第43話 未熟
地に伏した
しかし、途中で詠は何かを察知したのか、後方に回避する。次の瞬間、上から女性が降下してきた。その女性は地面に拳を叩きつけるように着地し、砂利を衝撃で吹き飛ばす。それは、まるで砲撃が着弾したかのようにも感じられた。
「……想の方だったか」
空から突如として登場したのは、物音を聞きつけた
一方、詠は凜が想以上の強敵であると直感していた。詠を警戒する素振りがないのは、そもそも詠を脅威とすら感じていないということなのだろう。
「凜さん、私はまだ動けます……」
「そうは見えないな」
無理矢理起き上がろうとする想を見兼ねたのか、凜は想の体を担ぐ。
「想、今回は撤退だ」
「しかし、目的を達成していません……」
「私でも、神器の重要性は理解しているつもりだ。それでも、想の方が大事に決まっている」
凜は想の治療を優先するという判断なのだろう。
「もちろん、想の力が私たちに必要という意味もあるが、単純に私は想が心配だ。他の皆も同じことを言うと思う」
「……」
抵抗する力も残っていない想は、凜に身を任せた。その後、場を離れる前に、凜は詠の方を一瞥する。
「……小娘。追跡は考えない方が良い。死にたいのであれば、別だが」
その言葉を最後に、凜は想を抱えて、姿を消した。
「……思い出しましたか?」
想から語られた言葉によって、詠の頭の中にも一年前の出来事が蘇っていく。
「……違う」
「何が違うのですか?」
「お母さんを殺したのは、お前だ……」
詠の声は震えている。
「私は約束を守るつもりでしたよ。母の死を選択したのは、紛れもなく、あなたです」
「違う、私は……」
「だから、何が違うのですか?」
想は呆れるように、聞き返した。
「……違う、違う、違う!」
気づいたら、詠は荒ぶる心のままに、想へ突撃していた。想を黙らせるため、もしくは否定するため。
そして、心的外傷を想起したことによって、詠の力は解き放たれる。それは、一年前のあの日と同じように。想は絶望だけではなく、そこから生じる憤慨の感情も呼び起こしてしまったのだ。
しかし、敵を睨み殺すかのような威圧感を放つ詠とは対照的に、想は動揺の欠片もなかった。なぜなら、既に勝負が決しているからである。気づいたときには、詠は地面に倒れていた。
想が何かをしたようには見えなかった。それにも関わらず、詠の意識は動くことを止め、体が崩れ落ちたのだ。
「ようやく、終幕ですか。この一年間で、あなたは確かに腕を上げたのでしょう。しかし、鍛えるべきは心だったと思います」
想は詠の息の根を止めるために、ゆっくりと近づいていく。
「敵の言葉に精神を乱されてしまうほどに、未熟。故に、何も守ることができない」
無抵抗の詠に対して、想はアタッシュケースを大きく振り被る。
「……天国で母親と会えると良いですね」
そして、想が詠に止めを刺すために、アタッシュケースを振り下ろした瞬間だった。
「想!」
椿の接近速度を考えると、詠を殺している暇はない。そこで、想は詠から一度離れ、薫の方に退避する。既に、詠の無力化には成功しているため、焦る必要はない。それに、本来の目的は神器を奪うこと。詠の殺害はその手段の一つに過ぎない。
一方、椿は想たちを警戒しながらも、第一に詠の状態の確認を始めた。幸いにも、脈や呼吸はある。寸前で間に合ったと言うべきだろうか。だが、声をかけても、反応が全くないのも事実である。
「椿、その子の容態は?」
「息はありますが、意識不明です。何かの術にかけられた可能性が高いかと……」
「理解した。早く終わらせよう」
外傷が見当たらないのに気絶しているので、霊魂術の影響だと考えられるということである。
「想、どうする?」
「薫さんは剣士以外の二人を足止めしてください」
また、想と薫は密かに話し合っていた。そして、想は七瀬と紫苑を薫に任せる判断であるようだ。
「それは問題ないけど、想があの剣士を相手にするってこと? 大丈夫?」
「通常では厳しい戦いですが、おそらく屍との戦闘後で相手も多少は疲弊しているはずです。また、剣士は真っ先にあの子を心配する様子を見せました。そこに、勝機があると考えています」
「……なるほどね」
その後、抜刀する椿に対して、七瀬と紫苑は少し距離を取る。椿の斬撃に巻き込まれないようにするためである。
「投降するなら、今の内とだけ言っておく」
「その選択肢はありませんので、ご安心ください」
椿は想と向かい合うように二本の剣を構える。既に
「さてと、二対一ですか……」
そう呟いた後、薫は七瀬と紫苑の前に立ち塞がる。対する七瀬は紫苑を後ろから援護するように、テーザー銃を構えている。
「紫苑、油断するな」
「了解です」
そして、戦いの火蓋が切られる。
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