俺の妹が眩しすぎて頭が痛い
火蛍
第1話 俺の妹は太陽の魔術師
この世界には魔術師と呼ばれる人たちが存在する。
魔術師は普通の人には扱えない魔術を使えることから古来より希少な存在とされ、魔術師たちは自らに様々な規則を敷いてその希少性を維持することで地位を守り続けてきた。
そんな魔術師たちの重鎮ともいえる存在が魔術師協会だ。
さて、今この俺クオンは魔術師協会から呼び出しを受けていた。
魔術師協会は世界の様々な場所に支部が存在し、各地にいる魔術師たちはその協会から呼び出しを受けることがある。
協会っていうのはお堅いものだから呼び出されるのはたいていろくでもない時だ。
「クオン君、ここに呼び出された理由はわかるね?」
俺の目の前にいる爺さんがそれらしい態度で俺に確認してきた。
彼の名はエニア、俺たちが住む地域の協会のお偉いさんだ。
「うちの妹が毎度お世話になってます」
「はぁ……これで今月三度目だよ」
俺が呼び出された理由を答えるとエニアは呆れてため息をついた。
今回俺が呼び出されたのは俺自身ではなく、俺の妹のことについてだ。
「もう少しなんとかならんかね」
「俺からも注意はしてるんですがどうも直らなくて……まあ悪いことはしてないんでそこはなんとか」
「そう言いたいのは山々なんだけどね。あんまり名前が知られると我々がマズいんだ」
エニアから嫌味のない小言が飛んできた。
妹のことで呼び出しされるのはこれで何度目かわからない。
おかげでお互いに慣れてしまって雰囲気が緩い。
「まあ、今月もう呼び出されないように頑張ります」
「できればもう呼びたくはないんだがね……行きたまえ」
こうしてなあなあな雰囲気で注意を終えた俺は協会を出た。
協会はお堅いとはいえ話が通じないわけではない。
エニア爺さんなんかがちょうどいい例だ。
さて、呼び出しへの対応を終えた俺は自宅へと戻り、裏口から家の中へと入った。
裏口から入ったのにはちゃんと理由がある。
それは昼間の表口が妹の仕事場の入り口になっているからだ。
二階でゆっくりしていると下から妹の話し声が聞こえてくる。
妹の名はカナタ、俺と同じ魔術師で占い師を営んでいる。
昼間は仕事時間だから話し相手は客……のはずなんだが。
「カナタちゃん。この間の占い見事に当たって友達喜んでたよ」
「本当?いやーそれはよかったぁ」
なぜか妙に会話が弾んでいる。
カナタの占いの内容は様々で、探し人の行方や仕事の幸先といった真面目なものから日常のちょっとした予感の答え合わせや恋占いまで多岐にわたる。
これだけなら他の占い師を営む魔術師たちもも同じだがカナタが明らかに違うのはその人柄だ。
彼女は同族以外に対して排他的な傾向が強い魔術師にあるまじきお人好しなのだ。
カナタの占いの精度はかなり高い。
良い結果が見えれば一緒になって喜ぶし、悪い結果が見えても必ず励ましの言葉を添える。
そういった事情から彼女は主に町の若い子たちから大人気だ。
占い師によく聞く悪い結果が見えた際のトラブルも彼女に関しては見たことも聞いたこともない。
そんな彼女には魔術師としての二つ名がある。
「ありがとう太陽の魔術師様!」
『太陽の魔術師』
それがカナタの二つ名だ。
一定以上の実力を持つ魔術師は人々から二つ名を与えられることがある。
カナタの場合は占いの精度もそうだが完全に人柄によるものだ。
「うんうん。何か迷ったりしたらまた気軽においでね」
カナタがフレンドリーに来客を送り出す声が聞こえた。
ああ、またやってるよ。
この明るい人柄こそが魔術師協会がカナタを問題視している理由だ。
協会は魔術師と一般人は積極的に関わるべきではないと考えているがカナタの行動は見事にその真逆を行っているのだ。
協会の思想には多少窮屈と感じることもあるがトラブルを避けるという意味では俺は概ね同意している。
だからカナタの行動は俺にとっても頭痛の種だ。
俺の頭痛の種は到底なくなりそうにないな。
俺は諦観のため息をついたのであった。
俺の妹が眩しすぎて頭が痛い 火蛍 @hotahota-hotaru
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