第19話 ある日スライムを拾った⑦

 スーラがとりついたコンビニ店員は二十歳の女子大生で、名前を水野麻由みずのまゆといった。彼女の持っていた学生証と免許証で知ることができた。

 水野麻由が着ていた服は血だらけであったので、ごみ袋にいれて捨てることにした。今は僕のジャージを着ている。

 スーラがとりついているので、羞恥心というものが皆無のようだ。平然と僕の目の前で素っ裸になって着替えた。僕はそのきれいな白い裸体を堪能させてもらった。


 スーラが僕の家にきて、七日目。この日のうちにアパートをでないといけない。

 朝になり、そんな不安になやまされているとお腹がすいたとスーラは僕の腕にだきつく。まるでかわいい彼女ができたようで僕は思わず有頂天になる。

 スーラはトーストにマーガリンをぬり、五枚をぺろりと食べきってしまう。人間になったスーラの食欲はかなりのものだ。このあと冷凍うどんをレンジで温め、三玉を一瞬でたべきった。

「人間になってよかったわ。食べ物の味がすごくよくわかるわ」

 スーラはごくごくと牛乳を一パック飲み干す。

「ねえ、また絵本を読んでよ。スーラね、ご主人の声すきなんだよね」

 スーラは椅子に座っている僕の太ももに顔をこすりつける。

 僕はスーラの黒髪をなでながら腹ペコ青虫をよんだ。

 こんな時間が永遠に続けばいいのに本気で思った。

 でも現実は無情でもうすぐこの場所をでないといけない。

 はあっどうしたものか。

 しばらくはネットカフェにでも寝泊まりするとして、その先どうするか。スーラとははなれたくない。でも僕には旺盛な食欲を持つスーラをたべさせる収入源がない。

 不安に頭を痛めながら、スーラの黒髪を撫でると彼女はうれしそうに微笑んだ。

 スーラが人間にとりついてくれて本当によかった。目に見えるコミュニケーションがとれるのはうれしいかぎりだ。


 そうしているとスマートフォンがうるさくなった。

 何だろうかと思いスマートフォンの通話画面をタッチする。

 電話は四日前にうけた企業であった。

 スマートフォンの画面越しに僕が採用されたというむねを伝えた。

 家賃を補助するので、その企業が契約しているアパートに住まないかとも言ってきた。僕はその申し出を受けることにした。

 ニートでは大事なスーラと一緒にいることはできない。


「よかったわ。ご主人が働いてくれないとスーラ食べていけないもの」

 スーラがにこにこと笑いながら、僕にだきついた。女の子らしい、いい匂いがした。

「スーラのためにも一生懸命はたらくよ。君がいたら、それで十分だ」

 心の底から僕はそう思った。

「当然よ。スーラはご主人とずっと一緒にいるよ。だってスーラは寄生生命体スライムのスーラなんだから」

 スーラはさらに僕に強く抱き着く。スーラのやわらかい体と温かい肌のぬくもりが心地よい。その腕の強さはもう離さないよといいているようだった。

 僕は七日前のあの日から、スライムに寄生されていたのだ。

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