アラフォー魔女の私、生き別れの娘に一目惚れされました
秋葉小雨(亜槌あるけ)
第1話
重々しい鉄扉が開かれ、ラキナは十四年ぶりに外の世界の大地を踏みしめた。
扉を開けてくれた刑務官に、ラキナは深くお辞儀する。
「今まで、お世話になりました」
顔なじみの刑務官が、「ご苦労だった」と敬礼を返した。
魔術に長けた犯罪者のみが収監される、ヴィンフォルゼン刑務所。その高い高い鉄柵の門に背を向け、ラキナは歩き始めた。
判決が出た際は、十四年よりももっと長い刑期を与えられていたはずだった。
刑期が短縮されたのは、彼女が日々真面目に刑務に取り組み、模範囚となったからだ。
収監される前は二十代だった彼女も、今ではもう三十五歳だった。
長い長い刑期が終わるまでの間、彼女が考えていたのは血の繋がった一人娘のことだけ。
娘に会える日のために、ラキナはずっと、刑務所でのつらい日々に耐えてきたのだ。
娘の父親は、彼女が冒険者だった頃に同じパーティーにいた男だった。
彼に裏切られ、何もかもを奪われ、挙句の果てに捨てられたことが、かえって娘への愛情を一層強くさせたのかもしれない。
たった一人でもお腹の子を産み育てると決め、ラキナは十月十日を必死に生き抜いた。
そんな日々を経てようやく、ラキナは娘と対面することができた。
生まれたばかりの我が子を初めて抱いた時、彼女は初めて知ったのだ。自分の命を投げ打ってでも守りたい。そう思えるほどの強い愛情が、自分の中に芽生えたことを。
それから、あっという間に一年が経った。
その頃にはようやく生活が軌道に乗りだしてきて、明日の食べるものにも困らなくなっていて。
けれどラキナは、娘さえいれば他には何もいらなかった。
そんな幸せな日々を壊したのは、もうとっくに別れたはずのあの男だった。
知らず知らずのうちに、彼に濡れ衣を着せられていたのだ。
その男は、彼女の前から姿を消し去る前にいくつかの罪を犯していた。その中には、一般に重犯罪とされるものもいくつかある。
それを知ったラキナが問い詰めた所、彼は彼女の前から姿を消したのだ。
非常に頭の切れる、狡猾な男だった。
彼のそういった面が、パーティーの運営に役立っていた部分は少なからずある。
けれど、決して“性格の良い”男ではなかった。
そんな人に惹かれてしまったのは若気の至りだったと、今になっては思う。
彼にとっては、ラキナに自分の罪をいくつか肩代わりさせることなど容易かっただろう。
そして、その行為が彼女とその娘の十四年間もの幸せを奪うことなど、何とも思わなかったのだろう。
だが、それでも娘への愛は変わらない。お腹を痛めて産んだ、大切な我が子なのだから。
ラキナの足取りは軽かった。ずっと離れ離れだった娘と、ようやく再会することができるのだから。
彼女の向かう先は、王国郊外に位置するセントレリア孤児院。
そこで、愛娘エレイスが待っている。
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