政治・経済・哲学が簡単にわかるお喋り劇

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ケインズ経済学

流動性選好説 一万円札と俺ポイントで学ぶケインズ

## ■1 爺さんの問い


「君、孫娘から聞いたよ。ケインズの説明が“異様にわかりやすかった”らしいじゃないか。

 わしにも教えてくれんかね?」


夕方のリビング。

爺さんは新聞を畳み、にやりと笑う。


ユダヤ人(孫娘)は横で腕を組んでいる。


「わたしにもわかるように話せよ? ケインズは名前しか知らん!」


「じゃあ、まず質問ね」


わいは四つのカードをテーブルに並べる。


---


## ■2 四つの“1万円”


わい

「はい、この四つ。全部、1万円ぶんです」


* 日本銀行の一万円札

* Amazonの一万円分ポイント

* Appleカードの一万円分

* 俺が勝手に発行した一万円ポイント


わい

「どれが欲しい?」


ユダヤ人

「そりゃお札だろ! 一番つかえる!」


爺さん

「まあ、当然だな」


わい

「もうケインズの半分を理解したよ。

 人は“交換できるものほど価値が高い”と思う。これが**流動性選好**」


ユダヤ人

「……え、それだけ?」


わい

「それだけ」


---


## ■3 不況とは“みんなが札を離さない状態”


わい

「不況になると、未来が不安になるよね?」


ユダヤ人

「そりゃそうだ」


わい

「だからみんな、お金を使わず“現金”を握りしめるようになる」


爺さん

「わしの世代でも同じだ。景気が悪いと、財布の紐が硬くなる」


わい

「これがケインズの説明する**不況の正体**。

 “心理”が経済を止める」


ユダヤ人

「心理……?」


わい

「君が『俺ポイント』より『お札』を選んだのと同じ。

 不安になると、信用度の高いもの=現金を好む。

 だから市場にお金が流れず、需要が死ぬ」


---


## ■4 ケインズ、嫌味なタイトルをつける


爺さん

「しかし、『一般理論』は読めたもんじゃないぞ。カントより苦手だったわ」


ユダヤ人

「マルクスより意味不明だぞあれ…」


わい

「最初から入門書を読んだほうがいいですよ。

 で、本のタイトルが嫌味なんですよ」


ユダヤ人

「えっ、嫌味なの?」


わい

「当時の主流派経済学者が“特殊な前提に頼りすぎていた”から、

 ケインズはこう言ったわけ。


 **『お前らの方が特殊ケースだろ。

 こっちが一般的な理論だ』って。**」


爺さん

「……確かに皮肉くさい」


---


## ■5 ケインズの結論:未来なんか読めるか


わい

「ケインズの核心をまとめるとね──」


① 未来なんて読めるわけがない

② 不況の時に何もしないのは馬鹿

③ だから政府が金を使え

④ 雇用が埋まるまで支出せよ


わい

「彼は“難解な数式信仰”を嫌ってたから、

 主流派の論文を見て“意味不明だ、未来なんて読めんだろ”と怒ってた」


ユダヤ人

「思ったよりシンプルだな」


爺さん

「うむ。なるほど、これならわかる」


---


## ■6 ヴィトゲンシュタインも同じことを言っていた


わい

「面白いのが、ケインズと仲良かったヴィトゲンシュタインね」


爺さん

「語り得ぬものについて、語るな、か」


わい

「そう。それを経済版にしたのがケインズ」


* ケインズ


> 未来なんて読めん。読める前提の数式は捨てろ。


* ヴィトゲンシュタイン


> わかってないことを語るから滅茶苦茶になるんだ。


ユダヤ人

「えっ、急に哲学っぽいのにわかりやすい!」


爺さん

「彼の説明が上手いんだよ」


わい

「つまり──

 **世界は不確実。だから観測を更新し続ける思考が必要**

 ケインズもヴィトゲンシュタインも、この点で同じ」


---


## ■7 爺さん、突然の勧誘


爺さん

「……君」


わい

「はい?」


爺さん

「うちの一族に入らんかね?」


ユダヤ人

「ヤー、賛成だぞ! 毎日が面白い!」


わい

「いや流れおかしいだろこれ!!」


爺さん

「ケインズをここまで噛み砕ける若者は久々だ。婿として迎えよう」


わい

「話が飛躍してません!?」


ユダヤ人

「未来は不確実だろ? 更新し続けろよ!」


わい

「ケインズの使い方!!!」


---


# ■エピローグ


経済学は難しいと思われがちだ。

だがその正体は、人間の心理、信用、そして“不安への向き合い方”である。


そしてケインズは、そのすべてを

**「どの1万円を選ぶか」**

という直感的な問いにまで落とせるほど、人間的な思想家だった。


だからこそ、私たちは今でも彼の教えを読み続けているのだ。

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