第14話 監視

 船が出航した頃、木霊こだまじまにいる人々はオークションの最終確認を始めようとしていた。


おおさん。船、無事に出航したみたいですよ」


 一人のスタッフが、代表者らしき人物に報告をした。


「それは良かった。だが、問題なのはここからだ」


 返事をした男性の名は大和田しげ、現在五十三歳。今回のオークションの主催者かつ責任者である。


「でも、本当にここまでする必要があったのですか? 全部ではないにしても、客室に盗聴器を仕掛けるなんて……」


 スタッフは徹底した監視体制に疑問を抱いているようだ。


「もちろんだ。オークションを完遂させるため、念には念を置いた方が良い」

「な、なるほど……」


 大和田の真剣な表情に、スタッフは緊張感を覚えた。


「しかも、今回は商品が商品だからな。目玉である『たまきざみらいきゅう』だけは奪われてはいけない」

「神器と呼ばれる代物ですよね。最近、発見されたのでしたっけ?」

「物は元々あった。神器だと判明したのが、最近だというだけでな」


 神器が見た目で判別できないのは当然だが、手に持っても神器であるかわからないことが大半である。例えば、今回の神器の場合、弓矢として使用してみなければ、わからなかったということである。


「確かに、歴史ある美術品とかを実際に使ってみようとは思わないですよね」

「それに、今回の神器は弓箭が揃わないと意味がない。特定の弓で特定の矢を撃って初めて、特別な力に気づくことができたのだ」


 つまり、弓と矢で二種類に思えるが、片方だけでは意味がないので、纏めて一つの神器としているということである。


「ちなみに、神器を自分たちで使おうとかは思わなかったのですか?」

「神器は手に余り過ぎる。いつかは、自分の首を絞めることになるだろう」

「確かに、財産に変換するのが最も賢い気がしてきました」


 大和田の言葉に、スタッフも納得するように頷いた。


「さて、そろそろオークションの最終準備に取り掛かるぞ。特に警備は入念に確認しよう」

「そういえば、今回のために雇った護衛の人、本当に強いのですか? 華奢な女性でしたよ?」

「強いぞ。それも、かなりだ」


 大和田は自信満々に笑っている。







 出航から一時間後、一人の男性が船内の客室に帰ってきた。扉を開けて、部屋の中に入る。しかし、男性は部屋の雰囲気に妙な違和感を覚える。そして、違和感の正体を探ろうとした瞬間、脅威は背後まで迫っていた。


「……!?」


 気づいたときには、男性は羽交い締めにされていた。首を絞められることで、声も全く出せない。最終的に、そのまま男性は意識を失い、床に音を立てて崩れ落ちた。これから、男性の体が再び動くこともない。


おもい、殺して良かったのだよね?」

「はい。情報を聞き出さなければいけませんから」


 部屋で待ち構えていたのは、かおると想だった。更には、もう一人の女性も連れている。その女性はシャツにジーンズとカジュアルな服装だが、スタイルの良さなのか、非常に整って見える。


 その後、想は座り込んで、男性の遺体に手を触れたまま、目を閉じた。瞑想するように動かない想の様子を、後ろの二人が眺めている時間が続く。しばらくすると、何かを終えて、想がゆっくりと立ち上がった。


「想、どうだった?」

「……大当たりですね」


 薫の質問に、想が返事をした。その表情は傍から見ても、喜びに満ち溢れている。


「オークションの情報持っていたってこと?」

「それもそうですが、今回の神器が大当たりということです」


 想の言葉で、薫も喜悦の表情に変化した。


「それは何としても手に入れないとね」

「はい。というわけで、神器の回収はぶきさんに手伝っていただきましょう」


 薫と想が連れていた女性は、衣吹という名前であるようだ。


「もちろんだけど、どうやって盗む作戦なの? 強引に奪うの?」


 衣吹が想に疑問をぶつけた。


「まさか。私たち、盗賊ではありませんので。それに、少しばかり貸していただくだけですよ」


 想は微笑みながら、答えた。遺体が目前にあるとは思えないほど、優しい表情である。


「でも、借りて返さないでしょ?」

「はい」

「それを盗むって言うのだと思うけど……」


 薫は苦笑いをしている。


 その後、想たちは男性の遺体を窓から海に捨て、痕跡を消し去ってから、部屋の外に出た。


「それにしても、こんなに早く監視員を見つけることができるとはね」

「盗聴器がない部屋を見つけるだけですから、簡単な仕事です」


 監視員が客として紛れているとして、その客室にわざわざ盗聴器を仕掛けはしないだろうということである。もちろん、盗聴器に気づいて外した人がいる可能性もあるのだが、数撃てばいつかは当たることだ。


「ところで、他の監視員はどうするの? まさか、一人だけってことはないでしょ?」

「顔もわかったので、今から拘束しに行きます。ここからは、他の皆さんにも手伝っていただきましょう」


 直後、想は携帯を取り出し、しずくに連絡を送った。それは、神器を巡る戦いが開幕する合図なのかもしれない。

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