第40話 夢を食む者と少年たちの銀河鉄道④
不思議な夢を私はみた。
そこはどこか懐かしい喫茶店だった。
四人がけのソファー席に、私はある女と向かい会わせになって座っていた。
目の前にはアイスコーヒーがおかれている。
それをずずっとすするとほろ苦く、すっきりした味わいが口じゅうに広がった。
「こいつはまあ、アフターケアみたいなものなんけど、あなら一つ頼まれてくれませんか。隣の部屋に行って欲しいのです。鍵がかかってるかもしれんが、ぶち壊してなかにはいってください。私はまだこちらの世界でうまく動けません。現実世界のことは人間でないとどうにもできないの。なに、ただとは言いません。このキャンディーを差し上げます。もし狐やスライム、ドラゴンがあなたを誘いにきても、このキャンディーがあればあなたはこちらの世界に戻ってこれます」
黒いスーツスカート姿の胸の大きな女性が私にいう。
目の細い女は私にキャンディー一つで不方針にするようにそそのかしている。
普通に考えたら、割に合わない。
でも私は不思議な氏名感と責任感にかられ、それを成し遂げようと考えた。
私は目を覚ました。
左手には赤い包のキャンディーが握られていた。
妙な使命感のようなものが心の底から湧きだし、私はベランダに出た。
非常用の区切りになっている板を蹴破り、隣室に侵入する。
窓から中の様子をうかがう。
カーテンのわずかな隙間から中の様子を確認することができた。
フローリングの床に痩せ細った二人の男の子たちが寝転がっていた。
数分見ていたが、まったく動く気配がない。
もしかすると……。
彼らの命が危うい。
部屋に一度もどり、私は金づちを工具箱から出して、手に握る。
隣室のベランダに戻り、窓ガラスに金づちを叩きつける。
ガラスの破片が部屋の内側に飛び散る。
手首を切らないように空いた穴に手を差し込み、鍵をあける。
破片を踏まないように部屋の中に入る。
倒れている男の子の首にそっと手をあてる。
小さいほうの男の子は眠っていた。少し大きなほうの男の子はうっすらと目を開ける。
抱き上げると兄弟のあまりの軽さに驚愕した。
救急車を呼ぶと、彼らを救急隊員が連れ出していった。
私はその後、警察の事情聴取をうけることになった。いろいろと聞かれたが、適当に話をでっちあけげた。
さすがに夢の中の目の細い女にたのまれたとは言えなかった。
「いやあ、いろいろときいてすいませんね。もう、帰ってもらって大丈夫ですよ」
丸眼鏡の早瀬という刑事がそう言い、私は解放された。
「あの子達はどうなったんですか?」
と私はきいた。
「弟君もお兄ちゃんのほうはどうにか、一命をとりもどしたようですよ。あっ、これは内緒でお願いしますよ」
と小声でその刑事は言った。
しばらくテレビのワイドショーはそのニュースでもちきりだった。
遊ぶ時間ほしさに幼い兄弟を置き去りにした母親が保護責任者遺棄致死の罪で逮捕された。
部屋に閉じ込められ幼い兄弟は冷蔵庫に残ったマヨネーズや味噌などの調味料を口にいれ、どうにか生き延びようとしたようだった。
幼い兄弟は栄養失調で倒れていた。
この飽食の現代社会においててまある。
意識を取り戻した兄が最初に言ったのは、「お母さん、まだ帰っこないの」という言葉だったという。
ベランダで夜空を見ながら、私は夢の中でもらったキャンディーを袋から取り出し、口に入れた
キャンディーなんていつぶりだろうか。
甘酸っぱい果実の味が口に広がる。
どうしてかはわからないが、星空に浮かぶ雲がSL機関車から出される煙を連想させた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます