第2話 自分の力を確認!?

「ふぅ……疲れた」


駆け足で家に帰り、二階の自室へ直行した俺は、そのままベッドにダイブした。

(まだ心臓の鼓動が落ち着かない……本当に、夢みたいな一日だった)


学校帰りの平凡な夕方は、もう戻ってこないのかもしれない。


「力の種、って言ってたよな……試してみるか」


腹の奥にあるはずの“何か”を探すように意識を沈める。


…………


(いや、全然わからん)


一瞬で不安が襲ってきた。


(え……まさか、さっきの全部……夢?

普通の生活から抜け出せるって思ったのに……)


胸が詰まり、情けないことに泣きそうになった。


──その時だ。


腹の奥で、ぽうっと灯るような暖かさを感じた。


「……え?」


あまりの驚きでベッドの上で跳ね起き、危うく落ちかけた。


「これが……!」


暖かさに意識を向ける。

(頼む……頼むから現実であってくれ……!)


そして──


「あった」


はっきりと、それは“力”として俺に触れ返してきた。


(18年生きてきて……こんなに嬉しかったこと、ないな……)


声も出ないほどの静かな興奮が胸に広がり、自然と涙が滲んだ。



落ち着いた頃、ふと上位神の言葉を思い出す。


『力の種は、いろいろなことで成長するから』


「色々なこと、ってなんだ……? 動かして鍛えるとか、そういう感じなのかな」


試しに力を動かそうと集中してみる。

……全く動かない。


「何も変わらない……やり方が違うのか?」


そう悩んでいるうちに眠気が襲ってきた。

(そりゃ、疲れてるよな……今日は色々ありすぎた)


気がつけば眠りに落ちていた。



「ご飯できたよー! 降りておいでー!」


母の声で目が覚める。


起きた瞬間、すぐ気づいた。


「……強くなってる?」


腹の奥の“種”──さっきより明らかに力が増している。


「まさか……寝て成長したのか? いや、そんな……でも確かに強い」


二度目の呼び声が届き、母の声が少し怒っているのに気づいて慌てて階段を降りた。


夕食を食べ終え、風呂に入り、部屋に戻って時計を見ると19時半すぎ。


(寝てから飯食って風呂入っただけなのに……力の大きさ、倍くらいになってるな)



「よし……確かめるか」


再び腹に意識を集中。

はっきりと“成長”が分かる。


(家に帰ったときの力を10とすると……起きた時が15、今は20ぐらい? 本当に育ってるな……)


そうやって力に集中していると──


(……ん? 今、動いた?)


ほんのわずかだが、力が“俺の意思で動く”のを確かに感じた。


「やっぱり……成長の問題だったのか」


自由に動かせるほどではないが、感覚がつかめてきた。


(でも……このペースじゃ遅い。

もし明日、隕石が来たら? 火山が噴火したら? 大地震が起きたら?

俺は……地球を守れない)


「……それだけはダメだ」


上位神が俺に与えた役目だ。

地球を守る。それが俺の存在理由になってしまった。


だから──片っ端から試した。



1時間後──


「……筋トレかよ」


最も効率よく力が育ったのは、腹筋をはじめとした筋トレだった。


(寝る、食う、鍛える……身体を強くする行動が、そのまま力の成長につながるのか)


しかも──身体そのものも強くなっていた。


コピー用紙の束を一気に破くように、ノート全ページをまとめて破ける。

500円玉も簡単に折り曲げられた。


(やべぇ……本当に怪力だ。制御できなきゃ危ないな……)



「……そろそろ試すか。物語の脚色ってやつ」


ずっと試したくて仕方なかった。


イメージする。


自分の人生という“本”の余白に、ペンで書き足す感覚。


【主人公は自身の身体能力を、上限から下限まで自在に制御できる】


ぽん──と体が淡く光った。


「……おぉ。感覚的には成功した……っぽいな?」


実際に力を“平均的な男子高校生”レベルまで落としてみる。

その状態でノートを破ろうとした──破けない。


「なるほど……これは便利だな」


ただし分かったこともある。


(他人の物語を書き換えるのは……今の力じゃ無理だな。スケールが違いすぎる)


自分だけが限界だ。



「よし、次……」


力を腹から手の先に集め、外へ放とうとする――


……出ない。


「やっぱり……まだ弱いのか。それとも放出そのものが不可能なのか」


これはいったん保留にした。



さて、気になっていたことがある。


(この力……誰かにバレたらマズいよな)


すぐに脚色のイメージに入る。


【主人公の力は、他の者には絶対に分からない】


体が光る。


(やっぱ、脚色すると光るのか……これ、他人に使ったらその人が光るってことか? 危なすぎる……)



「ふぅ……これで一安心、かな」


力の気配を消せる。

まだ誰にも迷惑はかけない。


(強くならないと……身近な人も守れないしな)


だが、まだ何か物足りない。


(……スキル。作れるのか?)


思いついたら即行動だ。


イメージする。


【主人公は相手の情報を細かく知ることが出来る──名を鑑定スキル】


「──っ……!」


頭が割れそうな激痛が走り、そのまま意識が落ちた。



翌朝。


「……まじかよ」


ベッドの上で目を覚ましたとき、昨夜の“挑戦の代償”を思い出して頭を押さえた。


スキル創造は、まだ早すぎたらしい。


だが同時に、はっきりと分かったことがある。


(……確実に、昨日より強くなってる)


慎一の“覚醒の2日目”は、まだ始まったばかりだった。

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