の妖怪が囁く。

「お前の魂も境界に溶けよ」

しかし和光は答える。

「魂は境界を越え、言葉の響きに還る」

その瞬間、五体の妖怪は「ん」という一つの響きに収束し、夜の闇へと消えていった。

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