第2話 初仕事

 俺は受付を後にし、依頼が掲示されている所まで行った。


 前に人がわんさかいながらも、依頼内容を読んでみる。


 それとしても、文字を読むことが慣れない。

 なにも疑問に思わずに書類の文字を読んでたけど、見たことない文字の上に日本語が書いてあるような、そんな感じだ。

 正直慣れるまで時間がかかりそう。


 そして最初の依頼だ。

 ”最初の”依頼だから、あまりモンスターを倒す、とかはまだ嫌だ。

 たとえ俺でも倒せる初心者向けの魔物でもだ。


『なんだ。怖がっているのか?』

『違う。ただ単にこの生活に慣れたいからだ。

 どうせお金を稼ぐにあたって、依頼を受注して、モンスターを限界まで討伐しないといけないのだろう?』

『あぁそうだ。そっちのほうが報酬額は多いし、なんたって自分が強くなれる。

 というかそのような生活が目に見えているのなら、モンスターをできるだけ多く討伐するのが普通なのじゃないのか?慣れるならそっちの方がいいだろう』

『そういう意味の慣れるじゃない。』


 そういう意味の慣れるだけど。俺は”最初”が嫌なんだ。

 …クロエは俺が思ったことにすぐ反応して来やがる。

 別に一人で考えながらやるよりは面白いからいいんだけどさ。やっぱりなんかむかつくよね。

 そのうち慣れればいいけど。



 そんなことを考えた俺であったが、クロエはなにも反応せずに黙っている。

 悪かったな、むかつくとか言って。


 そんなこんなで、俺は一番良い依頼を見つけた。


『薬草、「月見草」採取、か。これいいな。』

『ただの月見草集めか?そんなのよりあっちのゴブリン退治…』

『よし行くぞー』


 俺はクロエの話を聞かずにその依頼が書かれている紙をさっきの受付嬢へ持って行った。

 クロエよ。そのうち俺はモンスターを倒すのだ。その時まで待っておけ。


「リセルさん!もう依頼を受注するのですか?」

「えぇ。お金を稼がないと今日の宿代が…」

「あぁそうなのですね!今すぐ受注します!」


 俺がそう苦笑しながら受付嬢に申し出ると、すぐに受注してくれた。

 我ながら仕事ができて良い受付嬢さんだよ。本当に。


「…よし!準備が完了しました!

 タイムリミットは”今日の日没”までです!


 それでは、行ってらっしゃい!!!」



 ◇ ◇ ◇



「水に薄めて初級、中級、上級ポーションと作ることができるのか。

 水に薄めないで作ることもできるが、高難易度だからできる人は限られてきて、そのポーションだけ桁外れで値段が高い、のか。

 ほへー、勉強になるな。」

『そんなところ誰も読まないぞ…』

「別にいいじゃん。俺くらいしかこの依頼受注してないんだし」


 俺は依頼が書かれている紙を手にし、絵で書かれている「月見草」と説明を頼りに、アークトを外れて森の近くまで来ていた。

 なんと、その場所は俺が転生?をした場所と同じであった。

 その時に気づかなかったが、目の前が森で、魔物とかうじゃうじゃいるんだろうなとか思ったけど、クロエが言うには「アークトの近くの森はもう魔物が狩りつくされていて、比較的安全」ということだった。


「そういえば魔物の話をしたけど、魔王とか今存在してるの?」

『存在している。でも最近は勇者パーティに結構押されてて、もう魔王は倒されるっていう噂だ。まぁ…』


「まぁ?」


 クロエは少しだけ戸惑いながらも、言いかけた言葉を胸にしまった。


『いや、なんでもない。』

「ほーん、まぁいいか。」


 俺はなにも聞きださないでおこうとした。

 異世界人を”初めて”召喚できたんだ。それくらい過去の出来事があってもおかしくない。


「んじゃ話は変わるんだけど、魔王が倒されたらこの世界の魔物は居なくなる?」

『居なくなるとは限らない。魔王の手下の魔物は数人いるが、その手下が従えている魔物は、この世に存在している魔物の4分の1くらいにしか過ぎない。』

「4分の1…はえー多いなぁ」

『まぁそれくらい魔物は増幅してしまっているってことだ。だからこの”冒険者”という職業もまだ需要がある。

 というか口より手を動かせ手を。』

「はーい」


 クロエの言う通りに、俺は手を動かす。

 ただ薬草を拾うだけの仕事だ。なんだか花を集めている子供に戻ったみたいで、少しだけウキウキしているがな。

 まぁそういった過去は俺に一つもないんだけど…


 そのまま薬草を拾っていると、一つのことが思い浮かんだ。



 そうだ。魔法だ。


 異世界に来たなら、魔法ができなきゃ何も始まらないのだ。


 ってなことで、



「魔法を教えてください!」


『あぁいいぞ。』


「ほんと!?」



 案外すんなりいけました。

 そしてそのままクロエは説明を始めていった。


 この世界の魔法は、魔力さえあればどんなことでもできるらしい。

 火だったり水だったり風だったり土だったり…いろんなものをこの手から出せるそうだ。

 でも時間を操作するとか、そこらへんの結構大きい出来事は異次元の世界らしい。

 それでも、魔力さえあればなんでもできるらしいのだ。

 まぁそんな魔力を持っている人はこの世に数人くらいしかいなくて、クロエもそのうちの一人だったとか。

 だから俺をこの世界に呼び出すことができたのかとか思ったけど、そんなことはどうでもいいっすよクロエさん。


 魔力を増やすためには限界まで魔法を繰り出せばいいらしい。

 最初のうちはそこまで魔力がないから、毎日毎日コツコツと魔法を繰り出していけば魔力は増えるんだとか。

 ”限界”と言っても、気絶するくらい本気で魔法を繰り出せばいいってものじゃないらしい。

 疲れてきたと体感したのなら、それはもう魔力不足だということだ。

 クラクラするらしい。脳震盪みたいなもんか?


 まぁそれよりもこの世界はいいねぇ。

『努力すれば報われる。』この言葉のまんまだな。



『それじゃあ魔法の使い方について説明するぞ。』

「お願いします。」



 魔法は、所謂イメージだとクロエは言った。

 なんでも、今の状況を脳で思い浮かべて、そして何をしたいのかをその脳の中でイメージする。そしたら空想の中での出来事が実現するということだ。

 非常に簡単だな。…多分?


 Web小説を読んでいた時に、魔法という言葉を聞いて、俺は実践していた体験がある。

 そうだ。中二病だ。

 まぁなんとなく、できないとはわかってるけど、そうなったらいいな程度で、俺はイメージをした。

 結果、できなかった。

 そりゃそうだ。できないに決まってる。うん。

 まぁでもそんな感じでやればいいのかな?なんて思い、俺は自分でやってみた。


 まずは…この状況を脳で思い浮かべる。

 綺麗な草原。足元には束ねられている月見草という薬草。そして、風。

 風に煽られた俺の服はバサリと揺れ、それにつれて目の前にある森も揺れていく。


 そう、これだ。


 俺は手を前に出し、左手でそれを固定した。

 そして、イメージ。


 まずは水だ。俺の手の中で生成されるような、綺麗で、美しくて、美味しい水。

 喉が潤って、とても役に立つ代物。人間の生死に関わる液体。

 みずすいウォーター



「すぅ………っはぁっ!!!」



 一度深呼吸をし、なぜしたかわからない掛け声と同時に俺は目を開けた。

 目の前には、水弾があった。


「お、おぉ??」


 最初はあまり実感がなかったが、ばちゃと下に落ちることもなく、ただ前に出した手の先に水弾があって、やっと実感した。



「…い…い……ぃやったぞぉぉぉ!!!!!!」



 俺は魔法を習得した。

 と同時に――


「あぁ…」


 バタリ、と体が倒れた。

 魔力切れだ。





『…セル!!リセル!!!おい!起きろ!!!!』


 んあ…?もうちょっと寝たい…


『なに寝ぼけたことを言っている!もう日没だぞ!!!』


 ん…?日没…?



 俺は目をこすりながら体をゆっくり起こした。

 そしてアークトのほうを見る。


 ほほー、こりゃ綺麗な夕日ですな。

 赤色に染まっていて、眩しくも暗くもない、明るい光だ…


『って!何を考えているんだ!!!早くしないと依頼が無効になるぞ!!!』


「あっ…」


「うおおおおおおおおお!!!めっちゃ忘れてた!!!!」


 俺は全速力でアークトに走って行った。



 ◇ ◇ ◇



『はははっ!本当に面白い!!』

「あんまり笑うなよ…」

『だって…だって…ふふふっ!』


 俺はクロエに起こされて、全速力でアークトに行った。

 そしてゼーゼーと息を吐きながら受付嬢に依頼達成したことを報告した。

 結構ギリギリだったらしく、まぁでも間に合ったということでお金はちゃんと支給してくれた。本当、ありがたい。


 そして念願の宿に泊まれて、ベッドに突っ伏してる状態だ。

 頭の中ではクロエの笑い声が響いている。少しだけ痛い。うん。


「あ、クロエ。あの気絶って」

『はははっ!……ん?、あぁそうだ。魔力切れだ。』

「だよな」


 もう笑うのをやめていただけますかね…と言おうと思ったけどやめておき、俺はベッドに寝っ転がった。

 そして、窓から見える夜景を眺める。



「なぁ、クロエ。」

『なんだ?』

「今日は、なんだかありがとな。おかげで宿に泊まれたし、飯はなくて腹減ってるけど、めっちゃ助かった。」

『飯はまた明日にお預けだな。それまで空腹紛らわしとけ。』

「なにをしたら紛らわせる?」

『どうせまた森のほうに行くんだから、その行く途中の草でも食っとけ。』

「うわっ、マジかよ…」



 俺は、クロエとそんな他愛もない話をして、就寝した。

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