NTR追放男と生き別れた義妹聖女

桜井正宗

NTR追放男と生き別れた義妹聖女

 結婚して1日目。

 俺の花嫁は寝取られた。


 結婚式を終えて1日目――その夜。

 俺はB級案件のモンスター討伐を完遂させて帰宅したところだった。

 部屋の扉が開いていて不審ふしんに思った。

 隙間からなにか見える。

 なんだ、このあえぎ声のようなもの。え……そこにいるのはソレンヌなのか。


「……ヴェナン様っ」

「ソレンヌ、君はなんて罪な女なんだ。挙式1日目で俺になびくなんて。ロワを愛してなかったのかい?」


アレ・・は両親が勝手に決めた許嫁いいなずけ。幼馴染ではあったけれど、彼はつまらない男だもの」


 ――そんな。

 幼馴染で許嫁のソレンヌとは、昨日結婚したばかりだ。初夜は俺と過ごすはずだった。


 だが、ベッドの上には“見知った顔”がいた。

 あの金髪の男は間違いない。


 ギルドリーダーのヴェナンだ。

 元貴族の俺をギルドに招待してくれた恩人だった。ヴェナンは、没落貴族になってしまった俺を救ってくれた。そして、幼馴染のソレンヌとの仲も取り持ってくれた。

 おかげで俺は求婚できたし、幸せを掴めたと思った。


 だが。


 ――これはなんだ――


(ヴェナンの野郎……俺の幼馴染を、嫁を寝取りやがった……クソぉぉ)


 目の前が涙でいっぱいになる。

 視界が歪み、目眩めまいさえする。

 ヒドイ吐き気もする……。

 どうして。

 なぜ、ヴェナンヤツが――いや、ソレンヌ自ら望んだのか。


 もうわけが分からない。

 分かる奴がいたら教えてくれ……。


『ぱんぱんぱんっ』


 ソレンヌはよろこび、ヴェナンは彼女の初めてを奪って満足していた。


 なんで、どうして……うああああああああああああああああああああっ!


 ・

 ・

 ・


 3日後。


【岩の街ロシュ:シャン・フネーブルギルド】


「――ロワ、お前をギルドから追放する」


 なんとなく分かっていた。

 早いうちにヴェナンは俺をギルドから追放すると。

 ヴェナンはソレンヌを自分のモノにするつもりだ。いや、既にソレンヌもそれを望んでいる。

 俺に居場所はない。


 他のギルドメンバーの視線も痛い。

 なぜか白い目で俺をにらむ。


 ……やめてくれ。


 俺の生命ライフはゼロだ。


「分かったよ、ヴェナン」

「わりぃな、ロワ」


 ニヤリと笑うヴェナン。俺の肩に手を置く。その際、小さな声で「ごちそうさま」と言ったのを俺は聞き逃さなかった。


 ……コイツ、殴りたい。

 今すぐグーで。


 だが、ギルドメンバーの前では無理だ。

 人数は向こうの方が多い。

 取り押さえられ、逆にリンチに遭う。

 下手すりゃ殺される。

 なら、俺は素直にギルドを去ることを選んだ。せめてもの抵抗で『爆弾ボムポーション』を落として――。


『――ドォォォォォン』


 爆発が起きた。

 錬金術師である俺にダメージはない。


 そして、奴らも無傷。

 建物だけが吹き飛んだ。


 高レベル、高級装備で固めているバケモノたちめ……。


「ロワ、てめぇ!」


 怒る狂うギルドメンバーたち。

 俺は爆発の煙幕えんまくに乗じて逃走した――。



 ◆



 俺は嫁を寝取られ、ギルドすらも追放された。全てを奪われた。この先、どうやって生きていけばいいんだ……?


 生きる気力も活力もなにもない。

 不思議と涙すら出なかった。

 たぶん、ショックすぎて悲しみに暮れている余裕もないからだ。

 

 ……どうしよう。これから。


 街中を真っ直ぐ歩き、気づけば出入口。

 そうだ、このまま旅に出よう。この街にいても俺の居場所なんてないのだから。

 それに、ギルド連中も直ぐに俺を追ってくる。

 下手すりゃ、騎士団に突き出されるかもしれない。


 それなら。


「いくか」


 今は静かな場所を探したい。

 誰にも邪魔されず、落ち着ける場所を。


 きっと、あるよな……そんな安息の地が。



【サンドル荒野】


 灰のような色をした荒野が広がる。まるで今の俺の心を表現しているような寂れた風景。なにもない無機質な景色。


 少し歩いていると、奥の方から悲鳴が聞こえた。


『誰か助けて!』


 その声を俺は聞き逃さなかった。

 急いで現場へ向かうと、シスター服の女の子が襲われていた。なんだ、あのギョロ目の男。剣で女の子を追い掛け回している。

 ――まて、どこかで見覚えがある。男の方。


「おい、エリーズ! 逃げるんじゃねえ!」

「やめてください……!」


 あの男、もしやヴェナンのシャン・フネーブルギルドに所属している傭兵ようへいじゃないか。……ああ、やっぱりそうだ。

 よく考えれば、あの特徴的なギョロ目は見覚えがあった。一瞬だったが、ヴェナンと喋っているところを目撃したっけ。


 こんなところでシスター服の女の子を追いかけて……いや、考えるのは後だ。俺はあの子を助ける。

 失墜の中だというのに、体が自然を動いていた。


 ふところの中から爆弾ボムポーションを取り出し、俺は投げつけた。



「くらえ!」

「――ぐ、ぬぅ? ぐおおおおおおおおっ」



 ポーションが男に激突すると爆発。ヤツは吹っ飛んだ。

 その隙に俺はシスター服の女の子を救出した。


「大丈夫か?」

「あ、あなたは……」

「俺はロワ。錬金術師だ」

「わ、わたしは聖女のエリーズ。とある国から義理の兄を探すために参ったのですが、あの男に襲われて……」

「詳しい話は後だ!」


 そろそろギョロ目が復活する頃だ。

 この場を早々に立ち去って――



「やりやがったなァ!」



 もう復活しやがったか!

 なら、このとっておきのポーションを使うしかない。

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